「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ

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なぜ、なぜ、なぜ……

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「ユアン……」
「シェリア、君と結婚できたことは、本当に嬉しいんだ」
「ええ、私もよ、ユアン」

 目の前で二人が肌を重ねるのを、俺はぼうっと見ていた。二人は俺を見ない。俺は存在していない。
 そして二人の絡み合いに、俺は一向に何も感じなかった。そんなことはどうでもいい。

「ガルコス、殿下……」

 足元がふらついている。
 ああ、床が揺れて感じられるほどだ。俺はベッドに手をつこうとしたが、そのまますり抜けてしまった。
 床に激突する。

「あ」

 床までを突き抜けて、俺は下の階に落ちていた。衝撃も痛みもない。頭はまだズキズキと痛んでいたが、他人事のようだった。

「殿下、ミイ……そんなはず、ない、よな……?」

 二人に会って確認しなければ。
 一歩、一歩だけで世界は進む。いや、気づけば俺は歩いてさえいなかった。景色が流れるように通り過ぎていく。王城はこんなに近かっただろうか?
 誰も俺を邪魔しない。殿下の招待なく入れなかったはずの王城を、俺は堂々と歩いているのだった。

 ガルコス殿下の部屋まで。ああ、また頭が痛む。
 赤い水が頬を伝い落ちて流れていく。どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 思い出そうとしても空白ばかりだ。
 空白なのに覚えがある。俺という存在は、あったような、なかったような。婚姻式を見ていたのだ、たしかに。だがそれは俺ではなく弟とシェリアの式だった。

 それまでは何をしていただろうか?
 ぼんやりと歩いていた。ずっと歩いていた。シェリアを見て怒りを思い出すまで。

「ミイ……俺は、君のために……」

 気づけば殿下の部屋の前にたどり着いていた。応接のための部屋ではない、いつも案内された、私的な部屋だ。ここに呼ばれることが俺は誇らしかった。
 今の俺は案内を待つまでもなく、扉を開ける必要さえなかった。すり抜ける。

 そして二人の姿を見た。

「ああ……」

 二人は生まれたままの姿で絡み合っていた。
 世界が揺れる。俺は……。

「きゃっ?」
「なんだ、どうした……?」

 吐息で話し合うように、二人の距離はあまりに近い。弟とシェリアとは比べ物にならないほど、慣れきって、親しい。もう何度も繰り返したかのようだ。
 俺が触れたこともないミイの体に、あざやかな痕が残っていた。殿下の手がミイの乳房を握っていた。

「なんか、誰かが入ってきた気がして」
「ははっ、見られたいのか?」
「違うわよ。もう……っ」
「心配しなくても、誰も入ってこないさ。今も昔も、ここに招いたことがあるのは君だけ……」
「……もう一人いたじゃない。あなたの『友人』が」

 ミイはつんと唇を尖らせて、指先で殿下の裸の胸を辿った。

「アレか……アレは残念だった。あそこまで馬鹿だったとは」
「そうね。でも……そこが良かったんでしょ?」
「そうだな。馬鹿はいい。だが、言うことを聞かない馬鹿は最悪だ。使えない……残念だ、残念でならない」
「しょうがない人ねえ」

 慰めるように、ミイは優しい声を出す。聞いたことのない声だった。決して人前で発せられるべきではない、甘い声だ。

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