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「ゼロから千まで」30話
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「ゼロから千まで」30話
「え!え!?どういうこと!?」
二葉が混乱しながら三来の腕をさらに強く掴む。
「痛い痛い」
零一はそんなやり取りをしている二人を他所にさらに話を続ける。
「百合愛が来たのは夜中だった。」
「そ、その間どうしてたのよ。」と世羅は睨むように零一を見る。零一も唸った。
「分からない。たぶん病院の中で潜んでいたんだと思う。」
「何よそれ。霧崎と会うのが気まずかったってこと?」
「いや。」と零一はすぐに三来の言葉を否定した。
「百合愛はちゃんと会いに来たよ。夜中に。」
三人は恐怖で慄いた。普通なら本人が起きてる時に会うはずだ。それなのに敢えて寝静まった頃に百合愛は会いに来たのだ。
零一は歩きながら当時のことを詳しく話し始めた。それはそれは三人が容易に想像できる程に。
消灯した月明かりが入る寝室の中で、二人の男女を照らした。
零一は寝息を立てる千歳の寝顔を眺める。千歳が無意識にお腹を摩る様子に胸が痛む。その患者衣の下には自分を庇った傷痕があるのだろう。零一はそっと千歳の手を握ろうとする。
しかし、零一は手を止めた。なぜなら背後にあるドアがゆっくり動く音がしたからだ。振り返ると、小さく開いた扉からドアを掴む人の指が見えた。零一は息を呑んだ。
「百合愛?」
ドアがゆっくり開き、相手の姿がハッキリと月明かりに照らされる。須藤百合愛だった。百合愛は後ろ手を組み、こちらへ近づいてくる。零一が寝ている千歳を庇う為に前に立った。
「邪魔しないでくれる?」
百合愛は後ろ手で持っていたカッターを取り出す。カッターはいつも文化祭の準備で見掛けるが、この時はさすがに不気味で恐怖心を煽られた。
しかし、零一はここで引くわけにはいかなかった。そっと後ろにいる千歳の寝顔を一瞥する。
「それで刺すつもりかい?」
百合愛は笑みを浮かべながら首を横に振った。
「大事にしたら可哀想だもの。しないわよ。」
百合愛がカッターをバッグに仕舞ったのを見て零一は胸を撫で下ろした。百合愛は髪先を弄りながら零一に訊ねる。
「せっかく千歳ちゃんが一人の時を狙ったのに、どうしているの?」
「宿泊の名簿が見えたんだよ。君の名前があった。」
「杜撰な管理ね。」
百合愛は溜息をついて千歳の寝顔を見遣る。
「また来るわね、千歳ちゃん。」
そう言って百合愛は不気味な笑みを浮かべながら病室を出て行った。
この間、千歳は熟睡しているのか寝返りすらしなかった。再び静寂が病室内に訪れる。その時に初めて零一は自分の背中が冷や汗で濡れていることに気がついた。
先程まで明るいと感じていた月明かりも、どこか月が自分たちを見張っているような、そんな気がした零一は、ただ千歳の手を握って彼女の体温を確かめた。
相変わらず千歳の手は温かった。
「え!え!?どういうこと!?」
二葉が混乱しながら三来の腕をさらに強く掴む。
「痛い痛い」
零一はそんなやり取りをしている二人を他所にさらに話を続ける。
「百合愛が来たのは夜中だった。」
「そ、その間どうしてたのよ。」と世羅は睨むように零一を見る。零一も唸った。
「分からない。たぶん病院の中で潜んでいたんだと思う。」
「何よそれ。霧崎と会うのが気まずかったってこと?」
「いや。」と零一はすぐに三来の言葉を否定した。
「百合愛はちゃんと会いに来たよ。夜中に。」
三人は恐怖で慄いた。普通なら本人が起きてる時に会うはずだ。それなのに敢えて寝静まった頃に百合愛は会いに来たのだ。
零一は歩きながら当時のことを詳しく話し始めた。それはそれは三人が容易に想像できる程に。
消灯した月明かりが入る寝室の中で、二人の男女を照らした。
零一は寝息を立てる千歳の寝顔を眺める。千歳が無意識にお腹を摩る様子に胸が痛む。その患者衣の下には自分を庇った傷痕があるのだろう。零一はそっと千歳の手を握ろうとする。
しかし、零一は手を止めた。なぜなら背後にあるドアがゆっくり動く音がしたからだ。振り返ると、小さく開いた扉からドアを掴む人の指が見えた。零一は息を呑んだ。
「百合愛?」
ドアがゆっくり開き、相手の姿がハッキリと月明かりに照らされる。須藤百合愛だった。百合愛は後ろ手を組み、こちらへ近づいてくる。零一が寝ている千歳を庇う為に前に立った。
「邪魔しないでくれる?」
百合愛は後ろ手で持っていたカッターを取り出す。カッターはいつも文化祭の準備で見掛けるが、この時はさすがに不気味で恐怖心を煽られた。
しかし、零一はここで引くわけにはいかなかった。そっと後ろにいる千歳の寝顔を一瞥する。
「それで刺すつもりかい?」
百合愛は笑みを浮かべながら首を横に振った。
「大事にしたら可哀想だもの。しないわよ。」
百合愛がカッターをバッグに仕舞ったのを見て零一は胸を撫で下ろした。百合愛は髪先を弄りながら零一に訊ねる。
「せっかく千歳ちゃんが一人の時を狙ったのに、どうしているの?」
「宿泊の名簿が見えたんだよ。君の名前があった。」
「杜撰な管理ね。」
百合愛は溜息をついて千歳の寝顔を見遣る。
「また来るわね、千歳ちゃん。」
そう言って百合愛は不気味な笑みを浮かべながら病室を出て行った。
この間、千歳は熟睡しているのか寝返りすらしなかった。再び静寂が病室内に訪れる。その時に初めて零一は自分の背中が冷や汗で濡れていることに気がついた。
先程まで明るいと感じていた月明かりも、どこか月が自分たちを見張っているような、そんな気がした零一は、ただ千歳の手を握って彼女の体温を確かめた。
相変わらず千歳の手は温かった。
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