色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

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証言者たち

ブラウグルン共和国・モルデン

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 大陸歴1710年5月15日・ブラウグルン共和国・モルデン

 駅馬車を乗り継いで二日、イリーナ・ガラバルスコワとクララ・クリーガーはパルラメンスカヤ人民共和国の首都アリーグラードから、ブラウグルン共和国の都市モルデンにやって来た。

 この街は、五十五年前の “イグナユグ戦争” で、帝国軍と共和国軍との激しい戦闘と略奪で焼け野原となり、その後の約三年間は帝国の支配下にあった都市だ。ここでの共和国派の反乱をきっかけにしてブラウグルン共和国は、ブラミア帝国からの再独立を果たした。
 再独立後、十数年近くかけて現在の程度まで復興したという。今では共和国の第三の都市として繁栄している。

 ブラウグルン共和国での公的な歴史書をパルラメンスカヤ人民共和国でも読むことができる。それによると、エリアス・コフをはじめとするモルデン派閥の指導者たちが、共和国内で最初にモルデンで武装蜂起し帝国から街を奪還したと書いてある。それがきっかけとなり、帝国軍が共和国全土から撤退することになったという。その後、コフ達は他の共和国派のリーダー達との権力闘争を勝ち抜き、その後、約十四年間トップの権力者として君臨していた。

 帝国の時代に書かれた書籍では、コフ達の武装蜂起の際、モルデンを占拠していた帝国軍には一人の死傷者もなく撤収したとある。武装蜂起が起こったにもかかわらず、不思議なことに帝国軍との武力衝突はなかったと伝わっていた。
 これは何か矛盾していると感じる。
 武装蜂起で死傷者が一人もいないということはあり得るのだろうか?
 その後の共和国内での権力闘争では、共和国の者同士の内戦が短期間ではあったが起こり、この内戦では死傷者が出たと歴史書には書いてあった。

 モルデンの街壁の近くで何かの建物を建設をしている作業員がたくさんいるのがイリーナとクララの目に入った。そして、その脇に細長い鉄を二列につなげて並べている。それは、南の方へと延々と伸びていた。以前、話を聞いたことがあるが、あれが線路というものだろう。

 ブラウグルン共和国で十数年前に蒸気機関が発明され、それを動力源とした蒸気機関車が完成し、その有効性が分かると共和国は実用化のため、国家予算を組んでズーデハーフェンシュタットの近くからモルデンまで鉄道を敷くことにしたそうだ。鉄道が完成すると、モルデンからズーデハーフェンシュタットまで、駅馬車を乗りついで二日かかっていたものが、たったの八時間程度で行くことができるという。まさに夢のようだ。
 イリーナとクララは蒸気機関車と言うものを見たことが無いが、もし、二人の故郷、アリーグラードまで鉄道が敷かれるとなったら、ズーデハーフェンシュタットからアリーグラードまで馬車で五日もかかっているところを、二十時間程度で行くことができるだろう。
 それが実現するのはいつの事だろうか。

 二人が乗る駅馬車は街壁の中に入り、しばらく進んで停車場で止まった。
 モルデンの滞在は二日間。今日のところは、まずは、宿屋を捜し、その後、街を観光する。明日の午前中は、ユルゲン・クリーガーの弟子だったオットー・クラクスと会う約束ができている。いろんな話が聞けるのが楽しみだ。

 停車場の係員に聞いて、安い宿屋の場所を教わったので、そこに向かう。
 小さな宿屋で、受付には老人が座っていた。彼と適度な世間話をした後、部屋に荷物を置くと、早々に観光で街に繰り出した。
 観光と言ってもやはり自分たちが調べていることについて、何か参考になるようなところを回る。

 そういえば、ブラウグルン共和国はユルゲン・クリーガーの生まれ故郷ではあるが、 “裏切り者” として評判はすこぶる悪いと聞いていたので、二人はクララが彼の孫であることは、あまり共和国領内では話さない方がいいと思った。

 イリーナとクララは街を少し散策した後、モルデンの歴史資料館にやって来た。
 ここは解放の後に建てられたもので、資料館の前には共和国の解放の指導者エリアス・コフの銅像も建てられている。この国では彼が英雄なのだ。
 二人は入場料を受付で支払い、中に入る。
 内容はエリアス・コフの生涯を中心に“人民革命”がメインの展示となっていた。
 ユルゲン・クリーガーのことに言及している物はあるにはあるが、やはり裏切り者としての記載であった。そして、その量は多くない。

 予想はしていたが期待外れな展示にうなだれながら二人は資料館を後にし、宿屋を戻った。
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