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「ゼロから千まで」14話
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「ゼロから千まで」14話
千歳が元気にベッドから起き上がり、軽いステップを踏みながら顔を洗いに病室を出た。もう体は刺される前と大差ないくらいには回復していた。勢い良く水を顔に掛けながら千歳は鏡を見遣る。昨日は零一といつものようにお喋りできたことが楽しく、気分が良かった。零一はずっとこの時間が続けばいいって言っていたけど、それは千歳も同じだった。零一はもう子どもの頃に遊んだ記憶なんてどうでもいいものだと思われているのではないかと不安だったが、彼にとってもあの頃の記憶は大事な心のアルバムの一部だったようだ。
百合愛のことは気掛かりだが、今はすっかり疎遠になってしまっていた零一とまた話が出来るようになったことを素直に喜ぶことにした。恋愛のことはよく分からないが、零一と百合愛の関係はあの二人だけのものだ。自分がどうこうできるものではない。零一が百合愛と別れたことに納得がいっている以上、千歳一人の意見で二人を振り回すわけにもいかなかった。とりあえず、今は目の前にある環境を大事にしようと改めて千歳は考える。
初めは気まずいと思っていた零一との会話は、一度は白紙に戻ったような友人関係がまたゼロからスタートしたと考えればいい。
そう千歳が考えながらお手洗いを出ると、自分の病室に零一が入っていくのが見えた。今日は随分と早いなぁと思いながら千歳は病室を開けた。すると、ベッドの布団を勢い良く取り払う零一がいた。驚いてその場で固まっていると、零一は誰も寝ていないベッドを凝視していた。
「千歳?」
「ういっす。」
自分の名前が呼ばれたので、いつも通り返事をすると、零一はこちらを勢い良く振り向き、持っていた布団を無造作にベッドの上に置いてこちらへ駆け寄ってきた。強めに肩を掴まれ、千歳はギョッとする。しかし、掴んでいる力の強さとは裏腹に零一の表情は柔らかかった。
「良かった。いなくなっちゃったのかと思った。」
「顔洗ってた。」
「そっかそっか。」
零一の今にも泣き出しそうな表情に狼狽しながらも千歳はベッドに座り、無造作に置かれた布団を膝の上に被せた。零一はようやく落ち着きを取り戻したのか、いつものようにベッドの横に置いてある丸椅子に座っていた。まるで命の危機が過ぎたかのような零一の様子を千歳は不思議そうに眺めていたが、そろそろ朝ごはんなので心が弾み始める。
「零一は今日早いね。一緒に朝ごはん食べる?」
零一はゆっくり首を横に振った。
「千歳が食べるのを見てるよ。」
「そ、そう?」
少し驚いたが、いつも通り運ばれてきた朝食を千歳は口いっぱいに頬張った。まだ外を歩き回れないのは退屈だが、ご飯の時間は相変わらず至福の時だった。
「メロンパンもまた買ってきたから、おやつに食べようよ。」
さらに零一の言葉にやる気が徐々に漲ってくる。「ほんとう!?」と言おうとしたが、口にご飯が詰め込まれていたのと、ずっと笑顔で凝視してくる零一の様子を見てどぎまぎしながら大人しく食事をすることにした。
ご飯を食べるのは好きだが、誰かに見ながらというのは緊張した。零一はまるでペットの犬か猫かが食事しているのを眺めているかのような、そんな雰囲気を感じた。居た堪れなくなったので、千歳は「今日は何時までいるの?」と話題を振ると零一は笑顔で返した。
「ずっとだよ。」
千歳が元気にベッドから起き上がり、軽いステップを踏みながら顔を洗いに病室を出た。もう体は刺される前と大差ないくらいには回復していた。勢い良く水を顔に掛けながら千歳は鏡を見遣る。昨日は零一といつものようにお喋りできたことが楽しく、気分が良かった。零一はずっとこの時間が続けばいいって言っていたけど、それは千歳も同じだった。零一はもう子どもの頃に遊んだ記憶なんてどうでもいいものだと思われているのではないかと不安だったが、彼にとってもあの頃の記憶は大事な心のアルバムの一部だったようだ。
百合愛のことは気掛かりだが、今はすっかり疎遠になってしまっていた零一とまた話が出来るようになったことを素直に喜ぶことにした。恋愛のことはよく分からないが、零一と百合愛の関係はあの二人だけのものだ。自分がどうこうできるものではない。零一が百合愛と別れたことに納得がいっている以上、千歳一人の意見で二人を振り回すわけにもいかなかった。とりあえず、今は目の前にある環境を大事にしようと改めて千歳は考える。
初めは気まずいと思っていた零一との会話は、一度は白紙に戻ったような友人関係がまたゼロからスタートしたと考えればいい。
そう千歳が考えながらお手洗いを出ると、自分の病室に零一が入っていくのが見えた。今日は随分と早いなぁと思いながら千歳は病室を開けた。すると、ベッドの布団を勢い良く取り払う零一がいた。驚いてその場で固まっていると、零一は誰も寝ていないベッドを凝視していた。
「千歳?」
「ういっす。」
自分の名前が呼ばれたので、いつも通り返事をすると、零一はこちらを勢い良く振り向き、持っていた布団を無造作にベッドの上に置いてこちらへ駆け寄ってきた。強めに肩を掴まれ、千歳はギョッとする。しかし、掴んでいる力の強さとは裏腹に零一の表情は柔らかかった。
「良かった。いなくなっちゃったのかと思った。」
「顔洗ってた。」
「そっかそっか。」
零一の今にも泣き出しそうな表情に狼狽しながらも千歳はベッドに座り、無造作に置かれた布団を膝の上に被せた。零一はようやく落ち着きを取り戻したのか、いつものようにベッドの横に置いてある丸椅子に座っていた。まるで命の危機が過ぎたかのような零一の様子を千歳は不思議そうに眺めていたが、そろそろ朝ごはんなので心が弾み始める。
「零一は今日早いね。一緒に朝ごはん食べる?」
零一はゆっくり首を横に振った。
「千歳が食べるのを見てるよ。」
「そ、そう?」
少し驚いたが、いつも通り運ばれてきた朝食を千歳は口いっぱいに頬張った。まだ外を歩き回れないのは退屈だが、ご飯の時間は相変わらず至福の時だった。
「メロンパンもまた買ってきたから、おやつに食べようよ。」
さらに零一の言葉にやる気が徐々に漲ってくる。「ほんとう!?」と言おうとしたが、口にご飯が詰め込まれていたのと、ずっと笑顔で凝視してくる零一の様子を見てどぎまぎしながら大人しく食事をすることにした。
ご飯を食べるのは好きだが、誰かに見ながらというのは緊張した。零一はまるでペットの犬か猫かが食事しているのを眺めているかのような、そんな雰囲気を感じた。居た堪れなくなったので、千歳は「今日は何時までいるの?」と話題を振ると零一は笑顔で返した。
「ずっとだよ。」
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