ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」15話

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「ちゃんちゃら」15話


 海斗の住んでいるアパートは空島から聞いた。
 車窓にどんどん古くて地震が来たらすぐダメになりそうなアパートが近づいてくるのが見える。

ーあいつ、あんなアパートで暮らしてたのか。

 家で飲もうとなった際、いつも大地の家で開催される為、海斗がどんな家で過ごしているのか全く聞いた事がなかった。自分の知らない海斗の一面を見ているようで何だかむず痒かった。
 ここまでくる途中に大原には今まで何があったのか一部始終を伝えた。大原は黙って大地の話を聞いていた。一通り聞き終わって、ようやく大地に質問をした。
「では、まだ海斗様とは何も話はしていないのですね。」
 大地は自分の不甲斐なさに顔を赤らめながら頷いた。
「怒ってると思うか?」
 大原は無表情でハンドルを右に切る。
「どうでしょうね。ただ、人によっては縁を切りたくなるかもしれません。」
 大原の敢えてハッキリとした残酷な返答に大地は俯く。その様子を知ってか知らずか大原はさらにハッキリとした物言いで言い放つ。
「もし、大地様がまだ気にしておられるなら言いますが、身分証明書や保険証の偽造は立派な犯罪でございます。大地様と結婚したいが為にやるにしても、かなりリスクが伴うことだと思いますよ。」
 自分の頭の固さとみっともなさに呆れる。こんなのよく考えなくても分かる事だったと溜め息をついた。

 今、自分は目の前に聳え立つアパートに向かいたくないと思う反面、自身の気持ちに気づいた以上、海斗を手放したくないという身勝手な気持ちでせめぎ合っていた。大地が頭を抱えていると、大原がブレーキを踏む。
「私は車が停められる場所を探すので、先に降りて待っていて下さい。」
 正直、緊張で一人にして欲しくなかったが、渋々承知した。

 大原の車を降りると、大した事ないボロアパートがやけに高く見えた。海斗に最初になんて声をかけようか。そもそも部屋にいるのか?不安な気持ちでいっぱいになっていると、遠くから何やら言い争っている声が聞こえた。今、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだと思い、大地はアパートの路地に隠れる。
 早く大原が戻ってくることを祈っていると、聞こえてくる声に聞き覚えがあった。路地から少し顔を乗り出すと、そこには、自分が一番探していた人物がいた。
「海斗?」
 小さく相手の名前を呟く。思わず路地から出て行こうとしたが、こちらに背を向けた海斗の正面に背の高い男が現れて動きを止めた。
「泉谷?」
 それはよく連む悪友の内の一人だった。泉谷は女癖が悪く、いつも交際相手とトラブルばかり起こしているイメージがあった。一緒に行動を共にすることはあるが、海斗と二人っきりでいるのは珍しかった。

 どうして泉谷がここにいるんだ、と疑問に思っていると、突然、泉谷が海斗の襟首を掴んだ。驚いてその場で固まる。後ろ姿だが、海斗が鬱陶しそうに泉谷を退けようとするが、体の大きい泉谷を退けるには男でも相当な力を要するだろう。まるで人間が熊に覆い被されたような状況だった。大地が二人の間に入ろうと足を動かしたところで海斗が声を上げる。
「このあいだ借りたお金返しただろ?何が気に入らないんだよ!」
「お前、Ωなんだってな。」
 大地の身体は硬直し、脂汗が滲んだ。


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