ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」16話

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「ちゃんちゃら」16話


「俺たちのこと騙して物色してたんだろ。」
「してないっ」
 海斗が必死に退けようと苦しそうな声を出す。しかし、向こうはピクリともしなかった。
 大地の足は重くなった。なぜなら、泉谷が言っていることは、このあいだ海斗に自分が冷酷に言い放った言葉と酷似していたからだ。
「今まで騙してた落とし前、つけろよ。」
 大地が顔を上げた時には泉谷が海斗の襟首を乱暴に持ち上げ、アパートの裏路地に無理矢理引きずっていくところだった。
 泉谷は普段ケラケラ笑う愉快な奴だった。あんな恐ろしい形相の彼を見たのは初めてだった。しかし、海斗の苦痛に歪んだ表情をすぐ思い出し、足が重かったのも忘れ、大地は裏路地へ走っていった。

 急いでアパートの外壁を右へ曲がると、泉谷は海斗をアパートの外壁に強く押し付けていた。サラサラとした黒髪が乱雑に持ち上げられる。必死に海斗は抵抗するが、泉谷が右足と左足の間に踏み込み、逃げられないようにしていた。その際、海斗の顎を親指で持ち上げた。乱暴に持ち上げたので、海斗の唇に引っ掻くように当たり、少し血が出ている。それを見た大地は一目散に走る。
「前々からノリ悪ぃし、合わねぇと思ってたんだよなぁ。」
 泉谷はそんなことも気にせず、海斗のジーンズの腰帯に手をかけたところで大地の頭が熱を帯びた。

「何やってんだよ!!」
 自分でもこんな力が出るものなのかと驚くくらい、大地は泉谷を海斗から引き剥がした。海斗は目を丸くしてこちらを見ている。泉谷は大地の鬼のような形相を見て、慌ててその場を立ち去って行った。
 その間、ずっと大地は海斗の肩を掴んでいた。引き剥がした時の力が余っていたのか、海斗は少し顔を歪めて肩から自分の手を退ける。ハッと大地は海斗の顔を見ると、海斗は気まずそうに自分の唇の傷を触っていた。

 それを見た瞬間、大地は頭で考えるより先に顔が動いていた。海斗の唇に無理矢理自分の唇を引っ付ける。海斗は一瞬なにが起きたのか理解できず、ただ目を見開いていたが、すぐに大地を押し返した。
「急に、なに、すんだよ。」
 さっきの泉谷と同じ反応をされた。大地は海斗の乱れた髪を退けて頸を触る。そこには、すっかり薄くなった噛み跡があった。その間、海斗は怯えた表情を見せたのを見て、ふつふつと身体の熱が沸騰し始めた。
 海斗が抵抗する前に大地は考えるより先に海斗の頸を強く噛んだ。初めて記憶に残る番成立の瞬間だった。海斗は痛みで悶えてるところで後ろから大原の名前を呼ぶ声が聞こえた。
 大原が二人を引き剥がすまで大地の歯は海斗の頸を絶対に離さなかった。


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