ゼロから千まで

三旨加泉

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「ゼロから千まで」5話

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「ゼロから千まで」5話


 千歳はドアを眺めた。ゆっくり静かにパタ…パタ…という足音が聞こえる。もう誰の足音なのか千歳には分かっていた。暫く耳を澄ませていると、ドアがゆっくり開いた。案の定、そこには零一が立っていた。
「おはよう、千歳。」
 今日は休日で午後から部活だと言っていたが、午前中だけでも会いたいと言われ、朝から零一と会うことになっていた。
「休みだから、勉強も休みでいいんじゃない?」
「ダメダメ。千歳、ずっとおんなじところで躓いてるんだもの。」
 零一は再びノートと教科書、加えて問題集まで取り出し始めた。
「今日こそ覚えてもらわないと」
 まるで千歳には零一が鬼教師に見え始めていた。少しムスッと頰を膨らませた千歳を見て零一は余裕の笑みを浮かべる。
「どうしたの?嫌になっちゃった?」
「零一イジワル。勉強、アキタ。」
 カタコトな言葉遣いに零一はアハハと笑っている。そして、一向にシャープペンシルを握る気のない右手にそっと彼は自分の手を重ねた。ギョッとして千歳は零一をそっと見遣る。しかし、彼はそれを待ち受けていたかのように、こちらの顔を挑戦的な笑みを浮かべながら覗き込んでいた。

「じゃあ、ずっとこうしてる?」

 暫く二人はそのまま見つめ合った。彼と至近距離で長時間目が合い、彼の瞳の形も色も綺麗にはっきり見える。相手が全く怯む様子も無かったので、観念したように千歳は零一から手を離し、シャープペンシルを手に取った。
「えー、もっとこうしていたかったなぁ」
 零一の残念そうな表情を千歳は横目で見遣る。こんな霧崎零一を見るのは人生で初めてだった。顔が火照り、耳まで熱くなっているのが伝わってくる。早く12時になれ、と心から千歳は願った。


 ようやく零一が部活を理由に病室を去ったのを窓の外から確認し、千歳はホッと息をついた。今までに感じたことのない雰囲気にまだ心臓は慣れていなかった。やけに日が差す窓ガラスが眩しく感じる。
 すると、病室のドアの向こうから甲高い笑い声が聞こえた。聞き覚えのある声に千歳は体を起こし、待ち構える。ドアを開けた人物たちは、学校でよく一緒に連む友人たちだった。
「おひさー」
 緩く結ばれた二つ結びの女子と、ボブの髪型をした小麦色に焼けた女子、ショートカットの背の高い女子が次々と病室へ入ってきた。彼女たちのいつもと変わらない笑顔を見て千歳は心から安心し、二つ結びの女子に抱きつく。

「助けて、助けて!!」

 千歳の助けを呼ぶ声に友人三人は顔を見合わせている。
「え、ひょっとしてマジでヤバい感じ?」
「事件のトラウマってやつ?」
 ヒソヒソと三人で話し合ってる姿に千歳はさらに叫ぶ。
「零一の様子がおかしい!助けて!」
 千歳の言葉にさらに三人の表情は険しくなっていった。
「うわ、マジ?霧崎、ここ来てるの?」
 千歳が勢い良く頷いているのを見て三人は気まずそうに頭を掻く者、溜息をつく者、苦笑いを浮かべる者と各々反応を示したが、どれも嫌な予感がするものばかりだった。

「やっぱ、本当だったんじゃないの?」
「えー、でも千歳にそんな能力あると思えないんだよね。」
「なんの話?ねぇ、なんの話?」
 再びヒソヒソ話を始めようとした三人に慌てて千歳が割り込むと、二つ結びの女子が髪を弄りながら気まずそうに口を開く。

「別れたんだって、霧崎と百合愛。」


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