婚約を解消されたし恋もしないけど、楽しく魔道具作ってます。

七辻ゆゆ

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「わぁ……」

 そして展示会の日はやってきた。
 サラはこういった場に出るのが初めてだ。サラが一番詳しい魔道具を展示したときも、ジャストと、彼の選んだ営業の人間が参加していた。
 サラ自身、こういった場に自分は似合わないと思っていた。

 だが、振り向くと笑ってしまう。
 きちんとした格好が落ち着かないサラに負けず劣らず、借りてきた猫のような技師達と社長がいる。

「社長、搬入はちゃんとできましたか?」
「ああうん、どこもぶつけなかったよ。一応、あとで確認してくれ」
「はい。でもここ走ってもいいんですか?」
「あっちの道を使わせてもらうことになってる」
「なるほど……確認してきます!」

 会場に来た人々はきっと目を見張ることだろう。たくさんの人間を乗せた魔導車が、わずかな引っ掛かりもなく滑らかに走り出すのだ。
 サラは踊りだしそうになりながら、試作品と、走らせるルートを確認した。エンジンは問題なくかかる。異音もなし。元気な音を聞いているだけで、回路を行き交う魔導力が見えるようだった。

 うっとりと作業に熱中していたせいで、顔をあげたサラは驚いた。

「ジャスト……?」
「……やあ、サラ。久しぶりだ」

 なぜかブースに入ってきていたジャストはわずかに震えて、ごまかすような微笑みを浮かべた。
 サラが知っているより、なんだか元気のない様子だった。笑っていても、どこか目が暗い。疲れているのだろうか。

「展示を見に来てくれたんですか? あ、それともジャスト……さんの研究所も出展を?」

 当日まで必死に準備をしていたので、他の出店者のことなど全く気にしていなかった。そうだ、そういう楽しみもあるのだとサラはうきうきする。きっと新しい、とんでもない魔道具が溢れているだろう。
 でもまずは自分たちの魔導車だ。

 ジャストは苦く顔をしかめてから、全く別のことを口にした。

「この魔導車についてだが、君が……うちで働いていた最終日に見せてくれた技術が使われているのか?」
「あ、はい。そうです。でももっと進化していますよ。現行の魔導車より10%は効率がよくなっています」
「だが、君がうちで書いた回路図が使われていることは間違いない。……残念だが、サラ、それはうちに権利がある。勝手に君の……今の会社で使わせるわけにはいかない」
「……え?」

 サラは驚き、ジャストを見た。
 彼の視線はサラと合うような、合わないような、どこかびくびくとしているように見えた。彼のそんな目は見たことがない。

 でも、もしかしたらサラが見なかっただけかもしれない。サラはあんまりに魔道具のことばかり見ていた。
 そして幼いサラにとって、ジャストは頼りになる、すべてを任せていい大人だったのだ。

 今はそうではない。

「それは違います。大事なことですから、ちゃんと社長さんが確認してくれました」
「こちらに伺いさえなかったのに? 残念だが、回路図を君が見せてきたことは覚えている」
「私は雇用されていませんでした」

「……何を馬鹿な」
「雇用契約書はなく、給与も支払われていませんでした。私はあなたの婚約者として、あなたの手伝いをして、時々お礼を受け取っていただけです。そしてあなたは、私の成果物を要らないと言いました」

 は、と口を開いたジャストが、わずかによろめいた。

「あの回路図は私が私の時間で書き、誰にもあげなかった、私のものです」
「だ……だが、君には金を払っていた……」
「はい。事務の方にもらった明細では、外注費となっていました。回路図を買い取ってもらったという扱いでしょう」
「……」
「魔導車の回路図はお譲りしていません」

 訴えられても勝てるはずだ。
 明細を社長に見てもらい、詳しい人にも相談した。それで大丈夫だろうという結論になったのだ。
 そもそも、回路図にはかなりの変更があった。ジャストに見せたものと同一とは言えない。
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