ゼロから千まで

三旨加泉

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「ゼロから千まで」29話

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「ゼロから千まで」29話


「いなかったよ、百合愛。すれ違わなかった。」
 世羅の言葉に零一は顔を上げた。その顔は安心感と不安感、両方を兼ね揃えていた。
「なになに?どういうこと?」
 二葉が世羅と零一の顔を交互に見遣る。
「あんたは黙ってな。」
 そんな二葉の肩に三来は手を置いて宥める。

 零一と二葉、三来、世羅の三人は校門からゆっくりと歩き始めた。零一はこちらも気にしてはいたが、ずっと零一は辺りを見渡していた。まるで刑事ドラマで張り込みでもしているかのような緊迫した空気だった。そんな零一の様子に三人は息を呑む。
 零一は視線をようやくこちらへ移す。
「君たちは、ちーちゃんの友達なんだよね。」
「当たり前じゃん。」
「当たり前じゃん。」
「当たり前じゃん。」
 三人の声がハモるのを聞いてようやく零一は笑った。朗らかな笑顔に友人の彼氏ながら世羅はドキッとした。他の二人を見ると、どうやら同じことを考えているようだった。
「良かった。」
 すると、零一は柔らかい笑顔から真剣な顔に変わり、世羅たちを見つめる。その迫力に三人は押されそうになる。
「君たちにお願いがあるんだ。」
「お願い?」
「そう。学校や今みたいにどこか出掛けた際、百合愛を見掛けたら教えて欲しいんだ。」
 零一の鋭い視線はまるでホシを捜している刑事そのものだった。もう二葉は零一を浮気者と言える状態ではないことを悟った。
「なんでそんなに百合愛が気になるわけ?」
 零一は気まずそうに視線を泳がせた。
「千歳が入院している時に、泊まり申請をしたことがあるんだけど。」
「あー、あんたらが付き合ったっていう伝説の?」
 三来のつまらなさそうな表情など構わず零一は続ける。
「百合愛の名前があったんだ。」
「え?」
 二葉のか細い声が寒い夜の空気に消えていく。世羅は訝しんだ。
「どういうこと?」
「僕は初め、泊まり申請をするつもりは無かった。でも、百合愛の名前を見た時、嫌な予感がしてね。僕も何とか理由を並べて申請したんだよ。」
「え、なになに?どういうこと??」
 奇怪な出来事に二葉は怯え始める。
「千歳に僕の泊まりのことを言っても百合愛の話は一切しなかった。千歳は百合愛の泊まり申請のことすら知らないんだと思う。」
 世羅は動揺の声を上げる。千歳が知らないのは三人も知っている。確かに零一が泊まりに来たという千歳の説明に百合愛の名前は出てこなかった。
「じゃあ、百合愛は実際には病院に来なかったってこと?」と三来は考えるように腕組みした。その腕に二葉はしがみつく。
 すると、さっきまで前を向いていた零一は一つ深呼吸をして、こちらへ向き直った。

「来たよ、百合愛。」

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