ゼロから千まで

三旨加泉

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「ゼロから千まで」25話

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「ゼロから千まで」25話


 朝、目を覚ますと目の前に零一の顔があった。驚いて千歳は飛び上がる。しかし、それと同時に昨日の夜に零一と添い寝したことを思い出した。
 千歳は恐る恐る自分の唇を触る。触ると沸々と昨日のキスの感覚を思い出させる。一気に鼓動が速まり、千歳は後ろへ仰反る。その振動で零一が目を覚ました。
「おはよう、ちーちゃん。珍しいね、早起き。」
 時計を見ると、まだ六時にもなっていなかった。昨日は零一とハグもキスもしたというのに、気分は高揚するどころか落ち着いていた。実感が湧いてきたのか、寧ろ今頃になって千歳の顔は紅潮し、ドキドキし始めた。そんな様子のおかしい千歳を見て、零一は心配そうに顔を覗き込んでくる。
「大丈夫?」
 零一の顔が近づくと、昨日のキスを思い出してしまい、思わず後退る。嫌われたと思ったのか、零一は困り眉をして「嫌いになっちゃった?」と言ってくる。千歳は慌てて首を勢い良く横に振ると嬉しそうに零一はまた千歳をハグした。
「朝ごはん食べたら、お家まで送るよ。」
「れいちゃん、学校じゃん?だから、一人で帰れるよ。もう体も元気ー」
「それでも、僕が送るよ。」と強い口調で去なされたので、千歳は大人しく従うことにした。
 朝ごはんに零一が作った卵焼きも味噌汁も絶品だった。綺麗に艶さえも感じる黄色い見た目に、前に一度だけ祖母に教わって焼いた見事に焦がして原型を留めていなかった自分の卵焼きが頭を過ぎる。
 普段、他人からどう思われるのか考えない千歳だが、零一に自分の不器用な仕草や作った物を見られたくないと思うようになっていた。
 アパートを出ると零一は当たり前のように手を繋いできた。千歳は辺りを見渡す。普段、木を登っていても誰の視線も気にしなかった千歳は、たった誰かの手を握るという行為に頬を赤らめ、周りの反応を気にし始めていた。
 そっと顔を上げると、零一も周りを見渡している様子だった。きっと零一も恥ずかしいのかもな、と千歳は少し安心した。しかし恥ずかしいとは思ったが、千歳は零一の手を握る方を選んだ。そっちの方が心が温まるからだ。

 千歳の家に着くと、玄関で零一と話している声が聞こえたのか、祖父が飛んできた。
「おまえ!!無事だったか!!!」と慌てて来る様子は、まるで魔王に挑みに行った村人を見る目だった。祖父の後ろから祖母が顔を出す。
「あら、おかえりなさい。楽しかった?」
「うん。」
「何もされなかっただろうな!?」
 祖父のギラリと睨む目に思わず顔を背ける。何もされていないと言えば嘘になる為、祖父の顔を直視できなかった。
「おい!やっぱり!!俺は反対だぞ!」
「もう、おじいさん、酔ってるのよ。昨日しみじみと一人でお酒を呷っていたではありませんか。千歳が家を出ていくって」
「え?うち、ちゃんと帰ってきたよ?」
 キョトンとしている千歳の顔を見て祖母はクスクス笑っていた。


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