8 / 15
8
しおりを挟む
「ミケ……ミーケ」
「ん……なだ?」
布団にくるまってぐっすり眠っていたオレは、しぶしぶ目を開ける。
ま……まぶしい……。
キラキラ笑顔の洸のご尊顔が、寝起きの目に痛い。
「何時だば?」
「もうお昼過ぎだよ」
そのまま、美しい顔が近づいてきて、肉厚の舌がオレの中にねじ込まれてくる。
……酒くせぇ。
オレは手を突き出して、ぺいっと洸の顔を遠ざけた。
「酔ってらのが?」
「朝まで付き合いでね。もう酔ってないかな」
今度は腰をぐっと引き寄せられて、首筋に顔をうずめられる。
クンクンと、オレの匂いを嗅いでくる。
「ミケがいなくて……寂しかった」
……なんじゃそりゃ。
「ミケのために頑張ってきたんだよ。だから……」
ギラギラと、目に情欲を宿しながら、繊細な指がつつつーっとオレの背中をなぞる。
下へ、下へ。ついに、オレのつぼみへ。
「ふ……」
また、洸の舌が容赦なくオレの中に侵入し、逃げる舌をからめとってくる。
だから――
「酒くせえっきゃってば!」
オレはびしっと足を伸ばして、洸の綺麗な顔にお見舞いしてやった。
蹴られてもなお、洸の頬は紅潮し、ぎらつく視線は――オレのオレを、じっと見据えている。
怖い……でも、こいつは囮。
オレのオレ……ほんとに、ごめん。
お前の犠牲は、決して無駄にしない!
オレは子供のときの柔道の稽古を思い出し、洸を横四方固めで封じ込める。
横から腕と足で全身をしっかり押さえ込み、がっちりと。
余計に紅潮し、はぁはぁ……洸の息が荒い。
やった、効いてる!
オレは思わずニマニマ。
が!
押さえてるはずの洸の手が、オレの抑え込んでる体ごとぬるっと動いて、
探るように――いやらしく、オレのオレを撫でてくる。
「ミケには、まだまだ……躾が必要かな」
「ぴっ……!」
「あー…、じゃれてるところ申し訳ないっす。洸さん、特集の関係で、明日には次の現場入りになったっす。なので今日は、ほどほどにお願いするっす」
洸がオレをひっくり返し、そのまま覆いかぶさってくる。
でも、オレはその向こう――
不健康そうなマネージャーの顔を見てた。
そいつが、小さくこくりと合図を送ってくる。
……そっか。
数日あると思ってたのに、もう終わりなんだ。
一晩寝て、目が覚めたら――
そりゃ、夢からも覚めるってもんだ。
***
――そして。
さんざん洸に躾られて、気づけば夕方。
オレ、洸と一緒に外に出てる。
久しぶりの外出、きゃっぴー!
思わず駆け出そうとしたその瞬間――
ピンとつっぱる繋いだ手。
オレの体が、ぐいっと引き戻された。
洸の手が、がっちりとオレの手を握っている。
まるで、手かせみたいに。
「ミケが迷子になったら、危ないでしょう?」
オレはぶんぶんと縦に腕をふる。
でも、洸の手かせはけっして外れない。
……どころか、締め付けが強くなる。
「躾……」
「ぴっ……!」
そして、なぜか猫カフェに連れていかれて……
にゃーにゃー、にゃーにゃー!
猫どもが全員オレに集まってきて、ひざ、肩、頭、腕、背中――
……オレ、猫まみれ。
「やっぱり、同族の絆って強いのかな?」
……なんじゃそりゃ。
「シャーーッ!」
って威嚇してやったら、猫どもまで一緒に洸を威嚇しはじめて。
シャーシャー、シャーシャー!
シャーシャー、シャーシャー!
猫ども、大合唱。
「けけっ……」
オレはおかしくなって、笑ってやった。
こんなに楽しいの、いつぶりだろうか。
洸は、猫どもに威嚇されながらも、オレだけを見てて、
一緒に、にこにこ笑ってた。
その笑顔が、キラキラしてて――
オレの目に、焼きついた。
***
帰ってきて、洸の部屋で最初に目に入ったのは――
だだっ広い部屋に、ちんまりと置かれた、オレの宝物たちだった。
とっちゃの茶飲み。
かっちゃのちゃんちゃんこ。
爺さんのおちょこ。
「……なして?」
「これから一緒に住むんだから……引っ越しかな」
「んだば、オレの城は?」
「もちろん解約したよ」
心臓が、ドクン、と鳴った。
なんでだよ。
オレは明日には出ていくのに!
「あ、それから工場にも、ミケが過労で倒れたこと話したら、退職金をはずんでくれたよ」
目つきが悪いって、何度も何度も面接で落とされて、ようやく見つけた仕事だったのに!
「それと、図書館の本も返しておいたから」
貸し出しがずっと続いて、半年も待ってようやく借りられた、オレのパトラッシュ……!
