17 / 102
「ちゃんちゃら」17話
しおりを挟む
「ちゃんちゃら」17話
カッコウが鳴く声で浜田海斗が目を覚ました頃には、窓の外はもう夜だった。ベッドから見える星空はどこか遠く感じる。寝ぼけ眼で周りを見ると、どこかのホテルの一室のように自分の今寝てるベッドの他にキャビネット、テーブルが置かれてある。それを見て海斗はここが自分の住むボロアパートの一室ではない事を早々に察した。
何とか体を起こし、顔を上げると自分の足の横に誰か人が座ってることが分かった。海斗からしてみれば突然人が現れたように見えたので、思わず体が仰反る。すると、その衝撃で首に痛みが生じた。思わず顔を歪め、首に手をやると、気を失う前の記憶を思い出した。あの時、険しい顔つきで自分の頸を噛んできた大地の顔が頭に浮かぶ。
頑張って頭からその光景を消そうとしていると、心配そうに座っていた初老の男性が近づいてくる。
「痛みますか?」
海斗はまじまじと初老の男性を見た。知らない男だが、上品な身のこなしや柔らかい物腰で紳士的な人なのは一目見て分かった。海斗が安心感を覚えている内に首の痛みは消えていた。しかし、首を振ると、すぐに痛みはぶり返し、また首を押さえる。
「申し訳ございません。こうならない為にも私が同行したというのに。」と困り眉で相手は頭を下げる。あまりにも上品に丁寧な御辞儀だったので、ついそれに釣られて海斗も頭を下げた。しかし、この男が言ってる事がよく分からず、首を傾げるとやはり首に痛みが走り、また首を押さえる羽目になった。
「大丈夫ですか?少し鬱血しているので湿布を貼りましょう。」と男はテーブルに置いてある救急箱に触る。
「坊ちゃん、いえ、大地様もアパートに向かうまではずっと貴方の心配をしていたんです。悪意があったわけではないことはご理解頂けると幸いです。」と男は冷湿布を海斗の首に貼る。
「大地様?」
海斗の疑問を含んだ声に男ははじめはキョトンとしていたが、すぐに「ああ」と微笑みながら答えた。
「申し遅れました。私は金城家に仕えている、執事の大原と申します。今は大地様の身の回りの世話をしております。」
金城家という言葉に心臓が一瞬跳ねたが、ここでようやく一つの疑問が海斗の頭を過ぎった。
「大地は?」
「大地様は今、席を外しております。貴方が起きたら驚いてしまうかもしれないと、気を遣われているのです。」
海斗は「ふーん」と納得した振りをしたが、大原という男がこの部屋のドアの方に視線を一瞬だけ向けたのを見逃さなかった。
見ると、ドアが少し開いていて、隙間から自分の頸を噛んだ男と同じ黒いズボンが、ソワソワと小さく足踏みをしていた。
海斗は態と知らない振りをしながら苦笑した。
「首も寝違えた時と痛みも対して変わらないし、俺、そろそろ帰るわ。」と頭をなるべく動かさないように海斗はベッドから立ち上がった。
すると、大原が慌ててそれを制止する。その時、ドアの向こうからも何やらぶつかった音がしたが、知らぬ振りをした。
「申し訳ございませんが、暫くの間ここで休まれてはいかがでしょうか?今日はその事でお話しようと貴方の家に向かったのです。」
海斗は目をぱちくりさせた。
「休まれてはって、首の怪我くらい大袈裟じゃないか。」
大原は一瞬言葉が詰まったように見えたが、すぐに取り繕って優しい口調で伝えた。
「最近、気温も暑くなる一方ですし、貴方自身にとっても、お腹の中の赤ん坊にとっても、ストレスの無い生活環境が良いかと。」
お腹の中の赤ん坊。
その言葉を聞いて、今度は海斗が言葉を詰まらせた。徐々に青ざめていく海斗の顔を見て、先程まで落ち着いていた大原の表情も息を呑んだのも分かる。
「ごめん。もう、いないんだ。」
海斗は細く、凹んだお腹のさらに下、下腹部を摩る。
「お腹の中の赤ん坊。」
カッコウが鳴く声で浜田海斗が目を覚ました頃には、窓の外はもう夜だった。ベッドから見える星空はどこか遠く感じる。寝ぼけ眼で周りを見ると、どこかのホテルの一室のように自分の今寝てるベッドの他にキャビネット、テーブルが置かれてある。それを見て海斗はここが自分の住むボロアパートの一室ではない事を早々に察した。
何とか体を起こし、顔を上げると自分の足の横に誰か人が座ってることが分かった。海斗からしてみれば突然人が現れたように見えたので、思わず体が仰反る。すると、その衝撃で首に痛みが生じた。思わず顔を歪め、首に手をやると、気を失う前の記憶を思い出した。あの時、険しい顔つきで自分の頸を噛んできた大地の顔が頭に浮かぶ。
頑張って頭からその光景を消そうとしていると、心配そうに座っていた初老の男性が近づいてくる。
「痛みますか?」
海斗はまじまじと初老の男性を見た。知らない男だが、上品な身のこなしや柔らかい物腰で紳士的な人なのは一目見て分かった。海斗が安心感を覚えている内に首の痛みは消えていた。しかし、首を振ると、すぐに痛みはぶり返し、また首を押さえる。
「申し訳ございません。こうならない為にも私が同行したというのに。」と困り眉で相手は頭を下げる。あまりにも上品に丁寧な御辞儀だったので、ついそれに釣られて海斗も頭を下げた。しかし、この男が言ってる事がよく分からず、首を傾げるとやはり首に痛みが走り、また首を押さえる羽目になった。
「大丈夫ですか?少し鬱血しているので湿布を貼りましょう。」と男はテーブルに置いてある救急箱に触る。
