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第二章 ピストルと郵便脚夫
裏切者
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草介は暗夜の道を力の限り駆け戻っていた。
賊の正体だった男のものも含め、二人分の荷を担いでのことだ。
あまりのことにしばし放心していた草介だったが、ともかくも自身の成すべきことを成さねばならない。
二人分の郵便をこのまま届けるか? いや、この重さの物をこの暗闇で次の中継所まで運べはしまい。
そう思い至ると、草介はやおら立ち上がり気合を入れて二人分の郵便を担ぎ上げた。
この距離なら元来た道を戻って取扱所に還った方が早い。旦那に報告して事後処理を考えてもらおう。
いや、そもそも旦那の身にももしかすると危険が及んでいるのではないか。
何年も一緒に働いた仲間の脚夫が裏切者だったのだ。
片倉といった年嵩の新入りだって今頃どうなっているか分かりはしない。
草介は走った。早く、早く、一刻も早く。
荷の重さも、脚腰があげる悲鳴も、無我夢中の草介には何も感じないに等しい。
戻りの道は存外にも短く感じられるほど夢中で走り、旦那の待つ郵便取扱所の小さな灯りが見えるとさらに足を速めた。
「――旦那っ! 旦那ぁっ!!」
息せききって取扱所に駆け込んだ草介は、荷を放り出すと大声で呼ばわりながら執務の間へと向かった。
取扱所とはいっても元は少々立派な普請の百姓家だ。土間から板の間へ上がって、旦那がいるはずの奥の間の戸を開け放った。
「おや、草介。何事だい」
薄明かりの下、洋風の執務机に向かった旦那が静かに顔を上げた。
表情はよく見えないが、逓送に出たはずの脚夫がほどなく一人だけで戻ってくるなど異常事態に決まっている。
草介は息を喘がせながら事の次第を捲し立てた。改めて恐怖と怒りが揺り戻してくるが、旦那が頷きながら聞く様子に少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「で、あいつの銃は」
ひとしきり状況を聞いた旦那がふいに問うた。
「これだよ」
草介は賊の正体だった男が残した銃を手渡す。
旦那が弾倉を検めると、確かに一発分が発射されている。
「おめえさんのは」
「……抜かれて放り投げられたのを見っけらんなかったです」
「そうかい」
旦那は溜息をつき、弾倉をかしゃんと戻した。
「何てことだい、草介」
直後、がちゃりと撃鉄が起こされ、あろうことかその銃口は草介に――。
「戻ってきちゃあ、駄目だろうよ!」
鋭く乾いた破裂音と共に、弾丸が放たれた。
だが草介は一瞬早く転ぶように飛び退り、身を低くして脱兎のごとく部屋から駆け出した。
続けざまにもう一発、今度は草介のすぐ側に着弾したが構わず土間まで走り抜ける。
壁際に積み上げられていた俵の陰に飛び込み、腰に隠していた自身のピストルを抜いて当てずっぽうに撃ち込んだ。
旦那には回収できなかったと言ったが、密かに拾い上げて忍ばせていたのだ。
どうしても考えたくないことだったが、戻りの道を走りながら思い浮かんだ疑念は拭うことができなかった。
長く務めた脚夫の裏切り、いつもの経路を変更した直後の襲撃。
これが意味するところとは――。
そのおそろしい考えは、事態を報告中の旦那のあまりにも落ち着いた様子から確信に変わっていた。
その疑念が、紙一重で草介の身体を反応させたといえよう。
積まれた俵の陰に隠れて、草介は事の成り行きに改めて恐怖が這い登る思いでいた。
俵があるのは土間のほぼ中央。
走り出て外に逃げなくてはと思うが、その間に狙撃されるという直感が足腰を萎えさせている。
どうする、どうする、どうする――。
やがて板の間の奥から、元より忍ばせるつもりもない足音が土間に向かって這い寄ってきた。
賊の正体だった男のものも含め、二人分の荷を担いでのことだ。
あまりのことにしばし放心していた草介だったが、ともかくも自身の成すべきことを成さねばならない。
二人分の郵便をこのまま届けるか? いや、この重さの物をこの暗闇で次の中継所まで運べはしまい。
そう思い至ると、草介はやおら立ち上がり気合を入れて二人分の郵便を担ぎ上げた。
この距離なら元来た道を戻って取扱所に還った方が早い。旦那に報告して事後処理を考えてもらおう。
いや、そもそも旦那の身にももしかすると危険が及んでいるのではないか。
何年も一緒に働いた仲間の脚夫が裏切者だったのだ。
片倉といった年嵩の新入りだって今頃どうなっているか分かりはしない。
草介は走った。早く、早く、一刻も早く。
荷の重さも、脚腰があげる悲鳴も、無我夢中の草介には何も感じないに等しい。
戻りの道は存外にも短く感じられるほど夢中で走り、旦那の待つ郵便取扱所の小さな灯りが見えるとさらに足を速めた。
「――旦那っ! 旦那ぁっ!!」
息せききって取扱所に駆け込んだ草介は、荷を放り出すと大声で呼ばわりながら執務の間へと向かった。
取扱所とはいっても元は少々立派な普請の百姓家だ。土間から板の間へ上がって、旦那がいるはずの奥の間の戸を開け放った。
「おや、草介。何事だい」
薄明かりの下、洋風の執務机に向かった旦那が静かに顔を上げた。
表情はよく見えないが、逓送に出たはずの脚夫がほどなく一人だけで戻ってくるなど異常事態に決まっている。
草介は息を喘がせながら事の次第を捲し立てた。改めて恐怖と怒りが揺り戻してくるが、旦那が頷きながら聞く様子に少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「で、あいつの銃は」
ひとしきり状況を聞いた旦那がふいに問うた。
「これだよ」
草介は賊の正体だった男が残した銃を手渡す。
旦那が弾倉を検めると、確かに一発分が発射されている。
「おめえさんのは」
「……抜かれて放り投げられたのを見っけらんなかったです」
「そうかい」
旦那は溜息をつき、弾倉をかしゃんと戻した。
「何てことだい、草介」
直後、がちゃりと撃鉄が起こされ、あろうことかその銃口は草介に――。
「戻ってきちゃあ、駄目だろうよ!」
鋭く乾いた破裂音と共に、弾丸が放たれた。
だが草介は一瞬早く転ぶように飛び退り、身を低くして脱兎のごとく部屋から駆け出した。
続けざまにもう一発、今度は草介のすぐ側に着弾したが構わず土間まで走り抜ける。
壁際に積み上げられていた俵の陰に飛び込み、腰に隠していた自身のピストルを抜いて当てずっぽうに撃ち込んだ。
旦那には回収できなかったと言ったが、密かに拾い上げて忍ばせていたのだ。
どうしても考えたくないことだったが、戻りの道を走りながら思い浮かんだ疑念は拭うことができなかった。
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これが意味するところとは――。
そのおそろしい考えは、事態を報告中の旦那のあまりにも落ち着いた様子から確信に変わっていた。
その疑念が、紙一重で草介の身体を反応させたといえよう。
積まれた俵の陰に隠れて、草介は事の成り行きに改めて恐怖が這い登る思いでいた。
俵があるのは土間のほぼ中央。
走り出て外に逃げなくてはと思うが、その間に狙撃されるという直感が足腰を萎えさせている。
どうする、どうする、どうする――。
やがて板の間の奥から、元より忍ばせるつもりもない足音が土間に向かって這い寄ってきた。
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