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番外編
苦労人・安藤(アレクシスさま)
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俺、安藤耕太。男盛りマシマシの29才、恋人募集中。
堂上国際メディカルセンターの理事を務め、堂上インターナショナルメディカルグループの経営を牛耳る堂上冷司――その第4秘書をやってる。
第1~第3秘書はスケジュール管理と書類に忙殺されてるけど、俺の役割は……冷司に付き添う随行秘書、そして見張り役。
……そう、見張り役。
それは俺がまだ純情一直線だった9歳の時にさかのぼる。
****
父ちゃんは運送会社勤務。倉庫裏の一間きりの長屋で、全員で雑魚寝生活。
母ちゃん以外は全員男。飢えはしないが、満腹にもならない。
そんな変わり映えしない日常を変えたのは、弟たちと飼い犬の雑種コロを散歩に連れて行った、あの日だった。
庶民の街には似つかわしくない黒塗りの高級車が急停車。
そこから――天使が舞い降りた。
サラサラとした金髪が肩口まで流れ、宝石を思わせる大きな緑の瞳がキラキラと輝いていた。
頬はほのかに紅に染まり――まるで西洋絵画から抜け出してきた天使そのもの。
その圧倒的な存在感に、俺たちの心はわしづかみにされた。
きっと、この天使に心を奪われない人間なんて、この世に一人もいない。
その天使が俺を見て、透き通る声で言った。
「名前は?」
や、やべぇ……俺に聞いてる?!
「……安藤耕太」
天使の眉がきゅっと寄る。
「違う。その子の名前」
小さな指先が示したのは――
「……え、コロ?」
天使は頬をバラ色に染め、うっとりとコロを見つめた。
「そう……コロ……わたちのコロ……」
……ん?あれ、この天使、なにか違う?
ムズムズ。口もとがくすぐったい。これが初恋?
それから毎日のように天使が現れた。
「これ、わたちのコロにゃんに……」
差し出されたのは高級霜降りステーキ。
ごくり。セール肉ですらめったに食べられない俺たちの喉が鳴る。
それ以来、家族は天使の差し入れをコロと分け合って大喜び。
まさに天使さまさまで、大歓迎ムード。
でも天使は、じーっと……ただじーーーーっとコロを見つめて、ぷるぷる震えてるだけ。
気がつけば、一日中どこかの物陰からじーーーーっと覗いている……。
電柱の影から。物置の陰から。ブロック塀の隙間から。
コロも最初は美味しい肉に心を奪われてしっぽを振っていたが、次第に耳を伏せ、しっぽを丸めて小屋から出て来なくなった。
――あんなにきれいでかわいい天使なのに、怖いと思ってしまった。
そしてまた、ムズムズ……俺の口もとがくすぐったい。
「耕太、コロどうにかならない?」と母ちゃん。
……うん、やばいのは分かってる。
ある日、公園にまた黒塗りが止まり、天使が舞い降りた。
ジャングルジム越しにこっそり……のつもりで、丸見えの状態でコロを見つめている。
俺はコロと弟たちを逃し、天使と対峙した。
「これ、わたちのコロにゃんに……」
差し出されたのは緑の宝石を散りばめた首輪。
「わたち色のくびわ」
犬に私色って……口がムズムズ。
「いらない。それに、コロが怖がってるから、もう来ないで」
「でも、わたちたち、ずっと一緒って誓いあって……」
誓いあったって……ムズムズ。
「俺、もう行くから。バイバイ」
――バイバイ、俺の天使、俺の初恋。
……と思ったら!
今度は高級車軍団が家の前に到着。
黒スーツの男たちが箱を抱え、美丈夫と女神級の美女が天使を連れて登場。天使の両親だ。
俺たちは今、一家そろって――その恐ろしいほど美形な一家を目の前に正座で勢ぞろい。
……やっぱり、天使を拒否したのはまずかった?
だらだらと冷汗が流れる。
その時、美丈夫が口を開いた。
「この度、私共の息子が安藤さんご一家にご迷惑をおかけしたと聞きまして」
「息子……?」
……娘じゃなくて?
