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祈りなさい、祈りなさい。
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「そ、それで、いいのですか?」
「いいわ。あなた達が祈ったぶんだけ、私も祈る」
「ありがとうございます……!」
マイラは喜んだ。
効果がなくてもいい、祈る形だけでいいというなら簡単だ。かつて聖女見習いとして、朝夕の祈りは欠かさなかった。
良かった、これで助かる。リーリエが祈ってくれさえすれば助かるのだ。
へなへなとくずおれた体を支える地は、もはや座ることさえ恐ろしい狭さだ。
「で、では……」
すぐに膝をつく。
くたびれて濡れた衣服は膝を守ってくれず、痛みが走ったが構わない。これで助かるのだ。国も故郷も、母も元通りになるのだ。
祈りの姿勢を取りながら、マイラはちらりと王子を見た。
もし彼が邪魔になるのなら、突き落としてしまえばいいと思った。この王子のせいでこんなことになってしまった。自分はただ彼に甘えただけなのに。
だが王子は震えながらあっさりと膝をついた。
よほど恐怖を感じているようで、マイラは少し意外に思った。死ぬまで愚かで傲慢な男だと、そう思っていたのだ。
マイラの予想よりもずっと弱い。
「祈りを……」
リーリエはじっと二人を見ている。マイラはとにかく形だけでも、両手を組み合わせて祈った。
これでいいだろうとリーリエを伺ったが、彼女は表情もなく二人を見下ろすだけだ。
「神に、祈りを」
「い、祈りを……」
「……全然だめ。何も考えていないんじゃないの?」
「そんな」
きちんと教えられたとおりの祈りの形をとった。
それ以上に何も考えてなどいない。マイラはただ、これで助かると、リーリエが祈ればそれでいいのだと思っていただけだ。
「何を考えれば……」
「神への祈りを。願いでも、愚痴でも、世間話でも、なんでも」
世間話?
マイラは一瞬、彼女がふざけているのかと思った。しかしリーリエは表情もないまま、じっと二人を見ているだけだ。
「世間話だと……? それで神が、どうなるというのだ」
「祈りなさい」
「貴様……」
「バルカス様」
マイラが腕を掴むとそれだけで王子は大人しくなった。わずかに揺らしてやったので、今、どんな場所にいるのか思い出しただろう。
それにしても世間話とは。
「……」
リーリエがじっと見ている。マイラは急いで両手を組み、目を伏せて神へ祈った。
(助けて。……助けて)
これでいいのだろうか。
薄く目を開けば、王子も何事か呟きながら祈っている。恐る恐るリーリエに視線を向けると、ようやくのように膝をつき、目を伏せて祈り始めた。
美しい姿だった。
こうして自分でやっているからこそわかる。何年も繰り返し体に染み付いた、揺らがない姿勢だ。そうだ、祈るのがリーリエの仕事なのだ。
(早く)
この国を救ってくれるべきだ。
「祈りなさい」
眉をひそめてリーリエが言った。
慌ててマイラは祈りを再開した。
風はない。
さらさらと落ちる雨と、のそりと落ちる泥の音だけが聞こえる。目を閉じているとはっきりとわかる、異質な、恐ろしい世界だった。こうしている間にも足元は崩れるかもしれない。
(助けて)
震えている。
馬鹿げたことをしているのかもしれない。リーリエが祈ったから何だというのだろう。騙されているのではないか?
じりじりと膝が痛む。
わずかにだけ尖っていたはずの石が、どんどん鋭さを増して、膝に食い込んでいるように思う。マイラは身動ぎした。
ほんの少し、足をずらしただけだ。
しかしリーリエが目を開いた。
「……っ」
なぜわかったのだろう。
マイラが祈りに戻れば、リーリエもまた祈る。まるでマイラの心を読んでいるかのようだった。
それにバルカスの心もだ。リーリエが祈りをやめ、じっと彼を見れば、彼はぶるぶると震えるのだ。
(……いつまで?)
いつまでこうしていればいい。
地面が失われ、闇に投げ出されるときまでだろうか。それはいつだろう。次の瞬間か。次か、次か、あるいは、もっと先か、それとも、やはり次か。
「あっ……」
怯えて目を開くと、リーリエがこちらをじっと見ている。マイラは縋るように彼女を見たが、ただただ、咎める視線が返ってくるばかりだ。
時が経つ。膝の下の石はいっそう尖り、耐え難い痛みを訴えるようになった。
雨はやんだのかどうか、体は冷え続けて震えている。
祈りの手を支える腕も、ぶるぶると震えている。骨の軋む音がどこからか聞こえた。どれほど時間が経ったのだろう?
