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番外編
隼ロス ー 美人セッター参戦編 ー
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選抜チームの公開練習の日。
俺は女子ばっかりの観客列に埋もれて、波に押されるまま少しずつ進んでいた。
「あ、僕は誰かの弟さんかなぁ?」
声の方向を見ると、練習着姿の選手たちが俺を温かい目で見下ろしていた。
弟って……俺、そんなに子どもっぽく見えるの?
「ちっせえ……」
はぁ?
いかつい顔の選手が俺を見下ろして、赤い顔でプルプルしてる。
「あ、ごめんねぇ。こいつ小動物に弱いだけの、無害なやつだから」
……俺、全国平均より9ミリ低いだけで169センチはあるんですけど?!
むっと口を尖らせて、
「俺……弟じゃなくて、黒瀬隼の幼馴染で」
「うんうん、そっかぁ」
いや、絶対わかってないよねその目!
小さい子を見守る大人の目なんですけど!?
「あの、隼は?」
「あー、今サポーター巻き直してるね。もうすぐ来ると思うけど」
「あ、じゃあこれ──」
俺は、ほぼほぼ母ちゃんがひとりで作ったクッキー(型抜きだけは頑張った!)が入った袋を持ち上げた。
「差し入れの手作りクッキー……ひゃっ!」
横からすっと袋が奪われた──と思った次の瞬間、
今度は俺のほうが、隼の広い胸板にぎゅっと抱え込まれていた。
「直央の手作りは俺の、でしょ」
地の底みたいな低い声。
「ひっ……!」
隼の手が、捕まえた獲物を逃がすまいと絡みついてくる。
「でも、たくさん作ったから……あっ、ちょっ……ひゃあ!」
隼が俺をひょいっと肩に担ぎ上げ、そのまま会場の奥へスタスタ。
「ちょっと、話し合おうか」
あ、これ絶対身体で話し合うやつ!!
これされたら思考全部ふっとんで、俺が完敗するやつ……
って、ここで!?
「隼だけ! 手作りは隼だけだから!!」
「アタッカー集まってー!」
ピタッ。
隼が足を止め、俺を下ろし、不服そうに俺を見下ろしつつクッキーの袋を持って戻っていった。
……助かった……のか?
選手たちがぞろぞろとコートへ向かう。
そのとき。
「あ、鼻血くんだ~」
……え?
見た瞬間、呼吸が止まった。
思わず見惚れるほど整った顔の選手が立っていた。
柔らかい茶色の髪をハーフアップにまとめ、汗に濡れたうなじが妙に色っぽい。
くっきり二重の瞳が月みたいに笑ってる……のに。
目は冷たかった。
「あの……鼻血くんって……」
「試合中に皆の前でだらだら鼻血出して、チーム乱して大会敗退させた“鼻血くん”。神経図太くていいよね、俺だったら引きこもってたかも~」
何、この人……?
「鼻血くんさ~、黒ちゃんにしがみついてるの、ちょっと無理なんだけど。見てるこっちが痛い」
は……?
口元は笑ってるのに、声は刺すように冷たい。
「俺、黒ちゃんの新しいセッターね。じゃ、俺と黒ちゃんのホントの息ぴったり見てって。あ、鼻血くんはお役御免って確認して帰っていいからね~」
くるりと踵を返し、さっさとコートへ戻っていった。
……何なんだあいつ。
胸の奥がざわざわした。
隼を“黒ちゃん”なんて呼ぶあいつにも、
何も言い返せない俺自身にも。
練習はレベルが違いすぎて、思わず見とれるほどすごかった。
美人セッターはコートの真ん中で輝いていた。
指先に魔法が宿ってるみたいにしなやかで綺麗で、
隼とも息がぴったり。
──俺はずっと、隼と息が合ってるって思ってたけど……
あれは隼が合わせてくれてただけだったんだ。
あいつのトスで、隼が高く跳び、強烈なスパイクを決める。
黄色い歓声。
その中で、あいつが隼にぱっと飛びついて抱きつく。
ズキン……
腕を隼に絡め、その姿勢のまま、俺のほうを見上げて──
さっきの笑わない笑顔を浮かべる。
完全な、勝者の顔。
悔しいのに、目が離せない。
どうして?
なんでそんなやつに体触らせてんの?
ねえ隼、
……俺ってお前の何なの?
隼の一番だと思ってたのは……俺だけだった?
「ねぇ、あの二人なんか推せる」
「分かる、氷のエースと美人受け……エロい」
観客の声が俺の胸をずたずたに切り裂いていく。
隼はもう、俺じゃなくてもいいんだ……?
だめだ、ここで泣くな……
俺は急いで会場を後にした。
外に出た瞬間、隼の腕のあたたかさを思い出して胸がちぎれそうになり、膝が折れた。
その場にうずくまって、声にならない嗚咽が漏れた。
美人セッターも、
俺を束縛するくせにあいつには触らせてる隼も、
自分はずっと隼の特別だと信じてた俺自身も、
みんな……大っ嫌いだ……
もう、どうしたら隼の一番でいられるのか分からないよ……
しばらくそのまま動けなかったけど、
こんな顔を誰にも見られたくなくて、ふらつきながら歩き出した。
俺は女子ばっかりの観客列に埋もれて、波に押されるまま少しずつ進んでいた。
「あ、僕は誰かの弟さんかなぁ?」
声の方向を見ると、練習着姿の選手たちが俺を温かい目で見下ろしていた。
弟って……俺、そんなに子どもっぽく見えるの?
