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マイラ様はそうおっしゃいました。
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穴の前に置いた餌は、気づけばなくなっているのだが、食べる本人に出会えることは稀だった。リーリエはそれでも毎日が楽しい。
(次こそ顔を見た最高記録をつくるわ)
そのためにはどうするか。穴を睨みながらむむむと考える。
(ごはんを増やしてみる? でもあれだけ小さいのに……どのくらい食べるのかしら)
「偽聖女。……おい、どこを見ている!」
「え?」
いつの間にか王子が鉄格子の前にいて、いつものように不機嫌そうな顔をしている。
「ようこそ」
リーリエはくすぐったい気持ちで言った。
そう、たぶん、家に客人が来たらこう言うものだ。
「はっ。あいかわらず頭のおかしい女だ。貴様の顔など見たくもなかったが……」
「バルカス様、リーリエ様も反省なさったのです。あまりひどいことは……」
「反省などするものか。怒り狂った悪女の気が触れただけだ」
王子の隣にいる女性に気づき、リーリエは思わず笑顔になった。
「マイラ様!」
「えっ……」
「あ、違いましたか? あの時、殿下のそばにおられましたよね」
「え、ええ……マイラです。リーリエ様、ご無沙汰いたしております」
「はい。先日はご挨拶もせずにすみません」
「マイラ、そいつに近づくな」
王子が一歩前に出て、マイラの姿を隠してしまった。
リーリエは体を傾けたが、彼女の姿を見ることはできない。
「あの、殿下、私はマイラ様に言いたいことがあるのです」
「言わせるわけがあるまい。貴様、優秀な聖女候補であったマイラに、才がない、故郷に帰れと罵倒したそうだな」
「故郷に……?」
リーリエは首をかしげた。
「……いえ! バルカス様、お伺いします。私にとってリーリエ様は、先代様となるのですから……」
「マイラ、だが」
「聖女を名乗る以上、バルカス様に守られてばかりではいけないと思うのです」
「……マイラ。しかしな」
「バルカス様。ですから、手を……握っていてくださいますか?」
「……っ、ああ!」
マイラは王子と手を繋ぐと、震えながらリーリエの前に出てきた。
(お寒いのかしら)
リーリエは少し心配しながら、その場に膝をついて祈りの礼をとった。
「マイラ様に感謝を。重責をお引き受けくださり、私は救われました」
いくら頭を下げても足りない。
「マイラ! そいつは心にもないことを言っているだけだ。あれほどのことをしでかす女が、どこに改心の余地がある」
リーリエは少し悲しく思った。
王子はいつもわけのわからないことを言うが、どうやらリーリエを嫌っているらしい、と気づかずにいられなかったのだ。
リーリエは王子が大好きだ。
この自由を与えてくれた相手なのだから。
「……では、リーリエ様は、私が聖女となることを認めてくださるのですね?」
「はい! マイラ様なら、きっと神の光を得られます」
「貴様……ぬけぬけと!」
「ええ、きっと、神もわかってくださるでしょう。……リーリエ様、明日、私は聖女の披露目をいたします。そのあと、リーリエ様は聖女候補として教会にお戻りいただくことに……」
ひ、と喉の鳴る音が牢獄に響いた。
「マイラ様……今、なんて……」
「リーリエ様?」
「教会に、戻る……?」
「ええ、リーリエ様は教会に必要とされています」
「い……」
「どうか力になってさしあげて、」
「いやああああああああ!」
リーリエは悲鳴をあげ、勢いよく下がったために、牢獄の壁に背をぶつけた。ぐっ、と声をもらして、なお壁に背を押し付ける。
「いや、いやです。私はここを出ません!」
「マイラ、下がれ!」
王子はリーリエの動揺に反応し、すぐに自らの背にマイラを庇った。
「……」
マイラはじっとリーリエを見ている。
「ぜったいに出ません! 教会には戻りません……っ!」
「リーリエ様」
マイラの声が、耳に優しく響いた。リーリエは首を振る。
裏切られたような気分だった。王子とマイラは、リーリエを開放してくれた人だ。それが、どうして。
「いやです、いや……もう私、はっ、ここに、います、ずっと、います……」
ひくりと時折しゃくりあげながら言う。
「リーリエ様、大丈夫です」
「マイラ、下がっていろ。こいつは何をするかわからん」
「いいえ。バルカス様、どうしてリーリエ様があんなことをしたのかと不思議でしたが、はっきりわかりました。リーリエ様もおつらかったのです」
「……何?」
「悪いのは教会です。そうでしょう、リーリエ様」
「教会? 教会は、いや……帰りません、私は、ここにいます……っ」
「大丈夫です、リーリエ様。教会に渡したりなんてしません。私が守ってあげます」
「マイラ」
「バルカス様、悪いのは教会です」
「それは……そうだろうが」
「リーリエ様、安心してください」
体をまだ竦ませながら、リーリエはマイラを見た。
彼女は力強く笑ってみせた。