わからない。
朝夕の祈りより長い時間であることは間違いない。
隣にいるバルカスも震えているのがわかった。
「まだ……なのか……っ」
「祈りなさい」
「な、なにも起きぬではないか! 俺を謀ったのでは……」
「祈りなさい」
「……くそっ!」
バルカスは小さく罵倒し、口を閉じて祈りに戻った。マイラは安堵する。彼を突き落とすことはしなくてもいい。
今は。
しかし、バルカスがずっと黙っているとは思えない……。
「マイラ」
「……っ!」
気をそらしたのをすぐに悟られてしまった。マイラは祈りに戻る。
(神様、神様、神様)
助けて。
痛みを訴える体を宥めながら、またどれだけの時が経っただろう。
震える二人と違い、リーリエの祈りは崩れることがない。女神像のように美しい姿勢を保っていた。
闇を背にしてその身はうっすらと輝いているようだ。
「は……」
違う。
本当に輝いているのだ。金色の光が、リーリエの全身を覆っている。
「神の光……」
こうして、これほどの距離で見つめたことはない。どうせ手品のようなものだと思っていたそれは、救いようのない闇を背景に輝く。
リーリエが着ているのはマイラが選んだ服だ。
彼女の荷物など何もない。
ほとんど身ひとつの彼女に何ができるはずもなく、だが輝いている。
「……聖女様」
マイラは意味もなく瞳が熱くなった。ここにこそ神の光、神の目があるのだ。
「あっ……!」
ぱっと、光が広がるように、世界が生まれた。
「これは……」
闇の他にはわずかな土地を残すばかりであった世界が、大きく広がった。かけられていた闇のカーテンが取り払われたように、当たり前のように、新しい地面があった。
「リーリエ様……! ありがとうございます、ありがとう、」
「祈って」
「……!」
はっと気づいた。
リーリエが目を開いて祈りをやめると、輝きは消えた。そして広がった地面はまた、ゆっくりと削られようとしている。
祈り続けなければだめなのだ。
マイラはまた体を固めて、無意味な祈りに没頭するしかなかった。
「いいわ。あなた達が祈ったぶんだけ、私も祈る」
「ありがとうございます……!」
マイラは喜んだ。
効果がなくてもいい、祈る形だけでいいというなら簡単だ。かつて聖女見習いとして、朝夕の祈りは欠かさなかった。
良かった、これで助かる。リーリエが祈ってくれさえすれば助かるのだ。
へなへなとくずおれた体を支える地は、もはや座ることさえ恐ろしい狭さだ。
「で、では……」
すぐに膝をつく。
くたびれて濡れた衣服は膝を守ってくれず、痛みが走ったが構わない。これで助かるのだ。国も故郷も、母も元通りになるのだ。
祈りの姿勢を取りながら、マイラはちらりと王子を見た。
もし彼が邪魔になるのなら、突き落としてしまえばいいと思った。この王子のせいでこんなことになってしまった。自分はただ彼に甘えただけなのに。
だが王子は震えながらあっさりと膝をついた。
よほど恐怖を感じているようで、マイラは少し意外に思った。死ぬまで愚かで傲慢な男だと、そう思っていたのだ。
マイラの予想よりもずっと弱い。
「祈りを……」
リーリエはじっと二人を見ている。マイラはとにかく形だけでも、両手を組み合わせて祈った。
これでいいだろうとリーリエを伺ったが、彼女は表情もなく二人を見下ろすだけだ。
「神に、祈りを」
「い、祈りを……」
「……全然だめ。何も考えていないんじゃないの?」
「そんな」
きちんと教えられたとおりの祈りの形をとった。
それ以上に何も考えてなどいない。マイラはただ、これで助かると、リーリエが祈ればそれでいいのだと思っていただけだ。
「何を考えれば……」
「神への祈りを。願いでも、愚痴でも、世間話でも、なんでも」
世間話?