「ちっせえ……」
はぁ?
いかつい顔の選手が俺を見下ろして、赤い顔でプルプルしてる。
「あ、ごめんねぇ。こいつ小動物に弱いだけの、無害なやつだから」
……俺、全国平均より9ミリ低いだけで169センチはあるんですけど?!
むっと口を尖らせて、
「俺……弟じゃなくて、黒瀬隼の幼馴染で」
「うんうん、そっかぁ」
いや、絶対わかってないよねその目!
小さい子を見守る大人の目なんですけど!?
「あの、隼は?」
「あー、今サポーター巻き直してるね。もうすぐ来ると思うけど」
「あ、じゃあこれ──」
俺は、ほぼほぼ母ちゃんがひとりで作ったクッキー(型抜きだけは頑張った!)が入った袋を持ち上げた。
「差し入れの手作りクッキー……ひゃっ!」
横からすっと袋が奪われた──と思った次の瞬間、
今度は俺のほうが、隼の広い胸板にぎゅっと抱え込まれていた。
「直央の手作りは俺の、でしょ」
地の底みたいな低い声。
「ひっ……!」
隼の手が、捕まえた獲物を逃がすまいと絡みついてくる。
「でも、たくさん作ったから……あっ、ちょっ……ひゃあ!」
隼が俺をひょいっと肩に担ぎ上げ、そのまま会場の奥へスタスタ。
「ちょっと、話し合おうか」
あ、これ絶対身体で話し合うやつ!!
これされたら思考全部ふっとんで、俺が完敗するやつ……
って、ここで!?
「隼だけ! 手作りは隼だけだから!!」
「アタッカー集まってー!」
ピタッ。
隼が足を止め、俺を下ろし、不服そうに俺を見下ろしつつクッキーの袋を持って戻っていった。
……助かった……のか?
選手たちがぞろぞろとコートへ向かう。
そのとき。
「あ、鼻血くんだ~」
……え?
見た瞬間、呼吸が止まった。
思わず見惚れるほど整った顔の選手が立っていた。
柔らかい茶色の髪をハーフアップにまとめ、汗に濡れたうなじが妙に色っぽい。
くっきり二重の瞳が月みたいに笑ってる……のに。
目は冷たかった。
「あの……鼻血くんって……」
「試合中に皆の前でだらだら鼻血出して、チーム乱して大会敗退させた“鼻血くん”。神経図太くていいよね、俺だったら引きこもってたかも~」
何、この人……?
「鼻血くんさ~、黒ちゃんにしがみついてるの、ちょっと無理なんだけど。見てるこっちが痛い」
は……?
口元は笑ってるのに、声は刺すように冷たい。
「俺、黒ちゃんの新しいセッターね。じゃ、俺と黒ちゃんのホントの息ぴったり見てって。あ、鼻血くんはお役御免って確認して帰っていいからね~」
くるりと踵を返し、さっさとコートへ戻っていった。
……何なんだあいつ。
胸の奥がざわざわした。
隼を“黒ちゃん”なんて呼ぶあいつにも、
何も言い返せない俺自身にも。
練習はレベルが違いすぎて、思わず見とれるほどすごかった。
美人セッターはコートの真ん中で輝いていた。
指先に魔法が宿ってるみたいにしなやかで綺麗で、
隼とも息がぴったり。
──俺はずっと、隼と息が合ってるって思ってたけど……
あれは隼が合わせてくれてただけだったんだ。
あいつのトスで、隼が高く跳び、強烈なスパイクを決める。
黄色い歓声。
その中で、あいつが隼にぱっと飛びついて抱きつく。
ズキン……
腕を隼に絡め、その姿勢のまま、俺のほうを見上げて──
さっきの笑わない笑顔を浮かべる。
完全な、勝者の顔。
悔しいのに、目が離せない。
どうして?
なんでそんなやつに体触らせてんの?
ねえ隼、
……俺ってお前の何なの?
隼の一番だと思ってたのは……俺だけだった?
「ねぇ、あの二人なんか推せる」
「分かる、氷のエースと美人受け……エロい」
観客の声が俺の胸をずたずたに切り裂いていく。
隼はもう、俺じゃなくてもいいんだ……?
だめだ、ここで泣くな……
俺は急いで会場を後にした。
外に出た瞬間、隼の腕のあたたかさを思い出して胸がちぎれそうになり、膝が折れた。
その場にうずくまって、声にならない嗚咽が漏れた。
美人セッターも、
俺を束縛するくせにあいつには触らせてる隼も、
自分はずっと隼の特別だと信じてた俺自身も、
みんな……大っ嫌いだ……
もう、どうしたら隼の一番でいられるのか分からないよ……
しばらくそのまま動けなかったけど、
こんな顔を誰にも見られたくなくて、ふらつきながら歩き出した。
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