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「ゼロから千まで」13話
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「ゼロから千まで」13話
その日の夜、夢を見た。百合愛がベッドの横に座り、自分の手を握ってくれる。
「千歳ちゃんは、私が守るからね。」
なぜか夢の中の百合愛はそう言っていた。朧げで輪郭が暈けた手が自分の頬に触れた感覚があった。その温かさが心地良く、千歳はまた意識を失い、気がつけばカーテンから漏れる朝日で目を覚ましていた。
外は晴れやかだが、千歳の頭の中はまだあの不鮮明な夢の映像を残したままだった。
きっと、百合愛と仲直りしたいという気持ちが夢となって現れたのだろう。見舞いに来なくなった彼女が、お見舞いに来てくれる。自分の願望がはっきりと夢に出ていた。
「ねぇ。聞いたよ。百合愛と別れたの。」
零一は千歳にこれから説明するであろう、手書きのノートを開いていた。彼はこちらを見ずに答えた。
「そうなんだ。」
淡白な返答は体育祭前の帰り道を思い出す。
「なんで?」
千歳の真っ直ぐな質問に零一はノートのページを捲りながら答える。
「合わなかったんだよ、考え方が。」
考え方。今まで授業で何度も聞いてきた言葉だが、今は呪文か何かのように聞こえた。
「どんな、考え方?」
「どんなって、色々あるけど」
零一は明後日の方向を向きながら教科書を取り出す。
「大切な人への気持ちの違いかな。」
「大切な人」
恋人同士の悩みは何やら複雑そうだ。千歳は考えることをやめたくなったが、目の前にある教科書と問題集を見て一気に脱力した。これからこの強敵相手に戦わなければいけないのかと問題集を睨みつけた。
「千歳はよく僕を守ってくれたよね。」
零一はまるでアルバムを捲るみたいにノートを捲った。
「零一を?」
「そう。ほら、ぼくが子どもの頃、鈍臭いからか、よくクラスのガキ大将に目をつけられたり、何もないところで転んだ時、いつも千歳が助けてくれたよね。」
千歳は頭を捻った。そういえばそんなこともあったな、と懐かしい気持ちが湧いてくる。しかし、それよりも零一が突然こどもの頃の話をし始めたことに驚きを隠せなかった。
「千歳はいつも僕を守ってくれていた。」
零一はもう一度同じことを言った。一緒に遊んでいた頃がつい昨日のように思えるくらい今の零一は懐かしかった。体育祭前の会話の時は彼は前を歩いていて、顔はよく見えなかったが、いま正面から彼を見るとすっかり顔は大人びていた。あの頃の優しい瞳は変わっていないように思える。千歳にとってこのことは筆舌に尽くし難い喜びを感じさせられた。
世羅に言われた言葉を思い出し、千歳は零一と昔の話をすることを楽しんだ。昔遊んだごっこ遊びや、探検した裏山や原っぱで見つけた花やカエル、木の棒など千歳の口から止めどなく溢れ出てきた。零一も相槌を打ち、時には千歳の記憶を補完したりと、彼もあの子供時代をちゃんと憶えていた。
静かに千歳の話を聞いている零一はあの頃と変わらず優しい表情をしていた。時間が巻き戻ったかのように思えた。千歳は零一とまた友人としてやっていけるのではないかと心の中でそう考えたくらいだ。
しかし、零一はそっとこの間の時のように元気良く身振り手振りしている千歳の手を握った。千歳が固まると零一は千歳の目を見て「そろそろ勉強しよう。」と言ってくる。その姿だけは今までの零一とは全く異なるものだった。
千歳が慌ててノートを取り出すのを頬杖をつきながら寂しそうに零一は眺めている。
「時間が全然足りないよ。ずっと、この時間が続けばいいのに。」
その日の夜、夢を見た。百合愛がベッドの横に座り、自分の手を握ってくれる。
「千歳ちゃんは、私が守るからね。」
なぜか夢の中の百合愛はそう言っていた。朧げで輪郭が暈けた手が自分の頬に触れた感覚があった。その温かさが心地良く、千歳はまた意識を失い、気がつけばカーテンから漏れる朝日で目を覚ましていた。
外は晴れやかだが、千歳の頭の中はまだあの不鮮明な夢の映像を残したままだった。
きっと、百合愛と仲直りしたいという気持ちが夢となって現れたのだろう。見舞いに来なくなった彼女が、お見舞いに来てくれる。自分の願望がはっきりと夢に出ていた。
「ねぇ。聞いたよ。百合愛と別れたの。」
零一は千歳にこれから説明するであろう、手書きのノートを開いていた。彼はこちらを見ずに答えた。
「そうなんだ。」
淡白な返答は体育祭前の帰り道を思い出す。
「なんで?」
千歳の真っ直ぐな質問に零一はノートのページを捲りながら答える。
「合わなかったんだよ、考え方が。」
考え方。今まで授業で何度も聞いてきた言葉だが、今は呪文か何かのように聞こえた。
「どんな、考え方?」
「どんなって、色々あるけど」
零一は明後日の方向を向きながら教科書を取り出す。
「大切な人への気持ちの違いかな。」
「大切な人」
恋人同士の悩みは何やら複雑そうだ。千歳は考えることをやめたくなったが、目の前にある教科書と問題集を見て一気に脱力した。これからこの強敵相手に戦わなければいけないのかと問題集を睨みつけた。
「千歳はよく僕を守ってくれたよね。」
零一はまるでアルバムを捲るみたいにノートを捲った。
「零一を?」
「そう。ほら、ぼくが子どもの頃、鈍臭いからか、よくクラスのガキ大将に目をつけられたり、何もないところで転んだ時、いつも千歳が助けてくれたよね。」
千歳は頭を捻った。そういえばそんなこともあったな、と懐かしい気持ちが湧いてくる。しかし、それよりも零一が突然こどもの頃の話をし始めたことに驚きを隠せなかった。
「千歳はいつも僕を守ってくれていた。」
零一はもう一度同じことを言った。一緒に遊んでいた頃がつい昨日のように思えるくらい今の零一は懐かしかった。体育祭前の会話の時は彼は前を歩いていて、顔はよく見えなかったが、いま正面から彼を見るとすっかり顔は大人びていた。あの頃の優しい瞳は変わっていないように思える。千歳にとってこのことは筆舌に尽くし難い喜びを感じさせられた。
世羅に言われた言葉を思い出し、千歳は零一と昔の話をすることを楽しんだ。昔遊んだごっこ遊びや、探検した裏山や原っぱで見つけた花やカエル、木の棒など千歳の口から止めどなく溢れ出てきた。零一も相槌を打ち、時には千歳の記憶を補完したりと、彼もあの子供時代をちゃんと憶えていた。
静かに千歳の話を聞いている零一はあの頃と変わらず優しい表情をしていた。時間が巻き戻ったかのように思えた。千歳は零一とまた友人としてやっていけるのではないかと心の中でそう考えたくらいだ。
しかし、零一はそっとこの間の時のように元気良く身振り手振りしている千歳の手を握った。千歳が固まると零一は千歳の目を見て「そろそろ勉強しよう。」と言ってくる。その姿だけは今までの零一とは全く異なるものだった。
千歳が慌ててノートを取り出すのを頬杖をつきながら寂しそうに零一は眺めている。
「時間が全然足りないよ。ずっと、この時間が続けばいいのに。」
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