転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら

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どうも、未だに氷の騎士団長レイに抱きつかれ、背中をあやしくまさぐられている王子悠里……あ、今世の名前はユリタンです。

……あやしくまさぐられながら、ふと思った。

氷の騎士団長といえば、感情を見せないクールキャラのはずなのに――
この人、どう見ても感情ダダ漏れなんですけど??

てことは……やっぱり攻略済みで、溺愛コースまっしぐらってこと?

いまいち自分の立ち位置が分からない……

頭を打ったって言ってたし……よし、ここは「転生直後あるある」の記憶混濁で乗り切ろう。
どうせそのうち今世の記憶が戻るのテンプレだし。

「あのう……実は俺、記憶があいまいで……」

レイがゆっくりと顔を上げ、へにゃりと悲しそうに眉を下げる。
……いや、めっちゃ表情豊かだな!?

「それで……俺たちのことが、あまり……」

手を取られ、キスを落とされる。
え、やっぱりそういう関係?!

あ、そういえば愛称呼び。
確かレイは攻略済みじゃないと愛称呼びを許さなかったはず。

やっぱり、ストーリー終了後で、俺……攻略済み?

「ユリタン?」

「はい、レイ……」

ぱーっと笑顔。
おおお、背景に花が咲いた!
やっぱりスペックすごい。

「それじゃあ、俺たちって……」

「毎日同じご飯を食べる仲って言ったら分かってくれるかな?」

くさい!! セリフくさすぎる!!
でもこれで分かった。

こくり、と頷いた。

「俺たちは一緒に暮らしていたってことですね」

レイの瞳が揺れる。何か考えている……?
すっと目が細められて、それから甘くささやかれる。

「じゃあ……私たちは一緒になる運命だったことは覚えてる?」

そして差し出される小箱。

「これはユリタンが事故にあった日に渡すはずだった……」

ドキンと胸が鳴った。
これって……まさか……!

ぱかりと開かれたケースの中には――彼の髪色を模した指輪に、瞳色のエメラルドがキラキラと輝いていた。
おお、異世界あるある! 独占欲丸出し、自分色の指輪!

「受けとってくれるね?」

じっと見つめられる。

「ユリタンをあの危険な場所に帰したくない……受けとって、このまま一緒にいてくれるね?」

危険……? なにそれ怖い。

あ、思い出した! この世界、魔物がいるんだった!
帰ったら危ないって……俺の家、まさか主人公ジュリアンと同じ設定の――魔物の森エリア!?

ごくりとつばをのんだ。

「あのう、危ないって……?」

「つい最近も、肉食獣に頭からぺろりと食べられそうになってたよね? それに事故まで……」

獣!? ぺろり?!

記憶が戻らない今、レイといた方が安全じゃない?
だってレイってこの国、いや大陸最強の魔法剣士だし。

……だからこそバッドエンドだと手に負えないんだけれどね。

でも本能が告げている。決して頷いてはいけないと。

レイは超難関の攻略キャラ。攻略後も一つでも間違えれば即闇落ち。
ハピエン確定まで気が抜けない頭痛キャラ!

この紙一重の溺愛が癖になるって女子ははまってたけど、
現実では話がちがう。
いやだ、快楽漬け廃人コースだけは!

レイが俺を見てくる。
じーっと……じーっと……じーっと!!!
圧が……圧がすごい!

「ごめんなさい!!」

へにゃり、とレイの眉が下がる。
あー、罪悪感……

「あの……そうじゃなくて、俺、記憶なくて……もっとちゃんと知り合いたいっていうか――えっ」

ずいっとレイが美しい顔をよせてくる。
顔が近い。近い!

「ちゃんと知り合うためにも婚約しよう?」

「いやだから! 婚約の前に、もっとこう……段階を――」

「じゃあ、仮の婚約にしよう。これ以上獣を寄せ付けないためにも、この指輪をつけて?」

あ、これ知ってる!
氷の騎士団長ルート限定アイテム「守護の指輪」!

魔物はもちろん、悪意ある人間すら寄せつけない。
――ハピエン確定アイテム!

そっかぁー、俺、ハピエン確定だったんだ。
モブが……って思うだろうけど、これも転生あるある。

なら何も心配ないんじゃない?

よし、ここはなぜか続く警鐘に耳塞ごう。

ここは魔物もいる異世界。記憶が戻らないうちは誰かの助けが必須。
それにチート級アイテムもゲットできるし。
レイは大陸最強だし。

……仮だし、仮。

意を決して、こくりと頷いた。

「仮でお願いします」

さっさとレイ色指輪をはめられ、逃げ場を塞ぐように覆いかぶさってくる。

「これでユリタンはもう私のものだね」

「えっ、だから仮って……」

「愛してるよ、ユリタン。私の生涯をかけて」

髪がふわっと顔を覆い、世界は二人きりのよう。

ゆっくりと美しい顔が近づいてきて――
そのまま熱いキスをぶちかまされる。

いや、だから、仮って!
おーい、どこ行った”仮”!!

「王子さーん、失礼しますねー」

ガチャリ、と音を立てて扉が開かれた。

え……?

そこには、以前入院したときに世話になった森下先生が。

「えええっと……?」

驚いた先生の手から、カルテの束がばさばさと落ちる。

ぱちぱちと瞬きをして、俺たちを見て、再度。

「ええええええーっと……?」

あ、先生がバグった。

「ええええええええええーっと、理事長、彼は絶対安静ですからーっ!」

え……理事長!?

レイが身を起こし、冷たい視線を先生に。
あ、これぞ氷の騎士団長……けど理事長!?

「この私がユリタンを身の危険に落とすとでも?唇を重ねている間も、首すじに触れて脈拍を確かめていたよ」

「あ、あー、あはは……えええええーっと、じゃあバイタル確認を……」

「意識明瞭、発熱なし。脈七十規則的。呼吸良好。ただし、記憶に一部軽度の混濁あり……もういいかい?」

「え、えぇっとー記憶混濁というのは……」

「外傷後としては自然な反応で、回復を妨げるものではない――もういいね」

「で、でも、血圧とSpO₂を――」

「……さっさと済ませてくれるかな? 私たちは今、婚約祝いの最中なんだから」

「仮です!!」

レイがユリタンを見下ろして、ふっと微笑む。

「ユリタンは恥ずかしがり屋さんだね」

――いえ、まったく違いますけど!?

「こ、ここここ婚約ですかー……」

「仮です!!!」

……混乱する俺。
先生も転生した?してない?

レイは騎士団長じゃなくて理事長?

え、じゃあこのアイテムって……? ユリタン? 獣?
同じ食事を食べる仲ってなに???
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