転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら

文字の大きさ
9 / 15

しおりを挟む
起きたら、レイは一緒にいなくて、外界から遮断された部屋に、俺と森下先生の二人きり。

「あの、レイは?」

「理事長は外せない会議のため、秘書さんに引きずられて……ごほん、出席されております」

あんな身の危険を感じるほどのポンコツなのに、一緒にいないと静かすぎて……ちょっと寂しいなんて、思ってしまった。

そんな俺を見て、森下先生が口を開く。

「理事長が王子さんが寝ているあいだにスコーンを焼いたそうで……帰ってきたら一緒に食べよう、との伝言です」

ふわりと心が軽くなる。

「あのう、レイって……あんなにポンコツで、騎士団は大丈夫なんですか?」

「き、き騎士団のことは分かりませんが! 理事長は病院グループを束ねる経営者であり、世界から名指しで頼まれる外科医であり……しかも、あの美貌……本当に完璧なのです! ただ……」

ただ?

「王子さんのこととなると……それはもう……ぽっ……ぽぽぽぽぽ!!!」

「……ポンコツなんですね」

レイもいないのに、森下先生はまた汗だらだら。

「あ、あの……今日は王子さんに、大切な話があって……」

深呼吸をして、叫んだ。

「私、森下は転生していません!!!」

……え?

ぱちぱちと目を瞬く俺。やっぱり、そうだったか。

「はい、なんとなくそうじゃないかと思ってました。転生じゃなく――異世界転移ってことですね」

「い、いえ! そうではなくて……!」

森下先生はブラインドを一気に開ける。
そこには朝日に輝く東京の街並み。真っ赤にそびえる東京タワーが視界を貫いた。

冷司……理事長……無いはずのお米……片言の森下先生……
バラバラだった違和感が、一気につながっていく。

「ここは……日本……?」

森下先生が、真剣に頷く。

「はい。王子さんは事故からずっと日本の病院にいるのです」

血の気が引く。

じゃあ、レイは?
レイと俺は一緒に暮らしていて……婚約するほどの関係で……
でも俺には、その記憶がまったくない。

だから、どんなに違和感があっても――転生だと信じるしかなくて。

俺は、はっと息をのんだ。

「もしかして、タイムリープ? 一度死んで、違う人生を歩んでいるとか」

声が震えていた。

森下先生が首を振る。

「王子さんが事故にあって、しっかり時間が経っています。これは現実です」

現実……。

「でも……俺……レイのことを何ひとつ覚えてなくて……」

「そ、そうですよね。記憶混濁が続いておりますから……その、大切な人の記憶だけがすっぽり抜ける症例が、な、ない訳では……あり……」

……ん?

「あっ、い、いいえ! 症例がある、ということで……い、いえ、わけではなく……」

ないって言ってる……?

胸がざわめく。
仕事もなく、帰る家もなく……だからこそ、俺にはレイがいるんだって、自分に言い聞かせてきた。
でも――もし最初からレイと知り合っていなかったとしたら?

「じゃあ、俺は……どこに行けば……」

「こ、ここですぅ!! 理事長の愛は本物ですから! ただ深すぎて……地球の裏側を突き抜けちゃうほど……もはや災害級に厄介で……そ、それに、ほんのちょっとだけ……どす黒くて……こ、こわいんです……っ!!」

……こわい?

「でも俺たちは――」

「い、いえいえいえ! 私が一切把握していなかっただけで……その……今のようにお熱い関係を……そうであってほしい……そうだと信じたい……I hope……」

……英語? 先生の切実な願望? どういうこと……?

どくん。
胸の鼓動が大きく跳ねた。

そうだ――ここが日本なら、あのストーカーもいる。

「……ひっ!」

窓の外、ビルの谷間で光がきらりと跳ねた。
カメラのフラッシュ? それとも――あいつ?

息が乱れ、視界が揺らぐ。

「王子さん!」

森下先生が駆け寄る。

「見つかった……あいつに……!」

食べられなかった辛さ、追われた恐怖、車に轢かれた時の痛み。
全ての負の記憶が蘇り、波のように押し寄せてくる。

「王子さん、しっかりしてください!」

だめ……話しちゃ。
あいつに聞こえてしまう。

俺は震える足で立ち上がり、森下先生を部屋の外へ押し出した。
ドアを閉めると、廊下から先生の声が響いた。

『理事長! 理事長!』

森下先生が電話でレイと話している声が聞こえる。
……そんなに大声を出したら、あいつを呼び寄せてしまうのに。

俺は窓の影に怯えながら、部屋の隅に身をひそめ――ただ、震えていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

婚活アプリのテスト版に登録させられたら何故か自社の社長としかマッチング出来ないのですが?

こたま
BL
オメガ男子の小島史(ふみ)は、ネットを中心に展開している中小広告代理店の経理部に勤めている。会社が国の補助金が入る婚活アプリ開発に関わる事になった。テスト版には、自社の未婚で番のいないアルファとオメガはもちろん未婚のベータも必ず登録して動作確認をするようにと業務命令が下された。史が仕方なく登録すると社長の辰巳皇成(こうせい)からマッチング希望が…

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

処理中です...