距離を取ったら、氷のエースに捕獲された件

米山のら

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番外編

隼ロス ― 危険なおやつ編 ―

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夏休み早々、隼が県選抜の強化合宿に行ってしまい、
俺はリビングのソファーでぐにゃりと溶けたスライムみたいに横たわっていた。

スマホを手に取っては、隼の名前を開いて──閉じる。
また開いて──閉じる。

それを何十回繰り返したのかわからない。

通知ひとつ来ない画面が、胸の奥をじわじわ冷やしていく。

……隼、さみしいよ。

「直央ー、スイカ買ってきたわよー。食べるでしょ?」

母ちゃんが帰ってきて、どさっと袋を置く。

スイカ……かぁ。

『直央、あーん』

黒い笑顔の隼が、大きなスイカを俺へ向けてくる。
かぶりついた瞬間、伝い落ちた汁が俺の首筋をすべって──

隼が、その滴を舌でたどり──
喉元から胸へ、ねっとりと舐め上げてくる。

『ん……あ……っ』

はっ!!
俺は首をぶんぶん振った。

「た……食べない!」

「じゃあ、プリンね。直央の好きな焼きプリン買ってきたから」

焼きプリン……?

『直央、あーん』

隼が焼きプリンをのせたスプーンを差し出してくる。

ぱくり。

『美味しい……』

『味見……させて?』

後頭部をがしっと掴まれて、そのまま顔を引き寄せられる。

くちびるをゆっくり舐め上げられ、
肉厚の舌がぬるりと口の中へ──

『んー! んー!』

はっ!!
俺は首をぶんぶん、ぶんぶん振った。

「食べないから!!」

「直央、隼くんはたった5日合宿に行っただけじゃない。そんなんでどうやってやっていくの?」

だって……隼が、おやつ全部エロにしてくるから……!

って、言えないけどね。

……でも。
5日も隼に会えないなんて。

俺はまたソファにふにゃりと沈み込んだ。

スマホを開き、隼とのチャットをスクロールする。
既読のついてない今朝の『おはよう』に、胸の奥がぎゅっと痛んだ。

ねえ隼、会いたいのは俺だけなの?

『さみしいよ』

そう打って──指が止まる。

……だめだ。重い。

そっとメッセージを消した。

「直央、昌おじさんが箱根の温泉宿にいるじゃない。気分転換に行ってきなさいよ」

温泉……?

『裸、見せるの?』

俺は隼に空き教室の壁に押しつけられている。
光の消えた隼の瞳が、俺をなぞるように見下ろして──

シャツを乱暴にたくし上げられて、胸がさらされる。

『待って……誰か来たら……』

きゅっ、と突起をつままれて。

『あ……っ』

『こんなに……ぷっくりしてるの、誰に見せるつもり?』

爪でかりかりとひっかかれ──

『んんっ……! やめ……』

「やめてっ!!!!!」

「なに突然……」

はっ!!!

母ちゃんの呆れ顔。

パリッとポテチが割れて、母ちゃんの口から落ちた。

「ポテチなら、食べられたのに~~!」

「……はぁ?」

恥ずかしさで、そのまま階段を駆け上がった。

ベッドに倒れ込み、顔をクッションに埋める。

うう……今日はもう無理……

ピコン。

携帯にメッセージが届く。

……隼だ!

『明後日の午後、公開練習。来て』

隼に会える。
全身の細胞が一気に目覚めた。

『行く!』

即返信して──
今度は全力ダッシュで階段を駆け下りた。

「母ちゃん! 明後日箱根行く!
そのまま昌おじさんの温泉宿に泊まってくる!
隼に差し入れのクッキー焼くから手伝って!!」
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