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序章
肖像画
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イリーナは家に帰るために、クララの部屋を出た。クララはイリーナを玄関まで見送るため、その後を付いてくる。
イリーナは階段を下りて広い玄関ロビーまで来ると、壁に掲げてある大きな肖像画を改めて見上げた。
肖像画の人物の顔は斜め前を向いていた。やや短く整えられた茶色い髪と茶色い瞳。なかなかのイケメンだ。臙脂色の軍服に勲章がいくつか描かれていた。肖像画は腰のあたりまで描かれてあって、剣も柄の部分だけが銀色に描かれていた。
「ねえねえ。この人がお爺様?」
イリーナは肖像画を指さしてクララにたずねた。
「そうだよ」
イリーナは、肖像画とクララの顔を二度、三度と見比べてみた。
「そういえば、ちょっとあなたに似てるかも」
「でしょ?」
「いつ頃の絵なのかしら?」
「お爺様が、帝国に留まることになってからだから、多分、五十年と少し前の絵ね。当時、人気者だったお爺様の肖像画を何枚も国中に掲げることになったみたい。“英雄と共に国を守ろう”みたいなスローガンと一緒にね。“人民革命”の時にほとんど燃やされたみたいだけど、何枚か残った内の一つって聞いているわ」
「そうなんだ」
イリーナはもう一度肖像画を見上げた。
「でも、“英雄”っていうから、もっとごっつい感じの人かと思ってたわ」
「性格も穏やかだったよ。まあ、私が知っているお爺様はとっくに軍を辞めていたから、軍人だった頃のことは知らないけど」
「ふーん」
「絵に描かれてる剣は、そこに本物が飾ってあるよ」
クララはそう言うと肖像画の横の壁を指さした。
肖像画の隣に、剣が鞘に入れられた状態で縦に二本、そして、その下に短いナイフが三本が横に並べられ壁に綺麗に飾られていた。
それを見たイリーナが再び質問をした。
「剣のデザインが違うわね」
「上のはブラミア帝国の剣で、下のはブラウグルン共和国の物だって」
「そうなんだ…。ということは、これで人を何人も斬ったってことね」
「そうそう。多分、レジデンズ島の魔術師やソローキン帝国軍司令官もその剣で斬っているはず」
「へー」
ちょっと生々しい話を聞いて、イリーナは少し後ずさって、剣から距離を取った。
二人がユルゲン・クリーガーについて話をしていると、そこに屋敷の召使いナターシャ・ストルヴァが現れ、話しかけてきた。
「お帰りですか?」
「はい」
「自転車は玄関横に置いておきました」
「ありがとうございます」
イリーナは礼を言った。
ナターシャが玄関を開けると、言うとおり自転車はすぐそばに置いてあった。
イリーナは自転車を押しながら、クララに別れの言葉を言う。
「手紙は帰りに出しておくわ。じゃあ、また学校でね」
「またね」
クララも返事をした。
「お気をつけて」
ナターシャが最後に声を掛ける。
「ありがとう」
イリーナはそう言うと、自転車を押して門まで進み、門から出たところで自転車にまたがった。帰り道は下り坂ばかりなので、楽に帰れそうだ。
イリーナが自転車を軽く一度漕ぐとゆっくりと進みだし、徐々に加速していった。
風が心地よく頬を撫でる。
◇◇◇
オットーとソフィアに手紙を出してから約三週間後、オットーとソフィアから返事が返って来た。内容は共に、会ってユルゲンの話をしても良いという返事だった。
ユルゲンの弟子が三人とも存命なのは嬉しいことだった。いろいろと興味深い話が聞くことができるだろう。
イリーナとクララは、それぞれもう一度、オットーとソフィアと手紙をやり取りして、実際に会う日程を決め、旅の準備に取り掛かった。