「私があの悪い教会を、やっつけてしまいます」
「マイラ様が……?」
「ええ、だから安心してください、リーリエ様。私を信じて」
(次こそ顔を見た最高記録をつくるわ)
そのためにはどうするか。穴を睨みながらむむむと考える。
(ごはんを増やしてみる? でもあれだけ小さいのに……どのくらい食べるのかしら)
「偽聖女。……おい、どこを見ている!」
「え?」
いつの間にか王子が鉄格子の前にいて、いつものように不機嫌そうな顔をしている。
「ようこそ」
リーリエはくすぐったい気持ちで言った。
そう、たぶん、家に客人が来たらこう言うものだ。
「はっ。あいかわらず頭のおかしい女だ。貴様の顔など見たくもなかったが……」
「バルカス様、リーリエ様も反省なさったのです。あまりひどいことは……」
「反省などするものか。怒り狂った悪女の気が触れただけだ」
王子の隣にいる女性に気づき、リーリエは思わず笑顔になった。
「マイラ様!」
「えっ……」
「あ、違いましたか? あの時、殿下のそばにおられましたよね」
「え、ええ……マイラです。リーリエ様、ご無沙汰いたしております」
「はい。先日はご挨拶もせずにすみません」
「マイラ、そいつに近づくな」
王子が一歩前に出て、マイラの姿を隠してしまった。
リーリエは体を傾けたが、彼女の姿を見ることはできない。
「あの、殿下、私はマイラ様に言いたいことがあるのです」
「言わせるわけがあるまい。貴様、優秀な聖女候補であったマイラに、才がない、故郷に帰れと罵倒したそうだな」
「故郷に……?」
リーリエは首をかしげた。
「……いえ! バルカス様、お伺いします。私にとってリーリエ様は、先代様となるのですから……」
「マイラ、だが」
「聖女を名乗る以上、バルカス様に守られてばかりではいけないと思うのです」
「……マイラ。しかしな」
「バルカス様。ですから、手を……握っていてくださいますか?」
「……っ、ああ!」
マイラは王子と手を繋ぐと、震えながらリーリエの前に出てきた。
(お寒いのかしら)
リーリエは少し心配しながら、その場に膝をついて祈りの礼をとった。
「マイラ様に感謝を。重責をお引き受けくださり、私は救われました」
いくら頭を下げても足りない。
「マイラ! そいつは心にもないことを言っているだけだ。あれほどのことをしでかす女が、どこに改心の余地がある」
リーリエは少し悲しく思った。
王子はいつもわけのわからないことを言うが、どうやらリーリエを嫌っているらしい、と気づかずにいられなかったのだ。
リーリエは王子が大好きだ。
この自由を与えてくれた相手なのだから。
「……では、リーリエ様は、私が聖女となることを認めてくださるのですね?」
「はい! マイラ様なら、きっと神の光を得られます」
「貴様……ぬけぬけと!」
「ええ、きっと、神もわかってくださるでしょう。……リーリエ様、明日、私は聖女の披露目をいたします。そのあと、リーリエ様は聖女候補として教会にお戻りいただくことに……」
ひ、と喉の鳴る音が牢獄に響いた。
「マイラ様……今、なんて……」
「リーリエ様?」
「教会に、戻る……?」
「ええ、リーリエ様は教会に必要とされています」
「い……」
「どうか力になってさしあげて、」
「いやああああああああ!」
リーリエは悲鳴をあげ、勢いよく下がったために、牢獄の壁に背をぶつけた。ぐっ、と声をもらして、なお壁に背を押し付ける。
「いや、いやです。私はここを出ません!」
「マイラ、下がれ!」
王子はリーリエの動揺に反応し、すぐに自らの背にマイラを庇った。
「……」
マイラはじっとリーリエを見ている。
「ぜったいに出ません! 教会には戻りません……っ!」
「リーリエ様」
マイラの声が、耳に優しく響いた。リーリエは首を振る。
裏切られたような気分だった。王子とマイラは、リーリエを開放してくれた人だ。それが、どうして。
「いやです、いや……もう私、はっ、ここに、います、ずっと、います……」
ひくりと時折しゃくりあげながら言う。
「リーリエ様、大丈夫です」
「マイラ、下がっていろ。こいつは何をするかわからん」
「いいえ。バルカス様、どうしてリーリエ様があんなことをしたのかと不思議でしたが、はっきりわかりました。リーリエ様もおつらかったのです」
「……何?」
「悪いのは教会です。そうでしょう、リーリエ様」
「教会? 教会は、いや……帰りません、私は、ここにいます……っ」
「大丈夫です、リーリエ様。教会に渡したりなんてしません。私が守ってあげます」
「マイラ」
「バルカス様、悪いのは教会です」
「それは……そうだろうが」
「リーリエ様、安心してください」
体をまだ竦ませながら、リーリエはマイラを見た。
彼女は力強く笑ってみせた。
「私があの悪い教会を、やっつけてしまいます」
「マイラ様が……?」
「ええ、だから安心してください、リーリエ様。私を信じて」
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