「坊ちゃん、いえ、大地様もアパートに向かうまではずっと貴方の心配をしていたんです。悪意があったわけではないことはご理解頂けると幸いです。」と男は冷湿布を海斗の首に貼る。
「大地様?」
海斗の疑問を含んだ声に男ははじめはキョトンとしていたが、すぐに「ああ」と微笑みながら答えた。
「申し遅れました。私は金城家に仕えている、執事の大原と申します。今は大地様の身の回りの世話をしております。」
金城家という言葉に心臓が一瞬跳ねたが、ここでようやく一つの疑問が海斗の頭を過ぎった。
「大地は?」
「大地様は今、席を外しております。貴方が起きたら驚いてしまうかもしれないと、気を遣われているのです。」
海斗は「ふーん」と納得した振りをしたが、大原という男がこの部屋のドアの方に視線を一瞬だけ向けたのを見逃さなかった。
見ると、ドアが少し開いていて、隙間から自分の頸を噛んだ男と同じ黒いズボンが、ソワソワと小さく足踏みをしていた。
海斗は態と知らない振りをしながら苦笑した。
「首も寝違えた時と痛みも対して変わらないし、俺、そろそろ帰るわ。」と頭をなるべく動かさないように海斗はベッドから立ち上がった。
すると、大原が慌ててそれを制止する。その時、ドアの向こうからも何やらぶつかった音がしたが、知らぬ振りをした。
「申し訳ございませんが、暫くの間ここで休まれてはいかがでしょうか?今日はその事でお話しようと貴方の家に向かったのです。」
海斗は目をぱちくりさせた。
「休まれてはって、首の怪我くらい大袈裟じゃないか。」
大原は一瞬言葉が詰まったように見えたが、すぐに取り繕って優しい口調で伝えた。
「最近、気温も暑くなる一方ですし、貴方自身にとっても、お腹の中の赤ん坊にとっても、ストレスの無い生活環境が良いかと。」
お腹の中の赤ん坊。
その言葉を聞いて、今度は海斗が言葉を詰まらせた。徐々に青ざめていく海斗の顔を見て、先程まで落ち着いていた大原の表情も息を呑んだのも分かる。
「ごめん。もう、いないんだ。」
海斗は細く、凹んだお腹のさらに下、下腹部を摩る。
「お腹の中の赤ん坊。」
17
あなたにおすすめの小説
あなたの家族にしてください
秋月真鳥
BL
ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。
情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。
闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。
そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。
サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。
対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。
それなのに、なぜ。
番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。
一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。
ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。
すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。
※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
この手に抱くぬくもりは
R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。
子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中――
彼にとって、初めての居場所だった。
過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。
ふた想い
悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。
だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。
叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。
誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。
*基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。
(表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)
【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—
水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。
幼い日、高校、そして大学。
高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。
運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる