ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」2話

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「ちゃんちゃら」2話


 目が覚めると海斗は床に転がっていた。激しい頭痛に一瞬顔が歪むが、自分が服を着ていないことに気づき、痛みより驚愕の方が勝った。その為か、酔いもとっくに醒めていた。まだ意識が朦朧としているが、辺りを見渡すとすぐ傍に大地も海斗同様に裸で眠っていた。
 あまりにも突拍子もない状態に暫く大地の寝顔を茫然と眺めていたが、次第にまるで毒でも回ったかのように、全身に筋肉を使った形跡を実感し始める。
 そっと腰回りを撫で、冷や汗が流れていく。全身から血の気が引いた。
 海斗は大地に声を掛けようかと手を伸ばしたが、自分の身に起きたことを想像してすぐに手を引っ込めた。寧ろ大地に気付かれないように静かに着替え、静かに荷物をまとめた。その間、大地は寝返りすらしなかった。

 頭で考える頃には既に部屋のドアを開けていた。まるで泥棒でも働いたかのように海斗は人目を気にしながら自分のアパートまで走ろうとした。しかし、思ったように足が動くどころか躓きそうになり、電柱に手をついてしまう。
 急な眠気と体の火照りに意識が遠のきそうなのを頑張って堪え、自分のアパートの部屋へ転がり込んだ。
 床に仰向けになって天井を見上げていると幾許か良くなった。スマホを取り出したが、大地からは何もメッセージは来ていなかった。ホッとしたような、行き場の無い不安を覚えるような、不思議な気分だった。
 その日はバイトがあったが、ずっと体調が優れなくて止むなく休みの電話を入れた。その時、ようやく海斗は首の痛みに気がついた。恐る恐る鏡を見ると、くっきりと歯形がついているのがこれでもかと分かった。海斗は気を失う前の大地との会話を思い出した。
ー良かった。無理してバイト行かなくて。危うくみんなに笑われるところだった。
 外では閑古鳥が鳴き始めていた。


 それからというもの、海斗の体調は良くなるどころか、悪化する一方だった。授業中も眠気に勝てずに寝てしまい、授業に追いつかなくなった。留年する予定は全く無かったので海斗は焦った。誰もいなくなっていた講義室から急ぎ足で次の講義室へ移動する。

 あれから大地からの連絡は一切来ていない。海斗と同様に気まずいのかもしれない。学部は一緒だが、講義が被っていたのは初めの一年間だけで、それ以降は同じ講義を選択していない。
 たまに友人たちに声を掛けられて雑談もしたが、みんな口を揃えてこう言った。
「なんか浜田、具合悪い?」
 実際はそうなのだが、肯定したらこの状況を受け入れてしまったような気がして、つい「大丈夫。」と答えてしまっていた。

 ようやく講義室に入り落ち着くと、少し離れたところに大地と一緒によく連んでいる悪友が座っているのに気がついた。
 彼の隣に移動すると、向こうも気がついたのか、手を軽く振った。
「泉谷たちは?」
「サボり。だから今日は俺が代返係。」と悪友は学生証を三つ取り出した。それを見て海斗は苦笑すると、さり気なく上半身を近づけ、声のトーンを落とした。
「なあ、最近大地見かけてないんだけど、知らねぇ?」
 すると、相手はキョトンと目を丸くした。
「なに言ってんだよ。大地、暫く大学来れないって言ってたじゃんか。」

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