ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」1話

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「ちゃんちゃら」1話


 俺は一人、人間を殺した。

 浜田海斗は白い天井を眺めながらゆっくり、ゆっくりと目を閉じた。


 全ての発端は今から数ヶ月前のひょんなことから始まった友人、金城大地との会話からだった。

「なあ、頸を噛むってどんな感じなんだろうな。」

 金城大地は大学の同級生で、友人で、αだ。
 出会いは大学からなのだが、なぜか意気投合し、仲が良くなった。それからは何をするにも共に行動することが多くなった。大地は有名な財閥、金城家の跡取り息子である。加えてαでもあり、誰が見ても完璧の男だった。そんな人生の勝ち組の男とたまたま大学と学部が一緒だった。ただ、それだけだったのだ。
 そんな大地が珍しく学のないことを言い始めたので、海斗は驚いた。
「お前、噛みたいのか?」
「ちょっとした好奇心だよ。」
 目を丸くしている海斗を見て大地は慌てて訂正した。
「だって、頸を噛むことなんて、後先考えて、一度くらいなもんだろ?練習とかもせず一発本番なわけだ。」
「ふーん。」
 海斗は適当な相槌を打つと、スマホを取り出した。大地は眉間に皺を寄せてそれを制止させる。
「おい。俺の話を聞けよ。」
「だって、βの俺には関係の無い話だろ。」と海斗は苦笑し、意地でもスマホを取り出す。
「そんな頸を噛むのが不安なら、誰か噛んでみたらどうだ?」
 海斗のたちの悪い冗談に大地は腹を立てる。
「Ωに噛んでみろ。番成立しちゃうだろ!」
「じゃあ、βの女性にでもするんだな。今いないのか?付き合ってる女。」
 大地はジロリと海斗を睨む。
「俺にいつも女がいるみたいに言うなよ。」
「だって、事実だろ?」
 海斗がほくそ笑むのを見てさらに大地は機嫌を悪くした。

 大地とはいつもバカ騒ぎをしたり、BARで飲み明かしたりと俗に言う悪友みたいなものだった。 しかし、バカ騒ぎをしていても、どこか大地には気品があり、御坊ちゃま育ちが隠しきれていないのは見れば分かった。
 大地は実家にコンプレックスでもあるのか、家業は継がず、自分で会社を立ち上げるとだけ言って、それ以外あまり家の話は聞いたことが無かった。

 その日は二人で大地の一人暮らしのアパートで宅飲みをしていた。いつも二人というわけではなく、普段は他の悪友たちと一緒に飲むが、たまに今日みたいに二人で宅飲みすることがある。

 その日、特に大地と海斗は酔いが回っていた。大地がまた学のないことを言い始めた。
「βがいいって言うなら、海斗でも良いんじゃないか?」
 海斗はラッパ飲みしていたお酒を思わず吹き出すところだった。
「な、何言ってんだよ、急に!?」
「いいじゃん。そんなに強く噛まないって。」

 海斗の記憶はここで途切れた。

 その日、最後に見た光景は、笑いながら自分の顔に顔を近づけてくる大地の飄々とした笑顔だけだった。

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