「ふふ……冷司はよく娘に間違えられますが、私と同じ立派なムスコを持った、立派な息子です」
親父ギャグかよ!!ムズムズ!!
さらに――
「安藤家の末息子コロさんを、ぜひうちに輿入れさせていただきたい」
ぽかーん。俺たち一家、口あんぐり。
天使が満面の笑みでうなずく。
「コロにゃんとわたち、一生を誓った仲だから」
口もとがまたムズムズ!!
いや、これは初恋のムズムズじゃない。これはっ――
俺は立ち上がった。
「誓った仲ってなんだよ!コロは犬だ、誓えねぇだろ!犬と添い遂げようとすんな!天使の顔したバカか、バカなのか!それに、コロにゃんじゃねぇ、コロは犬だからコロわんだ!!」
「ワンッ!!!」
コロまで参戦。
俺は美丈夫を指差す。
「あんたもだ!子供の前で下ネタ言うなよ!親父ギャグ寒すぎんだよ!芯まで凍えたわ!親なら――」
「耕太!!!」
母ちゃんの絶叫で我に返り、顔から血の気が引いた。
……やべぇ。大富豪を怒らせた?
父ちゃんの仕事を奪われ、この家も追い出され、借金地獄で一家離散コース?
家族全員、真っ青になって判決を待つみたいに固まった。
だが次の瞬間――
美丈夫と美女がうんうん頷いて拍手。
「やはり君だ。耕太くん、うちの冷司の暴走を止められるのは君だけだ。君を堂上グループに採用したい」
……は?俺、9才なんですけど?
こうして俺は、9才にして堂上グループのぶっといレールに乗っかった。
初恋と引き換えに、弟たちと一緒に英才教育を受け、未来を掴んだのだった。
……まあ、俺だけは冷司の見張り役、もとい暴走ストッパーとして、いばらの道を歩むことになるんだが。
ーーーーー
じつは……安藤もといアレクシスさま、本来はもっと出番があったのですが、作者の独断と偏見で投稿直前にバッサリ(汗)。
その結果、存在感うすめの苦労人に……。
番外編ではリベンジしてもらいましょう!
堂上国際メディカルセンターの理事を務め、堂上インターナショナルメディカルグループの経営を牛耳る堂上冷司――その第4秘書をやってる。
第1~第3秘書はスケジュール管理と書類に忙殺されてるけど、俺の役割は……冷司に付き添う随行秘書、そして見張り役。
……そう、見張り役。
それは俺がまだ純情一直線だった9歳の時にさかのぼる。
****
父ちゃんは運送会社勤務。倉庫裏の一間きりの長屋で、全員で雑魚寝生活。
母ちゃん以外は全員男。飢えはしないが、満腹にもならない。
そんな変わり映えしない日常を変えたのは、弟たちと飼い犬の雑種コロを散歩に連れて行った、あの日だった。
庶民の街には似つかわしくない黒塗りの高級車が急停車。
そこから――天使が舞い降りた。
サラサラとした金髪が肩口まで流れ、宝石を思わせる大きな緑の瞳がキラキラと輝いていた。
頬はほのかに紅に染まり――まるで西洋絵画から抜け出してきた天使そのもの。
その圧倒的な存在感に、俺たちの心はわしづかみにされた。
きっと、この天使に心を奪われない人間なんて、この世に一人もいない。
その天使が俺を見て、透き通る声で言った。
「名前は?」
や、やべぇ……俺に聞いてる?!
「……安藤耕太」
天使の眉がきゅっと寄る。
「違う。その子の名前」
小さな指先が示したのは――
「……え、コロ?」
天使は頬をバラ色に染め、うっとりとコロを見つめた。
「そう……コロ……わたちのコロ……」
……ん?あれ、この天使、なにか違う?
ムズムズ。口もとがくすぐったい。これが初恋?
