ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
104 / 240
中央教会編

四章 第十七話 最悪の前兆

しおりを挟む
「私にはもう、この命を犠牲にしてでも守りたい存在ができた。······だから、私は兄貴を助けに行くつもりはない」

(素直になれ)

「····レイ、お母様を失ったあなたにまた守る存在ができたことはとても嬉しいわ。お兄様のことは任せて」

(素直になれよ)

「レイ·······」

「ジン、コイツの決めたことだ。無理に首を突っ込む必要はない」

「······うん」

(エルムに言われただろ?)

「でもせめて敵の居場所だけは協力させてもらうね。パール、お願いできる?」

「うん!」

ゼグトスが不在なため、感知魔法の得意なパールに頼むことにした。手がかりとなる魔力は本当にごくわずかだったけれども、パールの魔法の精度は特訓のおかげで日々上がってきている。そのため今ではゼグトスにも引けを取らないほどの技術で、小さな痕跡からも追跡が可能なのだ。

「ここ」

地図でパールがさしたのは鬼帝ゲルオードの治めるギルゼンノーズとギルメスド王国に挟まれる形で存在するロングダルトという国だった。この国では昔から天使族を崇拝の対象とするという風習が受け継がれている。そのため、他国からは天使族の存在を恐れ攻撃を仕掛けられるということがほぼないのだ。

「感謝致します。この御恩はこちらの一件が解決した後必ず返させていただきます」

そしてゼーラとミルファは帰り際、深々とお辞儀をしてそのまま帰っていった。しかし、帰っていく騎士達を見つめるレイの顔にはどこかやるせない思いが感じ取れたのだった。


避難していた皆んなに戻ってきてもらった後、リラックススペースに行くと、珍しくトキワとボルがお互いに背中を背もたれにして眠っていた。最近、ボルは傭兵達を、トキワはリンギルとエルダンを特訓していたため二人ともかなりの疲労が出ていたらしい。

横に目をやるとブレンドが「シーッ」と言いながら鼻に手をやっていた。どうやら入ってきた人達全員にやっているようで部屋の端には閻魁とコッツそれに骸族のハバリとギルスが静かに座らされていた。トキワはそれほどではないがボルが無防備に寝ている姿はかなり珍しく滅多に見られないのだ。

とりあえずは近くに座り一度レイを話をすることにした。あんな顔を見たのだからどうしても一度話し合わなければ必ず後悔してしまうと思う。

「レイ、私のことなんて考えなくていいからレイの本心を聞かせて」

そう言うとレイの顔がピクッとなり強張ったのがはっきりと見てとれた。

「ウム、そうであるぞ。嘘をつくのは良いことではない」

「誰だよお前」

「多分、兄貴は私のことを覚えてすらいない。あいつは騎士道一筋の人間だったからな。私はああいう人間にはなれないと思った。私たち兄妹は住んでいる世界が違うんだ」

「····もし、お兄さんが死んでも何も思わずに仕方ないって言うのなら私は何も言わないよ。でもね、お兄さんが死んでレイが少しでも悲しいと思うのなら、私は誰が相手でも一緒に戦う。私はレイに悲しんで欲しくない」

ジンはレイの顔に手をやって優しくそう言った。するとちょうどその時、部屋にラルカが入ってきた。

「ジン様、お時間があれば少しよろしいでしょうか。採寸したい部分がありまして」

「うん分かった。すぐ行くね。 レイ、大好きだよ」

「ッ—」

そしてそのままジンは部屋を後にした。ジンが部屋を出てドアが閉まるとレイは緊張していた思いを吐き出すように「フウっ」と息を吐くとともにクレースの顔を見てニカリと笑った。

「あれは全員に言うやつだから。私もお願いすれば言ってくれるから」

そんな様子を見てクレースは少し焦ったようにそう言った。

(なぜ、あの子はあれほど素直に言葉が出てくるんだろうな)

そしてレイは再び考え込んだ。




一方、ギルメスド王国に帰ってきたミルファとゼーラの二人はパールからの情報をベオウルフに報告していた。

「どうやら敵はロングダルトにいるようです。他国との関わりがあまりない国ですので詳しい情報が分かりかねますが、調査いたしますか?」

(ロングダルトか······随分と厄介なところにいやがるな)

「まずは俺が一人で行ってくる。作戦はその後だ」

「しかしベオウルフ様、もし秘密裏に動きロングダルト国内で正体がバレてしまえば外交的に言い訳が聞かない状態になってしまいます。ここは部下に行かせるべきかと」

「大丈夫だ。おそらくもうロングダルトは敵の手に堕ちてる。今更の話だ」

「······分かりました。お気を付けてください」

「ああ、ここは頼むぜ」

「それともう一つ、ご報告したいことが······」

ゼーラは何かを言いにくそうな様子でベオウルフの顔を伺った。

「おいおい、まさか······」

「ええ、注意はしていたのですが、グラムさんがまた何処かへ行ってしまいました。申し訳ありません」

「ったく、あの野郎······まあ仕方ねえ。おそらく今向こうから攻めてくることはねえ。お前達でなんとか頼む」

「ハッ」

ベオウルフの頭の中でグラムの高い声が幻聴のように響いてきてますます腹が立ってきたが、そのままロングダルトへと出発することにしたのだ。そしてベオウルフが出発しようと城の中を歩いていた時、シャドの姿を見つけた。

「おうシャド、久々だな」

(け、剣帝様!?)

「は、はいお久しぶりです」

「これから俺は少しの間用事でこの国を出る。なるべくすぐ帰ってくるが、頼んだぞ。それとグラムの馬鹿野郎を見つけたら切り刻んでもいいから帰って来させといてくれ」

「分かりました······」

「どうした? 何か悩んでんなら話でも聞くぜ?」

シャドは逡巡しながらも、こちらの目をジッと見てくるベオウルフになんとか口を開いた。

「······剣帝様、どうして俺を選んだんですか。俺なんかがこんな強い騎士達の中に紛れ込んでも邪魔になるだけっていうか。俺の座席にもし他の誰かが入っていたら、俺なんかよりももっと役に立てると思うんです」

いつもは心の中でしか言わないその言葉をシャドは初めて口にした。

「俺を信じろ。お前はまだ、本当のお前を知らない。本気を出したお前は、俺くらい強えぜ?」

「俺が!? そ、そんなわけ、自信を持たせるためでも言い過ぎですよッ」

「さあ、どうだろうな」

そうしてベオウルフはギルメスド王国を出発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処理中です...