56 / 102
「ちゃんちゃら」56話
しおりを挟む
「ちゃんちゃら」56話
「海斗くん、嫌になったらすぐ辞めていいんだからね。海斗くん、良くも悪くも我慢強いから」と雫は海斗にジュースをお酌した。海斗は慌てて頭を下げている。
「パパも来れれば良かったのにね。社長は大変だ。」
席にお行儀良く座っている大知は口いっぱいに海老フライを放り込んでいる。
「少しずつ食べなさい、大知。」
雫の言葉に不貞腐れて頬を膨らませているのか、海老フライで膨らんでいるのか、分からない状況に海斗は思わず笑いが溢れる。
相変わらず海斗の隣を陣取っている大知に大地は気に入らない様子だったが、口には出さずに海斗が作ったサラダをずっと食べていた。
こうして雫たちと食事する回数もハンバーガー事件から徐々に増えていき、今となっては当たり前のように食卓を囲むようになっていた。
「じゃあ、明日から初出勤。頑張って!」と雫はサイドウィンドウから手を振っている。大知に至っては雫の膝まで乗り出し、彼も元気よくこちらに手を振っていた。
今日も大原が運転して二人を実家に連れていくことになっていた。運転席で大原も微笑んでこちらを見守っていた。
車が発進し、夜に光るテールランプは徐々に小さくなっていった。その明かりに海斗と大地は暫く手を振っていたが、明かりが見えなくなると二人で揃って玄関まで戻っていった。
靴を脱いでいると大地の声が後ろから聞こえた。
「なあ、海斗、この後ちょっと俺の部屋に来てくれないか?」
振り向くと、大地が真っ直ぐな瞳で自分を見つめていた。真剣な様子に大事な話なことは、はっきりと伝わってきた。海斗は緊張しながらも頷いた。
大地の後を追って海斗は階段を上がる。鼓動がどんどん速くなっていくのを胸に手を当てながら海斗は肌で感じていた。
ドアを開けると、大地の部屋はこの間見た時と大して変わらず、清潔感があった。
しかし、一つだけ前に見た時と違うものがあった。それは、水色のテディベアがあったところに一つ小さな箱が置かれてあったからだ。大地を見ると、大地はジッと海斗を見守っている。どうやらその箱を手に取ることを望んでいるようだった。
恐る恐る海斗は青紫色の箱を開けてみる。箱はしっかり閉まっており、開けるのに指の力を要した。初めて触る箱の感覚に海斗は戸惑う。少し力を入れて上に引っ張ると、箱は勢い良く開いた。
驚いて目を細めると、その小さい視界全体を一つの輝きが占める。その輝きでさらに目を細めてしまう。だんだん眩さに慣れてくると、その輝きの正体が明確に見えた。
それは指輪だった。小さな花の形が集まり、その小さな銀色の花たちの周りに青い石たちが散りばめられていた。それはまるで青い花が咲いているように見えてとても美しかった。
海斗が指輪に見惚れていると、大地が海斗の前に立つ。首の後ろを恥ずかしそうに掻いていた大地だったが、リングケースを持った海斗の手ごと掴んで一言言った。
「これが、俺の気持ち。」
「海斗くん、嫌になったらすぐ辞めていいんだからね。海斗くん、良くも悪くも我慢強いから」と雫は海斗にジュースをお酌した。海斗は慌てて頭を下げている。
「パパも来れれば良かったのにね。社長は大変だ。」
席にお行儀良く座っている大知は口いっぱいに海老フライを放り込んでいる。
「少しずつ食べなさい、大知。」
雫の言葉に不貞腐れて頬を膨らませているのか、海老フライで膨らんでいるのか、分からない状況に海斗は思わず笑いが溢れる。
相変わらず海斗の隣を陣取っている大知に大地は気に入らない様子だったが、口には出さずに海斗が作ったサラダをずっと食べていた。
こうして雫たちと食事する回数もハンバーガー事件から徐々に増えていき、今となっては当たり前のように食卓を囲むようになっていた。
「じゃあ、明日から初出勤。頑張って!」と雫はサイドウィンドウから手を振っている。大知に至っては雫の膝まで乗り出し、彼も元気よくこちらに手を振っていた。
今日も大原が運転して二人を実家に連れていくことになっていた。運転席で大原も微笑んでこちらを見守っていた。
車が発進し、夜に光るテールランプは徐々に小さくなっていった。その明かりに海斗と大地は暫く手を振っていたが、明かりが見えなくなると二人で揃って玄関まで戻っていった。
靴を脱いでいると大地の声が後ろから聞こえた。
「なあ、海斗、この後ちょっと俺の部屋に来てくれないか?」
振り向くと、大地が真っ直ぐな瞳で自分を見つめていた。真剣な様子に大事な話なことは、はっきりと伝わってきた。海斗は緊張しながらも頷いた。
大地の後を追って海斗は階段を上がる。鼓動がどんどん速くなっていくのを胸に手を当てながら海斗は肌で感じていた。
ドアを開けると、大地の部屋はこの間見た時と大して変わらず、清潔感があった。
しかし、一つだけ前に見た時と違うものがあった。それは、水色のテディベアがあったところに一つ小さな箱が置かれてあったからだ。大地を見ると、大地はジッと海斗を見守っている。どうやらその箱を手に取ることを望んでいるようだった。
恐る恐る海斗は青紫色の箱を開けてみる。箱はしっかり閉まっており、開けるのに指の力を要した。初めて触る箱の感覚に海斗は戸惑う。少し力を入れて上に引っ張ると、箱は勢い良く開いた。
驚いて目を細めると、その小さい視界全体を一つの輝きが占める。その輝きでさらに目を細めてしまう。だんだん眩さに慣れてくると、その輝きの正体が明確に見えた。
それは指輪だった。小さな花の形が集まり、その小さな銀色の花たちの周りに青い石たちが散りばめられていた。それはまるで青い花が咲いているように見えてとても美しかった。
海斗が指輪に見惚れていると、大地が海斗の前に立つ。首の後ろを恥ずかしそうに掻いていた大地だったが、リングケースを持った海斗の手ごと掴んで一言言った。
「これが、俺の気持ち。」
7
あなたにおすすめの小説
あなたの家族にしてください
秋月真鳥
BL
ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。
情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。
闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。
そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。
サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。
対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。
それなのに、なぜ。
番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。
一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。
ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。
すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。
※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
この手に抱くぬくもりは
R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。
子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中――
彼にとって、初めての居場所だった。
過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。
ふた想い
悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。
だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。
叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。
誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。
*基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。
(表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)
【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—
水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。
幼い日、高校、そして大学。
高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。
運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる