ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」56話

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「ちゃんちゃら」56話


「海斗くん、嫌になったらすぐ辞めていいんだからね。海斗くん、良くも悪くも我慢強いから」と雫は海斗にジュースをお酌した。海斗は慌てて頭を下げている。
「パパも来れれば良かったのにね。社長は大変だ。」
 席にお行儀良く座っている大知は口いっぱいに海老フライを放り込んでいる。
「少しずつ食べなさい、大知。」
 雫の言葉に不貞腐れて頬を膨らませているのか、海老フライで膨らんでいるのか、分からない状況に海斗は思わず笑いが溢れる。
 相変わらず海斗の隣を陣取っている大知に大地は気に入らない様子だったが、口には出さずに海斗が作ったサラダをずっと食べていた。
 こうして雫たちと食事する回数もハンバーガー事件から徐々に増えていき、今となっては当たり前のように食卓を囲むようになっていた。


「じゃあ、明日から初出勤。頑張って!」と雫はサイドウィンドウから手を振っている。大知に至っては雫の膝まで乗り出し、彼も元気よくこちらに手を振っていた。
 今日も大原が運転して二人を実家に連れていくことになっていた。運転席で大原も微笑んでこちらを見守っていた。
 車が発進し、夜に光るテールランプは徐々に小さくなっていった。その明かりに海斗と大地は暫く手を振っていたが、明かりが見えなくなると二人で揃って玄関まで戻っていった。
 靴を脱いでいると大地の声が後ろから聞こえた。
「なあ、海斗、この後ちょっと俺の部屋に来てくれないか?」
 振り向くと、大地が真っ直ぐな瞳で自分を見つめていた。真剣な様子に大事な話なことは、はっきりと伝わってきた。海斗は緊張しながらも頷いた。
 大地の後を追って海斗は階段を上がる。鼓動がどんどん速くなっていくのを胸に手を当てながら海斗は肌で感じていた。

 ドアを開けると、大地の部屋はこの間見た時と大して変わらず、清潔感があった。
 しかし、一つだけ前に見た時と違うものがあった。それは、水色のテディベアがあったところに一つ小さな箱が置かれてあったからだ。大地を見ると、大地はジッと海斗を見守っている。どうやらその箱を手に取ることを望んでいるようだった。
 恐る恐る海斗は青紫色の箱を開けてみる。箱はしっかり閉まっており、開けるのに指の力を要した。初めて触る箱の感覚に海斗は戸惑う。少し力を入れて上に引っ張ると、箱は勢い良く開いた。
 驚いて目を細めると、その小さい視界全体を一つの輝きが占める。その輝きでさらに目を細めてしまう。だんだん眩さに慣れてくると、その輝きの正体が明確に見えた。

 それは指輪だった。小さな花の形が集まり、その小さな銀色の花たちの周りに青い石たちが散りばめられていた。それはまるで青い花が咲いているように見えてとても美しかった。
 海斗が指輪に見惚れていると、大地が海斗の前に立つ。首の後ろを恥ずかしそうに掻いていた大地だったが、リングケースを持った海斗の手ごと掴んで一言言った。

「これが、俺の気持ち。」


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