まずは、ブラウグルン共和国の第三の都市モルデンでオットーに、そして首都ズーデハーフェンシュタットでソフィアと会うことになる。二週間ほどの旅になる予定だ。
イリーナは階段を下りて広い玄関ロビーまで来ると、壁に掲げてある大きな肖像画を改めて見上げた。
肖像画の人物の顔は斜め前を向いていた。やや短く整えられた茶色い髪と茶色い瞳。なかなかのイケメンだ。臙脂色の軍服に勲章がいくつか描かれていた。肖像画は腰のあたりまで描かれてあって、剣も柄の部分だけが銀色に描かれていた。
「ねえねえ。この人がお爺様?」
イリーナは肖像画を指さしてクララにたずねた。
「そうだよ」
イリーナは、肖像画とクララの顔を二度、三度と見比べてみた。
「そういえば、ちょっとあなたに似てるかも」
「でしょ?」
「いつ頃の絵なのかしら?」
「お爺様が、帝国に留まることになってからだから、多分、五十年と少し前の絵ね。当時、人気者だったお爺様の肖像画を何枚も国中に掲げることになったみたい。“英雄と共に国を守ろう”みたいなスローガンと一緒にね。“人民革命”の時にほとんど燃やされたみたいだけど、何枚か残った内の一つって聞いているわ」
「そうなんだ」
イリーナはもう一度肖像画を見上げた。
「でも、“英雄”っていうから、もっとごっつい感じの人かと思ってたわ」
「性格も穏やかだったよ。まあ、私が知っているお爺様はとっくに軍を辞めていたから、軍人だった頃のことは知らないけど」
「ふーん」
「絵に描かれてる剣は、そこに本物が飾ってあるよ」
クララはそう言うと肖像画の横の壁を指さした。
肖像画の隣に、剣が鞘に入れられた状態で縦に二本、そして、その下に短いナイフが三本が横に並べられ壁に綺麗に飾られていた。
それを見たイリーナが再び質問をした。
「剣のデザインが違うわね」
「上のはブラミア帝国の剣で、下のはブラウグルン共和国の物だって」
「そうなんだ…。ということは、これで人を何人も斬ったってことね」
「そうそう。多分、レジデンズ島の魔術師やソローキン帝国軍司令官もその剣で斬っているはず」
「へー」
ちょっと生々しい話を聞いて、イリーナは少し後ずさって、剣から距離を取った。
二人がユルゲン・クリーガーについて話をしていると、そこに屋敷の召使いナターシャ・ストルヴァが現れ、話しかけてきた。
「お帰りですか?」
「はい」
「自転車は玄関横に置いておきました」
「ありがとうございます」
イリーナは礼を言った。
ナターシャが玄関を開けると、言うとおり自転車はすぐそばに置いてあった。
イリーナは自転車を押しながら、クララに別れの言葉を言う。
「手紙は帰りに出しておくわ。じゃあ、また学校でね」
「またね」
クララも返事をした。
「お気をつけて」
ナターシャが最後に声を掛ける。
「ありがとう」
イリーナはそう言うと、自転車を押して門まで進み、門から出たところで自転車にまたがった。帰り道は下り坂ばかりなので、楽に帰れそうだ。
イリーナが自転車を軽く一度漕ぐとゆっくりと進みだし、徐々に加速していった。
風が心地よく頬を撫でる。
◇◇◇
オットーとソフィアに手紙を出してから約三週間後、オットーとソフィアから返事が返って来た。内容は共に、会ってユルゲンの話をしても良いという返事だった。
ユルゲンの弟子が三人とも存命なのは嬉しいことだった。いろいろと興味深い話が聞くことができるだろう。
イリーナとクララは、それぞれもう一度、オットーとソフィアと手紙をやり取りして、実際に会う日程を決め、旅の準備に取り掛かった。
まずは、ブラウグルン共和国の第三の都市モルデンでオットーに、そして首都ズーデハーフェンシュタットでソフィアと会うことになる。二週間ほどの旅になる予定だ。
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