マイラは一瞬、彼女がふざけているのかと思った。しかしリーリエは表情もないまま、じっと二人を見ているだけだ。
「世間話だと……? それで神が、どうなるというのだ」
「祈りなさい」
「貴様……」
「バルカス様」
マイラが腕を掴むとそれだけで王子は大人しくなった。わずかに揺らしてやったので、今、どんな場所にいるのか思い出しただろう。
それにしても世間話とは。
「……」
リーリエがじっと見ている。マイラは急いで両手を組み、目を伏せて神へ祈った。
(助けて。……助けて)
これでいいのだろうか。
薄く目を開けば、王子も何事か呟きながら祈っている。恐る恐るリーリエに視線を向けると、ようやくのように膝をつき、目を伏せて祈り始めた。
美しい姿だった。
こうして自分でやっているからこそわかる。何年も繰り返し体に染み付いた、揺らがない姿勢だ。そうだ、祈るのがリーリエの仕事なのだ。
(早く)
この国を救ってくれるべきだ。
「祈りなさい」
眉をひそめてリーリエが言った。
慌ててマイラは祈りを再開した。
風はない。
さらさらと落ちる雨と、のそりと落ちる泥の音だけが聞こえる。目を閉じているとはっきりとわかる、異質な、恐ろしい世界だった。こうしている間にも足元は崩れるかもしれない。
(助けて)
震えている。
馬鹿げたことをしているのかもしれない。リーリエが祈ったから何だというのだろう。騙されているのではないか?
じりじりと膝が痛む。
わずかにだけ尖っていたはずの石が、どんどん鋭さを増して、膝に食い込んでいるように思う。マイラは身動ぎした。
ほんの少し、足をずらしただけだ。
しかしリーリエが目を開いた。
「……っ」
なぜわかったのだろう。
マイラが祈りに戻れば、リーリエもまた祈る。まるでマイラの心を読んでいるかのようだった。
それにバルカスの心もだ。リーリエが祈りをやめ、じっと彼を見れば、彼はぶるぶると震えるのだ。
(……いつまで?)
いつまでこうしていればいい。
地面が失われ、闇に投げ出されるときまでだろうか。それはいつだろう。次の瞬間か。次か、次か、あるいは、もっと先か、それとも、やはり次か。
「あっ……」
怯えて目を開くと、リーリエがこちらをじっと見ている。マイラは縋るように彼女を見たが、ただただ、咎める視線が返ってくるばかりだ。
時が経つ。膝の下の石はいっそう尖り、耐え難い痛みを訴えるようになった。
雨はやんだのかどうか、体は冷え続けて震えている。
祈りの手を支える腕も、ぶるぶると震えている。骨の軋む音がどこからか聞こえた。どれほど時間が経ったのだろう?
わからない。
朝夕の祈りより長い時間であることは間違いない。
隣にいるバルカスも震えているのがわかった。
「まだ……なのか……っ」
「祈りなさい」
「な、なにも起きぬではないか! 俺を謀ったのでは……」
「祈りなさい」
「……くそっ!」
バルカスは小さく罵倒し、口を閉じて祈りに戻った。マイラは安堵する。彼を突き落とすことはしなくてもいい。
今は。
しかし、バルカスがずっと黙っているとは思えない……。
「マイラ」
「……っ!」
気をそらしたのをすぐに悟られてしまった。マイラは祈りに戻る。
(神様、神様、神様)
助けて。
痛みを訴える体を宥めながら、またどれだけの時が経っただろう。
震える二人と違い、リーリエの祈りは崩れることがない。女神像のように美しい姿勢を保っていた。
闇を背にしてその身はうっすらと輝いているようだ。
「は……」
違う。
本当に輝いているのだ。金色の光が、リーリエの全身を覆っている。
「神の光……」
こうして、これほどの距離で見つめたことはない。どうせ手品のようなものだと思っていたそれは、救いようのない闇を背景に輝く。
リーリエが着ているのはマイラが選んだ服だ。
彼女の荷物など何もない。
ほとんど身ひとつの彼女に何ができるはずもなく、だが輝いている。
「……聖女様」
マイラは意味もなく瞳が熱くなった。ここにこそ神の光、神の目があるのだ。
「あっ……!」
ぱっと、光が広がるように、世界が生まれた。
「これは……」
闇の他にはわずかな土地を残すばかりであった世界が、大きく広がった。かけられていた闇のカーテンが取り払われたように、当たり前のように、新しい地面があった。
「リーリエ様……! ありがとうございます、ありがとう、」
「祈って」
「……!」
はっと気づいた。
リーリエが目を開いて祈りをやめると、輝きは消えた。そして広がった地面はまた、ゆっくりと削られようとしている。
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マイラはまた体を固めて、無意味な祈りに没頭するしかなかった。
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