それから毎日のように天使が現れた。
「これ、わたちのコロにゃんに……」
差し出されたのは高級霜降りステーキ。
ごくり。セール肉ですらめったに食べられない俺たちの喉が鳴る。
それ以来、家族は天使の差し入れをコロと分け合って大喜び。
まさに天使さまさまで、大歓迎ムード。
でも天使は、じーっと……ただじーーーーっとコロを見つめて、ぷるぷる震えてるだけ。
気がつけば、一日中どこかの物陰からじーーーーっと覗いている……。
電柱の影から。物置の陰から。ブロック塀の隙間から。
コロも最初は美味しい肉に心を奪われてしっぽを振っていたが、次第に耳を伏せ、しっぽを丸めて小屋から出て来なくなった。
――あんなにきれいでかわいい天使なのに、怖いと思ってしまった。
そしてまた、ムズムズ……俺の口もとがくすぐったい。
「耕太、コロどうにかならない?」と母ちゃん。
……うん、やばいのは分かってる。
ある日、公園にまた黒塗りが止まり、天使が舞い降りた。
ジャングルジム越しにこっそり……のつもりで、丸見えの状態でコロを見つめている。
俺はコロと弟たちを逃し、天使と対峙した。
「これ、わたちのコロにゃんに……」
差し出されたのは緑の宝石を散りばめた首輪。
「わたち色のくびわ」
犬に私色って……口がムズムズ。
「いらない。それに、コロが怖がってるから、もう来ないで」
「でも、わたちたち、ずっと一緒って誓いあって……」
誓いあったって……ムズムズ。
「俺、もう行くから。バイバイ」
――バイバイ、俺の天使、俺の初恋。
……と思ったら!
今度は高級車軍団が家の前に到着。
黒スーツの男たちが箱を抱え、美丈夫と女神級の美女が天使を連れて登場。天使の両親だ。
俺たちは今、一家そろって――その恐ろしいほど美形な一家を目の前に正座で勢ぞろい。
……やっぱり、天使を拒否したのはまずかった?
だらだらと冷汗が流れる。
その時、美丈夫が口を開いた。
「この度、私共の息子が安藤さんご一家にご迷惑をおかけしたと聞きまして」
「息子……?」
……娘じゃなくて?
「ふふ……冷司はよく娘に間違えられますが、私と同じ立派なムスコを持った、立派な息子です」
親父ギャグかよ!!ムズムズ!!
さらに――
「安藤家の末息子コロさんを、ぜひうちに輿入れさせていただきたい」
ぽかーん。俺たち一家、口あんぐり。
天使が満面の笑みでうなずく。
「コロにゃんとわたち、一生を誓った仲だから」
口もとがまたムズムズ!!
いや、これは初恋のムズムズじゃない。これはっ――
俺は立ち上がった。
「誓った仲ってなんだよ!コロは犬だ、誓えねぇだろ!犬と添い遂げようとすんな!天使の顔したバカか、バカなのか!それに、コロにゃんじゃねぇ、コロは犬だからコロわんだ!!」
「ワンッ!!!」
コロまで参戦。
俺は美丈夫を指差す。
「あんたもだ!子供の前で下ネタ言うなよ!親父ギャグ寒すぎんだよ!芯まで凍えたわ!親なら――」
「耕太!!!」
母ちゃんの絶叫で我に返り、顔から血の気が引いた。
……やべぇ。大富豪を怒らせた?
父ちゃんの仕事を奪われ、この家も追い出され、借金地獄で一家離散コース?
家族全員、真っ青になって判決を待つみたいに固まった。
だが次の瞬間――
美丈夫と美女がうんうん頷いて拍手。
「やはり君だ。耕太くん、うちの冷司の暴走を止められるのは君だけだ。君を堂上グループに採用したい」
……は?俺、9才なんですけど?
こうして俺は、9才にして堂上グループのぶっといレールに乗っかった。
初恋と引き換えに、弟たちと一緒に英才教育を受け、未来を掴んだのだった。
……まあ、俺だけは冷司の見張り役、もとい暴走ストッパーとして、いばらの道を歩むことになるんだが。
ーーーーー
じつは……安藤もといアレクシスさま、本来はもっと出番があったのですが、作者の独断と偏見で投稿直前にバッサリ(汗)。
その結果、存在感うすめの苦労人に……。
番外編ではリベンジしてもらいましょう!
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