ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」82話

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「ちゃんちゃら」82話


 水色のテディベアが棚の上で眠っている。暗い部屋の中、海斗は隣で寝ようとしている大地を眺める。大地もそれに気づき、見つめ返してくる。
 怒涛のクリスマス会の余韻が抜けないのか、二人は寝れないままベッドの上にいた。
 海斗は天井を見つめる。半年ほど前に見た時とは全く違う感情で天井を眺めていた。
「俺、ここに来てから自分のことを少しずつ話せるようになったんだ。」
 大地はベッドに肘をつきながらこちらを見ている。
「色んな人と出会って、みんなとご飯食べたり笑い合ったり、気まずくなったり。初めは誰かに色んな感情を抱いたり、抱かれるのが怖いなって思ってたのに、今は楽しいって思えるようになったんだ。」
 大地は微笑みながら、そのまま横寝の姿勢を取る。
「ここに来て良かったか?」
「うん。」
 海斗が迷いの無い瞳で頷くのを満足そうに大地は見ていた。
 暫く沈黙が続いた。聞こえてくるのは壁に掛かった時計の音だけだった。

 海斗は微笑みながら、まるで母親が子どもに子守唄を歌うかのように口を開いた。
「子どもを堕した理由なんだけどさ」
 大地も天井を見つめていたが、横目で海斗を無言で一瞥する。
「ずっと母さんが機嫌悪い時に俺に言ってた言葉があるんだ。」
「うん。」
 大地は海斗との距離をそっと縮めた。
「俺、いっつもそういう時は襖とかに逃げ込むんだ。バカだよな。すぐ見つかっちゃうのに。」と海斗は小さく鼻で笑う。
「母さん、いつも酔っ払ってるような人だったんだけどさ。いつも言うんだよ。」

「子どもを産んだら沢山の養育費を貰えるって思ったから、仕方なくお前を産んだんだって。本当は別に産みたくなかったって。だから余計なことをするなって。」
 海斗は右隣を見る。大地が自分の手を握っていたからだ。海斗は躊躇いもせず、その手を握り返した。

「あの時、俺が子どもを産んでいたら、おんなじことしちゃうんじゃないかって不安だったんだ。自分の子どもも、同じ目に遭っちゃうんじゃないかって」
「海斗はそんなことしない。」
 隣からの鋭い声に海斗は大地の顔を凝視する。大地もこちらをしっかり見ていた。
「俺が保証するし、俺がそうさせない。」
 握る手がどんどん強くなっていくのを海斗は涙目になりながら、もう片方の手も重ねる。右手の薬指の指輪が冷たく、今の体温には丁度良かった。それに気づいたのか、大地は海斗の左手の甲にキスをした。

「こっちの指にも嵌めてやるからな。」

 そうはっきり言い切った後に、大地は少しはにかんだ。
「きゅ、急遽、お金も100万手に入ったしな。」

 海斗は笑った。
「元々、大地のお金だろ。」

 その様子をテディベアもまるで見ていたかのように、ずっと笑っていた。


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