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「ゼロから千まで」12話
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「ゼロから千まで」12話
千歳があの日、零一が屋上に向かったことを知っていたのは単純なことで、千歳も同じ美化委員だったからだ。その日は零一が屋上にある物置の整理を担当していた。そんなことを彼女である百合愛に伝えたことを覚えている。
まさか、その後に自分が刺されるとは思っていなかったが、百合愛があの場に行かなくて良かったと千歳は思っていた。なぜなら、百合愛はその日、零一と一緒に帰る予定だったからだ。
「え。優し過ぎじゃない?怒られたんでしょ?」
千歳は顔を上げる。そこには、三来が怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
「そんな心配する必要ないよ。普通、千歳の心配するもんじゃん。」と自分のことでもないのに三来は悪態をついていた。
「ひょっとしたら、すでにそん時に霧崎と揉めたりしてたんじゃないの?千歳のところに何回かお見舞いに来てたんでしょ?その日はイライラしてたんじゃないの。」
「でもさー」
三来は世羅の思いつきに納得していない様子だったが、すぐポカンとしている千歳を見て口を噤んだ。
「千歳はお人好しだからねぇ。私は千歳と霧崎が付き合うのありだと思うけどなぁ」と口に指を当てながら上を見上げている二葉を見て千歳はベッドから立ち上がった。
「困る困る!!すっごい困る!!」
バタバタ手を上下に振る千歳を見て笑いながら世羅は言った。
「まあ、あんたの好きにしたらいいんじゃない?どの道、付き合おうが付き合わなかろうが、別に怒られる立場じゃないんだし」
世羅は運動着が入ったショルダーバッグを肩にかける。
「またゼロからのスタートみたいな感じで、霧崎と接してみたら?」
千歳は不安そうに三人が病室を出ていく様子を見ていたが、三人は明るく「また来るね。」と言っていた。
静かになった病室で、一人ベッドに横たわり、初め見た光景と同じ、真っ白な天井を眺める。
自分はただ百合愛と仲直りをしたかった。そんなつもりではないこと。誤解が起きていることを分かって欲しいだけだった。
二葉たちが言っているような、別に恋愛をしたいというわけではない。そもそも、恋愛とは何なのか。誰かに恋をするとは、どんなものなのか。それは楽しいのか?友人たちや祖父母たちと過ごすことよりも楽しいものなのだろうか。
「零一と、ゼロからのスタート」
さっきの世羅の言葉が頭に浮かび上がってくる。零一と幼い頃のように過ごせるだろうか。前のように話せるだろうか。自分より前を歩いて見える背中が小さくなっていた彼が、今は常に自分の隣にいる。それでもどこか違う場所にいるような、決して交わることがないズレた空間の中にいるような、そんな居心地の悪さを千歳は感じていた。
千歳はベッドから起き上がり、窓の外を見る。病院の入り口付近が目に入る。あの黒いコンクリートの上を、明日も零一は歩いてくるのだろうな、と千歳は窓ガラスに手を添えながら物思いに耽っていた。
千歳があの日、零一が屋上に向かったことを知っていたのは単純なことで、千歳も同じ美化委員だったからだ。その日は零一が屋上にある物置の整理を担当していた。そんなことを彼女である百合愛に伝えたことを覚えている。
まさか、その後に自分が刺されるとは思っていなかったが、百合愛があの場に行かなくて良かったと千歳は思っていた。なぜなら、百合愛はその日、零一と一緒に帰る予定だったからだ。
「え。優し過ぎじゃない?怒られたんでしょ?」
千歳は顔を上げる。そこには、三来が怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
「そんな心配する必要ないよ。普通、千歳の心配するもんじゃん。」と自分のことでもないのに三来は悪態をついていた。
「ひょっとしたら、すでにそん時に霧崎と揉めたりしてたんじゃないの?千歳のところに何回かお見舞いに来てたんでしょ?その日はイライラしてたんじゃないの。」
「でもさー」
三来は世羅の思いつきに納得していない様子だったが、すぐポカンとしている千歳を見て口を噤んだ。
「千歳はお人好しだからねぇ。私は千歳と霧崎が付き合うのありだと思うけどなぁ」と口に指を当てながら上を見上げている二葉を見て千歳はベッドから立ち上がった。
「困る困る!!すっごい困る!!」
バタバタ手を上下に振る千歳を見て笑いながら世羅は言った。
「まあ、あんたの好きにしたらいいんじゃない?どの道、付き合おうが付き合わなかろうが、別に怒られる立場じゃないんだし」
世羅は運動着が入ったショルダーバッグを肩にかける。
「またゼロからのスタートみたいな感じで、霧崎と接してみたら?」
千歳は不安そうに三人が病室を出ていく様子を見ていたが、三人は明るく「また来るね。」と言っていた。
静かになった病室で、一人ベッドに横たわり、初め見た光景と同じ、真っ白な天井を眺める。
自分はただ百合愛と仲直りをしたかった。そんなつもりではないこと。誤解が起きていることを分かって欲しいだけだった。
二葉たちが言っているような、別に恋愛をしたいというわけではない。そもそも、恋愛とは何なのか。誰かに恋をするとは、どんなものなのか。それは楽しいのか?友人たちや祖父母たちと過ごすことよりも楽しいものなのだろうか。
「零一と、ゼロからのスタート」
さっきの世羅の言葉が頭に浮かび上がってくる。零一と幼い頃のように過ごせるだろうか。前のように話せるだろうか。自分より前を歩いて見える背中が小さくなっていた彼が、今は常に自分の隣にいる。それでもどこか違う場所にいるような、決して交わることがないズレた空間の中にいるような、そんな居心地の悪さを千歳は感じていた。
千歳はベッドから起き上がり、窓の外を見る。病院の入り口付近が目に入る。あの黒いコンクリートの上を、明日も零一は歩いてくるのだろうな、と千歳は窓ガラスに手を添えながら物思いに耽っていた。
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