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ボーンネルの開国譚2
二章 第十八話 理不尽な嘘
しおりを挟む「どうしてここにいるんだッ」
ガルミューラは地面に叩き潰されて顔面を地に埋めていたトキワにそう言った。するとトキワはむくりと立ち上がってガルミューラの方を見た。
「おう、久しぶりだな! て言っても昨日か。叩き潰されるまでは完璧だったぜ」
「黙れ侵入者が、もう食料はやらんぞ」
ガルミューラは再びいつものように冷静な様子に戻るとトキワのことを睨みつけた。
「ったくぅ、もう俺らは拳を交えた仲だろ? 気楽に行こうぜ兄妹」
「全く、馴れ馴れしいにも程があるぞ。そもそもなぜ人間のお前が上空から降って来るんだ」
「いやぁ、まあ話せば長いっつうかぁ······」
するとそこに少し離れた場所に着地したジン達に加えてドルトンやスタンク、それにミルたちヒュード族が集まってきた。
「あー!、お兄ちゃん達また来たんだ!」
ミルはトキワとボルを見つけると嬉しそうに下に降りてきた。
「待て、ミル」
しかしながらガルミューラはそんなミルを静止してその場所から少し距離をとった。そしてそこへ来たジン達を警戒するような目で睨みつける。
「お前達もこいつと同じ侵入者か? 一体ここに何の用だ。返答によってはここにいる者全員でお前達を捕らえさせてもらうぞ」
「急に押し掛けてごめんなさい、私はジン。それでこっちはクレースにガルにパールにゼグトス。昨日はどうも食料をありがとうございました」
ガルミューラはジンを見て思わず目を見開き驚いた表情を見せた。
(コイツの魔力はどうなってる、それに後ろ二人も······昨日はボルかトキワと言うやつがリーダー格と思っていたが)
「構わん、集落の者はもう大丈夫か?」
少し警戒を解いてガルミューラは手に掛けていた水麗を納めた。
「はい、もうみんなすっかり元気になりました」
「な? ジン。コイツいい奴だろ?」
「なっ」
「うん。とってもいい人達」
「んんっ······それでだ、食料でないのならここへは何の用で来た」
「ああ、そういえばお前らは何も聞いてねえのか? なんか上の奴らからよ」
トキワの言葉にガルミューラ含め、ヒュード族のもの達は不思議そうにした。
「何の話だ? 私は特に何も命令は受けていないぞ」
「ボクたちの敵が集落の人を百鬼閣で明日処刑をするってユッテタ。だから全員で百鬼閣に殴り込みにイク」
「なんだと!? そんな情報こちらには届いておらんぞ」
ガルミューラは焦った様子を見せてドルトンやスタンクの方を向いた。
「い、いや私も存じ上げませんでした」
「俺もっすよ、今聞きました」
「ということは食料庫にいる部隊には情報が入っていないということだな。しかしどうしてそんなことをッ」
「そういや俺も聞きてえことがあったんだ。俺はどうも集落のやつが言ってたような酷い事、お前らがやるとは到底思えねえ。本当にお前らは10年前ここに元々いた奴らを殺し回ったのかよ」
「何の話だ? 殺す? 元々住んでいた?ここは元からヘリアル様の治める場所だろ。そこに鬼族の罪人が住み込んできたのではないのか」
「何言ってんだてめえッ! 俺たちは罪人なんかじゃねえよ!! 俺たちの仲間はお前らの仲間に一体何人殺されたと思ってんだ!」
メルトは感情が抑えきれず、その場で叫んだ。確かに元々住むものからすればかなり理不尽な言いがかりだったのだ。
「ヘリアルというヤツはとんだ嘘つきだな。全く」
その会話を聞いていたヒュード族は皆お互いの顔を見合わせて再び不思議そうな顔を見せた。その顔に嘘は無く、皆がガルミューラの言った通りの認識を持っていたのだ。そして目の前の真剣な顔の一行を見て自分たちの認識が間違っているのではないかという気持ちが少し心の中に生まれる。
「私たちは罪人が集落から出ないように見張りもつけていたのだ。もしその話が本当なら······少し考えねばならんな。トキワ、本当に嘘偽りは述べていないな」
「ああ、本当だ。命懸けんぜ」
そのトキワの本気の言葉にスタンクやドルトン達は思わず息を呑んだ。
「百鬼閣にいる幹部達は相当な強さだぞ、正直言って正面突破は難しい」
「安心しろ、こちらも無策で突っ込むわけではない」
「······分かった。お前達は急いでいるのだったな、百鬼閣はあそこの谷を越えるのが近道だ。私たちは他の集落を警護する」
ガルミューラが指さした方向には落ちればひとたまりも無いような深く険しい大きな谷があった。
「信じてクレルノ?」
「······もしその話が本当ならば、私たちは無実の者に腹を切ってでも足りないことをしてきたということだ。確かに今更だが、考えてみればとても極悪人には見えんな」
ガルミューラはエルムのことを見つめてそう言った。
「お前達ッ! この者たちを向こうまで運べ」
「ハッ」
その命令を聞いて空撃部隊はジン達の立っている場所に魔法陣を展開した。魔法陣は緑色に輝き辺りに上昇気流を発生させる。
「ありがとな、助かったぜ」
「バイバイ、お兄ちゃんたち」
そしてヒュード族が見守る中、谷を越えたジン達はそのまま百鬼閣の方角へと向かっていった。
その頃、カッコよくひとりで戦うと決めた閻魁は若干の寂しさを感じながらも辺りの魔物を全て倒しきっていた。
「うむ、そうは言ったものの、ここからはどう行けばよいのだ」
閻魁と多くの魔物が暴れたせいで森の木々は倒れ、先ほど見ていた景色はすっかり変わってしまっていた。そのため閻魁は向かっていた方角がわからなくなったのだ。
「うむ、こっちだな」
そしてこんな時も平常運転の閻魁は百鬼閣とは全く別の方角に向かって行ってしまったのだ。
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