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「ちゃんちゃら」18話
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「ちゃんちゃら」18話
「いないって、まさか、堕したのか?」
金城大地は気がついたらドアを開けて中に入っていた。
そして、いつも気怠そうにしている海斗の表情が曇り、涙目になったのを見て大地はハッとした。別に責めているわけじゃないのに責めているような状況になってしまっていることに気づき、すぐに口を噤んだ。
海斗に答えを聞く代わりに自分で考えた。
ー当たり前だ。何もおかしい事ではない。
大地はもう嫌というくらい自戒している自分の行動を振り返ると海斗の行動も納得がいく。
恐らく海斗は、大地からの冷酷な態度を受け、大地に助けを求めることをやめたのだろう。海斗の身内事情を大地は知らない。しかし、この動揺っぷりをみると、海斗が頼れる身内がいなかったことを察する。
考えれば考える程、自分の一時の幼稚な態度によって引き起こした結果だと思うと吐き気を覚えた。
普通なら一緒に二人で考えて、悩んで結論を出す事をたった一人で背負わせてしまったことに罪悪感を感じた。
「なぁ、俺に、何かできることは、ないか?」
本来ならば、あの冷たい夕立の日に言うべきだった言葉を大地はいま発した。海斗に一体どんな罵詈雑言を浴びせられるだろうかと覚悟を決めていたが、暫しの沈黙の後に降ってきた言葉はかなり意外だった。
「じゃあ、その、お金、貸してもらえたりってしないか?」
「い、いくらだ?」
海斗の声は戸惑いを含みながら答える。
「ひゃ、百万、とか。」
大地が顔を上げると海斗は気恥ずかしそうに頰を掻いている。大地はきっと慰謝料のことだろうと思った。
「分かった。何とか用意する。」と強く頷いた。親父の力を借りるのに抵抗はあるが、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。
しかし、あまりにも大地の強い返事に何故か自分からお願いしている海斗の方が動揺し、落ち着きが無い様子だった。海斗は目を泳がせ、暫くして「やっぱりいい。」と一言だけ言った。
さすがに「やっぱりいい。」で終わらせてはいけないと思い、大地は慌てて海斗に詰め寄った。
「いやいや!よくないだろ!遠慮するなよ!悪いのは俺なんだから。」
海斗は罰が悪そうに大地を見る。大原と顔を見合わせたが、海斗が何を考えているのか分からず、辛抱たまらず聞いた。
「なあ、何に使う予定なんだ?その100万。」
海斗はモジモジと指を弄っている。言うか言うべきか悩んでいる様子だったが、次第に観念したのか、ポツリと喋った。
「番、解消手術代。」
「え?」
素っ頓狂な声が自分の口から出る。番解消?
しかし、海斗はそんな呆気に取られている大地を他所に、珍しくどんどん喋り続けた。
「実は、いま薬貰ってるんだけどさ、副作用とか心配で。ずっと飲み続けるのも大変だから、南雲先生、あ、第二性科の先生で、その、堕ろす手術もその人がやってくれたんだけど、その人が保険適用外だけど、最近では番解消手術っていうのがあって、手術で番を解消してくれるんだってさ。だから、」
「ちょっと待て。」
大地の額に脂汗が滲む。血の気が引いていくのも感覚で分かる。
「100万掛かるって言われたんだ。でもそんなお金無いって言ったら、相手と相談したら?って言われて。その時は大地と話す機会なんてもう無いと思ったから先生何言ってんだろって思ってたんだけど…」
「ちょっと待て!!」
海斗は驚いた顔で今にも泣き出しそうな顔をしている大地を見上げた。海斗はどうやら自分自身にも驚いているようだった。それもそうだ。大地から見ても海斗がこんなに喋ったのは初めて見た。
海斗のまるで溜まっていたものを吐き出すような喋り方を心配したが、大地はそれでも話を中断させざるを得なかった。
「お前、番、解消したいのか?」
海斗はキョトンとした顔でこちらを見ている。てっきり「当たり前だ!」と突き放されるかと思ったが、海斗はうーんと唸っているだけだった。
「そんなに嫌なのか?」と念押しに大地が聞くと、またもうーんと唸っている。そしてあっさり「別に嫌じゃないけどさ」と歯切れの悪い返事をされた。
しかし、たとえ歯切れが悪くても大地は必死に喰らいついた。大原を見ると、その視線はまるで自分の背中を押してくれているように感じた。子どもの頃、中々校門を潜れなくて足踏みしてる時、後ろを振り返ると微笑んでくれた大原を思い出した。
「嫌じゃないなら、暫くここに住めばいいだろ?そうしたら、番解消しなくても大丈夫なんじゃないか?」
海斗は腕組みをした。頭は動かさないようにまた唸っている。そして、「なんで?」と疑問を投げかけられた。
「なんでお前は番解消して欲しくないんだ?」
大地は海斗の目を見据えて言い放った。
「お前が好きだからだよ。」
海斗は目が点になっている。そして首に手を当てて気まずそうに視線を外された。
明らかに大地の言ったことを理解出来ないと言った感じだ。当たり前だ。ついこの間まで突き放したり、すぐ手を出すような人間の言葉など信用できるわけがない。
「分かった。じゃあ、こうしよう。」
大地は客室にある小さな金庫を指差した。それを徐に開ける。
「ここに100万円。俺が見繕う。」
海斗は呆然と金庫と大地を見ている。
「これから俺と一緒に過ごして、どうしても俺が嫌だったら、その時は、このお金を使って番を解消してくれ。頼む。」
外で鳴いていたカッコウはもう鳴いていなかった。
「いないって、まさか、堕したのか?」
金城大地は気がついたらドアを開けて中に入っていた。
そして、いつも気怠そうにしている海斗の表情が曇り、涙目になったのを見て大地はハッとした。別に責めているわけじゃないのに責めているような状況になってしまっていることに気づき、すぐに口を噤んだ。
海斗に答えを聞く代わりに自分で考えた。
ー当たり前だ。何もおかしい事ではない。
大地はもう嫌というくらい自戒している自分の行動を振り返ると海斗の行動も納得がいく。
恐らく海斗は、大地からの冷酷な態度を受け、大地に助けを求めることをやめたのだろう。海斗の身内事情を大地は知らない。しかし、この動揺っぷりをみると、海斗が頼れる身内がいなかったことを察する。
考えれば考える程、自分の一時の幼稚な態度によって引き起こした結果だと思うと吐き気を覚えた。
普通なら一緒に二人で考えて、悩んで結論を出す事をたった一人で背負わせてしまったことに罪悪感を感じた。
「なぁ、俺に、何かできることは、ないか?」
本来ならば、あの冷たい夕立の日に言うべきだった言葉を大地はいま発した。海斗に一体どんな罵詈雑言を浴びせられるだろうかと覚悟を決めていたが、暫しの沈黙の後に降ってきた言葉はかなり意外だった。
「じゃあ、その、お金、貸してもらえたりってしないか?」
「い、いくらだ?」
海斗の声は戸惑いを含みながら答える。
「ひゃ、百万、とか。」
大地が顔を上げると海斗は気恥ずかしそうに頰を掻いている。大地はきっと慰謝料のことだろうと思った。
「分かった。何とか用意する。」と強く頷いた。親父の力を借りるのに抵抗はあるが、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。
しかし、あまりにも大地の強い返事に何故か自分からお願いしている海斗の方が動揺し、落ち着きが無い様子だった。海斗は目を泳がせ、暫くして「やっぱりいい。」と一言だけ言った。
さすがに「やっぱりいい。」で終わらせてはいけないと思い、大地は慌てて海斗に詰め寄った。
「いやいや!よくないだろ!遠慮するなよ!悪いのは俺なんだから。」
海斗は罰が悪そうに大地を見る。大原と顔を見合わせたが、海斗が何を考えているのか分からず、辛抱たまらず聞いた。
「なあ、何に使う予定なんだ?その100万。」
海斗はモジモジと指を弄っている。言うか言うべきか悩んでいる様子だったが、次第に観念したのか、ポツリと喋った。
「番、解消手術代。」
「え?」
素っ頓狂な声が自分の口から出る。番解消?
しかし、海斗はそんな呆気に取られている大地を他所に、珍しくどんどん喋り続けた。
「実は、いま薬貰ってるんだけどさ、副作用とか心配で。ずっと飲み続けるのも大変だから、南雲先生、あ、第二性科の先生で、その、堕ろす手術もその人がやってくれたんだけど、その人が保険適用外だけど、最近では番解消手術っていうのがあって、手術で番を解消してくれるんだってさ。だから、」
「ちょっと待て。」
大地の額に脂汗が滲む。血の気が引いていくのも感覚で分かる。
「100万掛かるって言われたんだ。でもそんなお金無いって言ったら、相手と相談したら?って言われて。その時は大地と話す機会なんてもう無いと思ったから先生何言ってんだろって思ってたんだけど…」
「ちょっと待て!!」
海斗は驚いた顔で今にも泣き出しそうな顔をしている大地を見上げた。海斗はどうやら自分自身にも驚いているようだった。それもそうだ。大地から見ても海斗がこんなに喋ったのは初めて見た。
海斗のまるで溜まっていたものを吐き出すような喋り方を心配したが、大地はそれでも話を中断させざるを得なかった。
「お前、番、解消したいのか?」
海斗はキョトンとした顔でこちらを見ている。てっきり「当たり前だ!」と突き放されるかと思ったが、海斗はうーんと唸っているだけだった。
「そんなに嫌なのか?」と念押しに大地が聞くと、またもうーんと唸っている。そしてあっさり「別に嫌じゃないけどさ」と歯切れの悪い返事をされた。
しかし、たとえ歯切れが悪くても大地は必死に喰らいついた。大原を見ると、その視線はまるで自分の背中を押してくれているように感じた。子どもの頃、中々校門を潜れなくて足踏みしてる時、後ろを振り返ると微笑んでくれた大原を思い出した。
「嫌じゃないなら、暫くここに住めばいいだろ?そうしたら、番解消しなくても大丈夫なんじゃないか?」
海斗は腕組みをした。頭は動かさないようにまた唸っている。そして、「なんで?」と疑問を投げかけられた。
「なんでお前は番解消して欲しくないんだ?」
大地は海斗の目を見据えて言い放った。
「お前が好きだからだよ。」
海斗は目が点になっている。そして首に手を当てて気まずそうに視線を外された。
明らかに大地の言ったことを理解出来ないと言った感じだ。当たり前だ。ついこの間まで突き放したり、すぐ手を出すような人間の言葉など信用できるわけがない。
「分かった。じゃあ、こうしよう。」
大地は客室にある小さな金庫を指差した。それを徐に開ける。
「ここに100万円。俺が見繕う。」
海斗は呆然と金庫と大地を見ている。
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外で鳴いていたカッコウはもう鳴いていなかった。
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