……オレが一所懸命守ってきた、ちっぽけな幸せなんて、
こいつには小さすぎて――
土足で踏みつけたことにすら、気づかない。
悔しい……。
ぼろぼろと、涙がこぼれた。
「おめば、もうきらいだじゃ」
オレはきっぱりと言って、洸を押しのけた。
ふらりと、あっけなく倒れる洸。
……なんだ、こいつを払いのけるのって、こんなに簡単だったんだ。
オレは、かっちゃのちゃんちゃんこを抱えて、バスルームに籠城した。
窓際にちゃんちゃんこを敷いて、その上に丸くなる。
「ミケ……ミケ……」
ときどき、ドアの向こうから、かさかさ音がして、洸の声がした。
一晩中、洸がドアのそばにいるのがわかった。
オレは静かにドアのそばにちゃんちゃんこを敷き直して、また丸くなる。
そっと手を伸ばして、ドアに触れる。
洸……洸……
眠れなかったオレは、ドア越しのあいつに、心の中でずっと話しかけていた。
洸が撮影に向かう朝まで、オレはずっとそこにいた。
宝物たちはマネージャーに預けることになり、
代わりに「お礼」と書かれた封筒を受け取った。
見たこともねえ札束が、二組も――
「なして、こんだげ?」
「一組はうちの事務所っす。ミケさんが人間だって聞いて、ビビっちゃって……
もう一つは、洸さんが工場から巻き上げたっす。ミケさんを大事にしない工場相手に、頑張ってたっすよ」
「そったごど……」
オレは札束を見つめた。
……せめて、朝に見送りくらいしてやりゃよかった。
もう一度だけでも、あいつのキラキラの顔、見ておけばよかったって――
ちょっと、後悔した。
結局オレは、呪いの上下のまま、外に出ていった。
「ん……なだ?」
布団にくるまってぐっすり眠っていたオレは、しぶしぶ目を開ける。
ま……まぶしい……。
キラキラ笑顔の洸のご尊顔が、寝起きの目に痛い。
「何時だば?」
「もうお昼過ぎだよ」
そのまま、美しい顔が近づいてきて、肉厚の舌がオレの中にねじ込まれてくる。
……酒くせぇ。
オレは手を突き出して、ぺいっと洸の顔を遠ざけた。
「酔ってらのが?」
「朝まで付き合いでね。もう酔ってないかな」
今度は腰をぐっと引き寄せられて、首筋に顔をうずめられる。
クンクンと、オレの匂いを嗅いでくる。
「ミケがいなくて……寂しかった」
……なんじゃそりゃ。
「ミケのために頑張ってきたんだよ。だから……」
ギラギラと、目に情欲を宿しながら、繊細な指がつつつーっとオレの背中をなぞる。
下へ、下へ。ついに、オレのつぼみへ。
「ふ……」
また、洸の舌が容赦なくオレの中に侵入し、逃げる舌をからめとってくる。
だから――
「酒くせえっきゃってば!」
オレはびしっと足を伸ばして、洸の綺麗な顔にお見舞いしてやった。
蹴られてもなお、洸の頬は紅潮し、ぎらつく視線は――オレのオレを、じっと見据えている。
怖い……でも、こいつは囮。
オレのオレ……ほんとに、ごめん。
お前の犠牲は、決して無駄にしない!
オレは子供のときの柔道の稽古を思い出し、洸を横四方固めで封じ込める。
横から腕と足で全身をしっかり押さえ込み、がっちりと。
余計に紅潮し、はぁはぁ……洸の息が荒い。
やった、効いてる!
オレは思わずニマニマ。
が!
押さえてるはずの洸の手が、オレの抑え込んでる体ごとぬるっと動いて、
探るように――いやらしく、オレのオレを撫でてくる。
「ミケには、まだまだ……躾が必要かな」
「ぴっ……!」
「あー…、じゃれてるところ申し訳ないっす。洸さん、特集の関係で、明日には次の現場入りになったっす。なので今日は、ほどほどにお願いするっす」
洸がオレをひっくり返し、そのまま覆いかぶさってくる。
でも、オレはその向こう――
不健康そうなマネージャーの顔を見てた。
そいつが、小さくこくりと合図を送ってくる。
……そっか。
数日あると思ってたのに、もう終わりなんだ。
一晩寝て、目が覚めたら――
そりゃ、夢からも覚めるってもんだ。
***
――そして。
さんざん洸に躾られて、気づけば夕方。
オレ、洸と一緒に外に出てる。
久しぶりの外出、きゃっぴー!
思わず駆け出そうとしたその瞬間――
ピンとつっぱる繋いだ手。
オレの体が、ぐいっと引き戻された。
洸の手が、がっちりとオレの手を握っている。
まるで、手かせみたいに。
「ミケが迷子になったら、危ないでしょう?」
オレはぶんぶんと縦に腕をふる。
でも、洸の手かせはけっして外れない。
……どころか、締め付けが強くなる。
「躾……」
「ぴっ……!」
そして、なぜか猫カフェに連れていかれて……
にゃーにゃー、にゃーにゃー!
猫どもが全員オレに集まってきて、ひざ、肩、頭、腕、背中――
……オレ、猫まみれ。
「やっぱり、同族の絆って強いのかな?」
……なんじゃそりゃ。
「シャーーッ!」
って威嚇してやったら、猫どもまで一緒に洸を威嚇しはじめて。
シャーシャー、シャーシャー!
シャーシャー、シャーシャー!
猫ども、大合唱。
「けけっ……」
オレはおかしくなって、笑ってやった。
こんなに楽しいの、いつぶりだろうか。
洸は、猫どもに威嚇されながらも、オレだけを見てて、
一緒に、にこにこ笑ってた。
その笑顔が、キラキラしてて――
オレの目に、焼きついた。
***
帰ってきて、洸の部屋で最初に目に入ったのは――
だだっ広い部屋に、ちんまりと置かれた、オレの宝物たちだった。
とっちゃの茶飲み。
かっちゃのちゃんちゃんこ。
爺さんのおちょこ。
「……なして?」
「これから一緒に住むんだから……引っ越しかな」
「んだば、オレの城は?」
「もちろん解約したよ」
心臓が、ドクン、と鳴った。
なんでだよ。
オレは明日には出ていくのに!
「あ、それから工場にも、ミケが過労で倒れたこと話したら、退職金をはずんでくれたよ」
目つきが悪いって、何度も何度も面接で落とされて、ようやく見つけた仕事だったのに!
「それと、図書館の本も返しておいたから」
貸し出しがずっと続いて、半年も待ってようやく借りられた、オレのパトラッシュ……!
……オレが一所懸命守ってきた、ちっぽけな幸せなんて、
こいつには小さすぎて――
土足で踏みつけたことにすら、気づかない。
悔しい……。
ぼろぼろと、涙がこぼれた。
「おめば、もうきらいだじゃ」
オレはきっぱりと言って、洸を押しのけた。
ふらりと、あっけなく倒れる洸。
……なんだ、こいつを払いのけるのって、こんなに簡単だったんだ。
オレは、かっちゃのちゃんちゃんこを抱えて、バスルームに籠城した。
窓際にちゃんちゃんこを敷いて、その上に丸くなる。
「ミケ……ミケ……」
ときどき、ドアの向こうから、かさかさ音がして、洸の声がした。
一晩中、洸がドアのそばにいるのがわかった。
オレは静かにドアのそばにちゃんちゃんこを敷き直して、また丸くなる。
そっと手を伸ばして、ドアに触れる。
洸……洸……
眠れなかったオレは、ドア越しのあいつに、心の中でずっと話しかけていた。
洸が撮影に向かう朝まで、オレはずっとそこにいた。
宝物たちはマネージャーに預けることになり、
代わりに「お礼」と書かれた封筒を受け取った。
見たこともねえ札束が、二組も――
「なして、こんだげ?」
「一組はうちの事務所っす。ミケさんが人間だって聞いて、ビビっちゃって……
もう一つは、洸さんが工場から巻き上げたっす。ミケさんを大事にしない工場相手に、頑張ってたっすよ」
「そったごど……」
オレは札束を見つめた。
……せめて、朝に見送りくらいしてやりゃよかった。
もう一度だけでも、あいつのキラキラの顔、見ておけばよかったって――
ちょっと、後悔した。
結局オレは、呪いの上下のまま、外に出ていった。
243
あなたにおすすめの小説
「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された
あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると…
「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」
気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めましてです。お手柔らかにお願いします。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しております
「大好きです」と言ったらそのまま食べられそうです
あまさき
BL
『「これからも応援してます」と言おうと思ったら誘拐された』のその後のお話
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
リクエストにお答えしましてその後のお話🔞を書きました。
⚠︎
・行為に必要な色んな過程すっ飛ばしてます
・♡有り
気づいたらスパダリの部屋で繭になってた話
米山のら
BL
鎌倉で静かにリモート生活を送る俺は、極度のあがり症。
子どものころ高い声をからかわれたトラウマが原因で、人と話すのが苦手だ。
そんな俺が、月に一度の出社日に出会ったのは、仕事も見た目も完璧なのに、なぜか異常に距離が近い謎のスパダリ。
気づけば荷物ごとドナドナされて、たどり着いたのは最上階の部屋。
「おいで」
……その優しさ、むしろ怖いんですけど!?
これは、殻に閉じこもっていた俺が、“繭”という名の執着にじわじわと絡め取られていく話。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
距離を取ったら、氷のエースに捕獲された件
米山のら
BL
無口でクール、誰も寄せつけないバレー部の“氷のエース”隼。
そんな完璧な隼が追いかけてくる相手が――
よりによって、才能ゼロで平凡な幼馴染の俺(直央)。
バレー部を辞めようとした日から、
距離を置こうとするほど逃げ道を塞がれ、気づけば抱え上げられてて……いや、何で!?
氷の瞳の奥に潜んでいたのは、静かな狂気と、俺だけへの独占欲。
逃げたいのに逃げられない。
“氷のエース”に愛され続ける、青春ど真ん中(?)の恋物語。
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる