ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」43話

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「ちゃんちゃら」43話


 大地は父からの怒涛の勢いで任された仕事を終わらせ、帰路に着いた。今日はまさか海斗の方から連絡が来るとは思ってもいなかったので、大地は足早に別荘へ向かった。海斗は何か自分に用事があるのではないかと思い、気が気でなかった。
 急いでドアを開けると、なにやらリビングの方が騒がしかった。この間のようにまた大知たちが来てるのではないかと思ったが、玄関に置かれてある靴は二人分しかなかった。不思議に思い、耳を澄ませると、大原と海斗の声がドア越しに聞こえてくる。

「ねぇ、食べてくれない?少しでも量を減らしたいんだ。」
「なにも問題ないですよ。残れば明日また食べればいいじゃないですか。」
「それはそうかもしれないけど」

 どうやら食べ物の話をしているようだが、それがなにを意味しているのか大地にはよく分からなかった。ずっとドアの前で立ち尽くしているのも癪だったので、意を決してリビングのドアを開けた。
 すると、テーブルの上には何品も料理が並んでいた。普段は大原が作った一人分の料理を食べるので、大皿に盛られた料理を見るのは久しぶりだった。そして、そのテーブルの前に立っている海斗と大原がこちらを勢いよく見たので、大地は身構えた。海斗に至っては顔が真っ青だったので、良くないことが起きてることは分かった。
 しかし、どうしても部屋に充満している肉の焼けた食欲をそそる香りに大地のお腹は悲鳴をあげそうになった。
「なあ、何かあったのか?こんなに料理がたくさん」
 その言葉に海斗は顔を俯かせ、視線を合わせてくれなくなった。なにかまずいことでも言ってしまったのかと大地はギョッとした。
「やっぱり作り過ぎたよな。」と海斗がか細い声を出す。どういう意味か分からず大原の顔を見ると、彼はテーブルに置かれた料理を手の平で指し示した。
「実は今日、雫様と一緒に海斗様が御夕飯を作られたのです。」
 大地は目が点になった。これを?海斗が?
 海斗が料理をしているというイメージが湧かなかったが、彼が丹精込めて料理したのは、綺麗に焼けた鶏肉や均等に切られた野菜たちを見て察した。その事実を知った途端、大地の心はすっかり浮き足立っていた。
「え、本当か!手、洗ってくる。」と大地は鞄を置いて颯爽とリビングから洗面所へ向かって行った。
ーまさか海斗がご飯を作ってくれるだなんてな。あ、そうか。それでいつ帰ってくるか聞いたんだな。可愛いやつめ。

 しかし、ニヤニヤした顔を必死に抑えながら大地がリビングへ戻ると、海斗は今にも泣きそうな顔をしていたので、大地の顔は忽ち真顔へと変わっていった。
「どうしたんだ!?」
「いや、大地、怒るかなって」
「え!?」
 あまりにも突拍子もない話に大きな声が出る。
「なに言ってるんだ!?喜んでるだろ!」
「そ、そうか?」と心配そうに海斗は大地の顔色を窺っている。海斗は椅子に座りもせず、ただ大地の次の行動を待っているように見えた。

ーどうして、こんなにモジモジしているんだ、海斗のやつ。

 大地は必死に頭を捻った。なんとしてでも今日の食事は海斗と一緒に摂りたいと思った。頭の中で唸っていると、一つの自分の答えが導き出された。
ーそうか。さては、上手く作れたか心配なんだな。よしよし。

 大地は「じゃあ、いただくぞ。」と言って、挨拶をしてから慣れた手つきでチキン南蛮をフォークで切り分けた。そして躊躇なくチキン南蛮を口へ運ぶ。海斗がずっとオロオロしながら、その光景を眺めている。

 マヨネーズとピクルスの酸味が合わさり、そこへ甘塩っぱいタレが後から口へ広がっていった。カリカリした食感とピクルスのツブツブした食感が食べ心地を良くさせていた。
「なんか、普通のタルタルソースとは違うな。胡椒が効いてて美味しい。」と満足気に海斗に感想を述べた。
 しかし、そんな大地の表情を見ても海斗はジッと涙目でこちらを窺っている。
「本当か?嘘ついてないか?それ、俺が普段食べてるようなやつだぞ。」
「なんでだよ。本当に美味しいって」
 ここで大地はまた一つの考えが頭に浮かんだ。
ーそうか、さては海斗のやつ、俺が金城家の跡取り息子だから、普段から豪勢な食事ばかり取っていると思ってるな。
 実際、通常のレストランで食べる食事とは一桁違う値段のものも食べたことなど何度もあった。しかし、その一方で海斗と行ったファミリーレストランやファストフード店の料理の味も好きだった。

「海斗も一緒に食べようぜ。」と笑顔で料理を勧める。
 海斗は恐る恐る向かいの席に座り、料理に口をつける。すると海斗も大地と同じように表情は明るく変わっていった。それを見て大地は安心したが、一瞬で海斗の顔は暗く青くなっていく。
「そうだな。少しでも量を減らした方がいいよな。俺が調子に乗って作っちゃったんだし。」
 大地はサラダに入っているエビをパクリと口へ運ぶ。
「別にいいんじゃないか?余ったら明日食べればいいだろ。」
 海斗は目を見開いて仰天している。
「大原さんとおんなじこと言ってる。」
 海斗の話はよく分からなかったが、彼の表情はまるで泣き笑いをしているかのようだった。
 海斗の表情の意味を理解出来ず、ふと大地は大原の方を見上げると、大原はなぜかこちらに小さく手で丸を作っていた。どちらの反応もよく理解出来なかったが、最高に美味しい食事を大地は摂ったことに間違いなかった。

 海斗は「美味しい」と言いながら満面の笑みを浮かべている大地をはにかみながら眺めていた。大地が次から次へと料理に手をつけ、頬がリスのように膨らんでいる様子がどこか可笑しくて可愛らしくて、胸が膨らんだ。


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