ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
57 / 240
ボーンネルの開国譚2

二章 第十九話 黎明

しおりを挟む

ヒュード族の魔法により谷を超えた後、ギーグで見られたような竹林の中しばらく歩くとようやく開けた道が見えてきた。

「あれだ、見えてきたぞ。······何年ぶりに見る光景だ」

そう言ってイッカクが指した方角にはかなり遠く離れた場所からもハッキリと見える巨大な百鬼閣があった。百鬼閣は昔から鬼幻郷を象徴する建物であり、以前から住んでいた鬼族の者にとっては思い入れのある建物なのだ。しかしながらそこからは以前とは違う物々しい雰囲気がありエルムは思わずエルムは足がすくんでしまった。

「でもよ、イッカク。昔は周りにあんなの無かったくねえか?」

目の前には百鬼閣の下の部分が隠れるように巨大な城壁が張り巡らされ、そこには多くの見張りの者がついていた。

「10年掛けてあんなでけぇもん建ててやがったのか、クソッ」

「それに、こうも視界が開けてると近づきにくいな」

ジン達が立っている場所からその城壁まではかなりの距離があり、その間は草原が広がるのみで何も身を隠すような場所がなかった。つまり百鬼閣に攻め込むにはどうしても敵の視界に入ってしまうのだ。

「じゃあ二つ目の作戦で。クレース、パール、ボル頼むね、気をつけて」

「任せろジン、怪我はするなよ」

「すぐに会いに行くねジン」

作戦というのは至って単純でクレース、パール、ボルの三人が陽動部隊として正面突破する。そしてその間にジンたち残りのメンバーが百鬼閣へと近づいていくのだ。

「パール、お前大丈夫か? 無理しなくても俺が変わっていいんだぜ」

元々陽動部隊の方に入っていた閻魁と離れてしまったため陽動する方の負担が大きくなってしまっていたのだ。

「トキワ、パールは本気を出せばお前より余裕で強いぞ安心しろ」

「うん、ボクもいるカラ。トキワはジンとエルムたちをしっかりマモッテ」

そしてジンは作戦を決行する前に皆の目の前に立ちそこに視線が集まった。

「私から一つだけ。誰も死なないで、ただそれだけ。元気な姿でまたみんな会おうね。それじゃあ、行こうか」

その号令を聞き、皆は胸に高まる興奮を抑えつつ作戦を実行する。


「ーロスト」

トキワたちは音を遮断して回り込むように百鬼閣へと向かい、一方クレースたち三人は堂々と最短距離の道を通って正面から百鬼閣の方へと向かっていった。

そしてクレースたちは目の前の敵の視線など気にすることなく、わざと敵の視線に入り込むようにゆっくりと歩く。

「パール、あそこの城壁に人質はいるか」

「いないよ。全員敵」

「なら、問題はないな······」

クレースはそれを聞いて少し口角を上げた。悪魔のようで底知れない雰囲気が感じ取れるその出立ちは、確実な強者のみ纏うことを許されたものであったのだ。そしてクレースたちが800mほどの距離まで近づいた時、見張りをしていた兵士からうっすらと三人が近づいて来ているのが見えた。

「なあ、あそこになんかいねえか?」

「ん? なんだあれ」

見張りをしていた男は不思議に思いつつも持っていた単眼鏡を覗いた。すると突然、男は単眼教をコトンと落とし、ドサっと尻餅をついた。

「お、おいどうしたんだよ」

突然尻餅をついたその男の顔はいつの間にか恐怖の色に染まっていた。

「て、敵だぁああッ!」

恐怖が混ざったその男の叫び声は辺りに響き渡り一瞬にして視線が集まる。そして敵の情報を聞いていた兵士たち全員に鬼気迫るような緊張が走った。

「全員、魔力砲弾を装填しろ!」

その号令を聞いて見張りの兵士たちは城壁の上で魔力砲弾に魔力を込め始める。この魔力砲弾は込められた魔力を数倍の威力に変換し、一点に集める。そしてそこからは強力かつ超高速の魔力弾が発射されるという仕組みを持っているのだ。

「バレたよクレース」

「ああ、少し道を開いてくる」

クレースは威雷を鞘から抜いた。それに伴い周りには黒色の雷が重たい音を立て生まれる。
冷たい目で眼前の壁を見つめ、一歩目の足を前に出した。
その足は一歩また一歩と轟音を響かせ前に出ていく。
雷を纏った踏み込みに空気が振動した。その踏み込みは一歩ごとにさらに重たく変化する。

「ー雷震流、」

「魔力砲弾、装填準備完了!」

しかしその声は轟音に打ち消される。
威雷の刀身は光沢のある黒色を纏い、その踏み込みに呼応する。

「発射!!」

その声とともに10歩目の踏み込みで地面を抉った。雷が邪魔な風圧を跳ね除け、重力を無視するように空を飛ぶ。
世界の上下が反転されたようにその”雷”は下から上に移動する。

魔力弾はただ地面にぶつかり、ただ地形を抉る。

最高点に到達したところでその雷は人の姿に変化する。
威雷を纏った黒い雷は巨大な刀身を形作る。威雷を両手に持ち替え、何時しか下に見える城壁を見下ろす。

黎明レイメイ

巨大な雷の刀は高速で振りかざされ静かに城壁に触れた。

「な、なんだ? 何も起こらないゾッ······」

兵士の一人がそう言いかけた瞬間、約1kmに連なる硬い城壁は傾く。

「おいどうなってる!?」

そこへ少し遅れるように城壁の真ん中から雷とともに亀裂が生まれる。
その亀裂は中央から広がりすぐさま両端にまで広がった。
そして城壁の上半分が傾き、滑り落ちていく「。
綺麗に切断された断面を見せ、城壁の上にいた兵士たちごと崩れ落ちたのだ。

「はぁ?」

思わず、立ち止まってその光景を見ながらイッカクたちはその光景に目を奪われた。

「いい陽動ダネ」

「わたしもジンについて行けばよかったあ」

少し拗ねるパールをよそに城壁は凄まじい轟音とともに地面に崩れ落ちて、爆風を巻き起こした。
そしてスタッと着地してクレースは目の前をさらに進んでいくのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...