ちゃんちゃら

三旨加泉

文字の大きさ
3 / 102

「ちゃんちゃら」3話

しおりを挟む
「ちゃんちゃら」3話


「来れない?」
 海斗は眉間に皺を寄せた。
「そっ。一週間前くらいに騒いでなかったっけ?父親の仕事で海外に連れてかれるーとか。」
 海斗は朧気な記憶の中から何とか大地の声と言葉を探した。
「あー、なんか、言ってた、かも。」
 悪友はケラケラ笑った。
「嫌々言ってたけど、海外行けるんだから良いよな~。俺なんて行ったことないぜ。」と遠くの方から教授の声が聞こえ始めても悪友は喋り続けた。
「金持ちは良いよなぁ。」
 ヘラヘラと話す悪友を他所に、海斗は視線を下の真っ白なノートに目を向けた。シャープペンシルを何とか握ったが、どうもそれを動かす余力は残っていないようだった。悪友は横で固まっている海斗の様子を気にするでもなく続ける。
「なあ、今日みんなでこの間行ったクラブ行かねぇ?もう少しで引っ掛けられそうだった女来てるかもしれないし。」
 海斗の頭は段々と机へと近づいていった。
「悪い。ちょっと寝るわ。」


 全ての講義が終わり、日が暮れてきたところ、キャンパスの正門前に数人の悪友たちが集まった。
「大地いないとしけてるかもな。あいつ女受けいいもんな。」
「モテる男は良いよなぁ。」
 悪友たちが口々に問題の男の話をしているのを海斗は門に寄りかかりながら聞いていた。
 正直クラブに行きたい気分ではないし、眠気も全く取れない状態だが、変に断って付き合いが悪くなるのもどこか気が進まなかった。海斗は重い足取りの中、みんなと一緒に改札を通った。

 クラブは外の人通りが少ない暗い夜道とは違って明るく、人で溢れていた。ボディコンの服を着ている女性たちにスーツを着た男が平然とお酒が入ったショットグラスを勧めているのが見える。
 皆、銘々に座ったり壁に寄りかかったりと話を始めていた。海斗は後悔した。激しい音楽が頭に響き、眠くても眠れず、おまけに頭痛までし始めたからだ。海斗が虚空を見つめていると、視界の端から一人のベリーショートの茶髪の男が顔を出した。
「どうしたんすか?海斗先輩。くび。」
「空島。」
 空島はよく連む仲間の一人だ。唯一ここの中では後輩で、人懐っこい、所謂ワンコ系と言われる男だった。空島は自分の首に手を当てていた。
「首、寝違えたんすか?」
「あぁ。うん、そんな感じ。」
 慌てて海斗は首に手を当てた。あの噛まれた痕を見られるのはさすがに困るので湿布をつけていたのだ。剥がれてる様子はない事に安堵しながらも空島に笑みを浮かべる。空島も安堵したように海斗に尋ねる。
「海斗先輩はいつも瓶ビール飲みますよね。頼んどきますね。」
 正直飲みたい気分では無いが、変に気を遣わせるのも何か悟られそうだったので、仕方なく頷いた。
「じゃあ、俺も同じのたーのもっと。」
 空島は気が利く後輩なのでよく周りからは可愛がられる。
「なあ!俺のも頼んどいて。」
「俺のも~」
「はーい。」
 空島は嫌な顔せず飲み物を頼みに行った。少し雑に扱われることもあるが、本人はあまり気にしていない様子だった。

 空島が飲み物を頼んでる間、海斗はテーブルに突っ伏すような姿勢で思案を巡らせていた。
 大地と体の関係を持ってしまった事をあいつは、大地はどう思っているのか。そして、恐らくその日から体調が悪いのを考えると、原因は明らかだ。
ーあいつ、何かしたのか?
 海斗は頭を抱えた。聞きたいのは山々だが、そうなると大地にあの夜、何が起こったのか詳しく聞く必要があった。目が覚めた時の光景が脳裏を過ぎる。

「持ってきましたよー。」
 顔を上げると、空島が目の前に瓶ビールを置く。コトッと音を立てて視界いっぱいに茶色い空間が広がる。いつも通り瓶のネックの部分を掴んで持ち上げる。この間まで何なく持つことができた瓶は、今は鉛のように重く感じた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

ふた想い

悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。 だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。 叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。 誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。 *基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。 (表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)

この手に抱くぬくもりは

R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。 子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中―― 彼にとって、初めての居場所だった。 過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

処理中です...