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祈りなさい。
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「リーリエ様、どうか」
「おまえの仕事だろう! 怠けて俺の国を潰すつもりか!」
彼らの態度はどちらも見覚えがあった。
宥め、持ち上げ、脅し、どうにかしてリーリエに祈らせようとする。過度なことをした者はいなくなったが、結局、最後は皆そこにたどり着くのだ。
リーリエに祈らせることが仕事である。
そして金をもらい、帰って家族と楽しく過ごすのだ。リーリエにそんな喜びはない、どこにもない。
「……」
怒りがある。
ついさきほどまで、まだ見ぬ大陸の地に思いを馳せていた。ユーファミアのことは気になっていたが、ここまで崩れてしまっては、もはや向かうのは無理だろう。
知らない土地を想像すれば心が弾む。
なのにそれを当たり前のように引き止めるのだ。
「祈ってください……」
嫌いだ。
彼らはいつもいつもいつもいつもいつもいつもそうだ。
リーリエを祈らせることしか考えていない。誰もリーリエのことを考えていない。考えていないくせにリーリエには民を思えと図々しいことを言う。いったいなぜそれに従わなければならないのだろう。何も知らなかったならともかく。
今は知っている。
リーリエは自由だ。
「祈れと言っている! くそっ、間に合わなくなるぞ!」
「お願いします、お願いします……リーリエ様、祈りを、どうか」
「自分で祈ればいいじゃない」
リーリエは冷たく言って見下ろした。居所を失った王子も、すでにリーリエにすがりつくようにしゃがみ込んでいる。
「……そんな」
マイラは絶句した。
「おまえの仕事だろう……!」
王子は叫んだ。
「じゃあ、対価に何をくれるの?」
「なんだと……それをするのはおまえの義務だ。この強欲者、気狂い、め……っ?」
また地面が崩れた。
王子は青ざめた。すがりつこうとしてくる腕を、リーリエは振り払った。
「ぐぁっ!」
「自分で祈ればいいじゃない」
「ひっ」
よろめくほど足元の地面が崩れる。リーリエは構わず、また伸びてきた腕を叩き落とした。
「自分で、祈りなさいよ」
「やめ」
「祈れ」
「やめろ! 何をす」
「祈れ!」
リーリエが叫ぶと、王子は体を固くして動かなくなった。つまらない。
怒りの持って行き場をなくし、リーリエはマイラを見た。
「せ、聖女リーリエ、どうか、私にできる、ことならば……」
「祈りなさい」
「そんな。私ではだめなのです、私では、」
「祈りなさい」
「リーリエ様」
「祈りなさい!」
リーリエが叫ぶと、マイラは身をすくめて震えている。まるでこちらが悪いのだと訴えるような瞳が、潤んでリーリエを見上げていた。
「マ、マイラがこれほどに願っているのだぞ。祈るくらい……よいではないか……!」
「祈るくらい?」
「お願いです。祈っていただければ、それでいいのです」
「それでいい?」
リーリエはすがりつく二人を見た。
「自分ではやらないくせに」
「それは……できないのです……リーリエ様は、神に愛された、方……」
「知らないわ、そんなの」
そんなことは全く問題ではなかった。
「責任というものがあるだろう! 貴様にはその力があるのだ!」
それもよく聞いた。こうして素晴らしい力を授かったのだから、民に与えねばならない。
「知らない」
「そ、そんな」
「祈りなさい」
「私は、」
「自分がしもしないことを、どうして人に求めるの? あなたに責任はないの?」
「……どうか、お怒りをお鎮めください。私が悪かったのです。だから、どうか、何の罪もない民は、どうか」
「マイラがこれほど願っているのだぞ! 貴様の、我儘で……っ、国を滅ぼすつもりか!」
叫んだあと、王子はびくびくと震えている。
「じゃあ、祈りなさい」
「リーリエ様、どうか、お慈悲を」
「望むなら何でもと言っているのだ! 何が欲しい!」
「祈りなさい」
「リーリエ様、」
「祈りなさい」
「くそっ……なんと意地の悪い女だ! ああ、わかった! 俺が間違っていた!」
「祈りなさい」
「間違っていたと……この俺が詫びると、言っているのだぞ」
「祈りなさい」
「……」
「祈りなさい」
「リー、」
「祈りなさい」
祈りなさい、祈りなさい、祈りなさい。
告げても告げても終わりはない。何度告げても、リーリエが言われてきた数にはとても届かない。それでもリーリエは人形のように繰り返した。
自分はもっともっともっともっと聞かされた。
「祈りなさい」
「お許しください……!」
だがいつまで経っても王子もマイラも、一度たりとも祈ろうとはしない。リーリエは呆れた。それでどうして、こちらに祈れと言えるのだろう。
「……いいわ」
これ以上同じことをしても、とても気分良くなれそうにない。リーリエが祈ってきたように、この者たちにも祈らせたい。
目には目を。そうでなければ、とても怒りは鎮まりそうになかった。
「祈ってあげる」
リーリエの言葉に彼らはぱっと顔をあげた。
「ほ、本当か!?」
「祈ってくださるんですか!?」
「祈ってあげる。……あなた達が祈ったのと、同じぶんだけ」
「おまえの仕事だろう! 怠けて俺の国を潰すつもりか!」
彼らの態度はどちらも見覚えがあった。
宥め、持ち上げ、脅し、どうにかしてリーリエに祈らせようとする。過度なことをした者はいなくなったが、結局、最後は皆そこにたどり着くのだ。
リーリエに祈らせることが仕事である。
そして金をもらい、帰って家族と楽しく過ごすのだ。リーリエにそんな喜びはない、どこにもない。
「……」
怒りがある。
ついさきほどまで、まだ見ぬ大陸の地に思いを馳せていた。ユーファミアのことは気になっていたが、ここまで崩れてしまっては、もはや向かうのは無理だろう。
知らない土地を想像すれば心が弾む。
なのにそれを当たり前のように引き止めるのだ。
「祈ってください……」
嫌いだ。
彼らはいつもいつもいつもいつもいつもいつもそうだ。
リーリエを祈らせることしか考えていない。誰もリーリエのことを考えていない。考えていないくせにリーリエには民を思えと図々しいことを言う。いったいなぜそれに従わなければならないのだろう。何も知らなかったならともかく。
今は知っている。
リーリエは自由だ。
「祈れと言っている! くそっ、間に合わなくなるぞ!」
「お願いします、お願いします……リーリエ様、祈りを、どうか」
「自分で祈ればいいじゃない」
リーリエは冷たく言って見下ろした。居所を失った王子も、すでにリーリエにすがりつくようにしゃがみ込んでいる。
「……そんな」
マイラは絶句した。
「おまえの仕事だろう……!」
王子は叫んだ。
「じゃあ、対価に何をくれるの?」
「なんだと……それをするのはおまえの義務だ。この強欲者、気狂い、め……っ?」
また地面が崩れた。
王子は青ざめた。すがりつこうとしてくる腕を、リーリエは振り払った。
「ぐぁっ!」
「自分で祈ればいいじゃない」
「ひっ」
よろめくほど足元の地面が崩れる。リーリエは構わず、また伸びてきた腕を叩き落とした。
「自分で、祈りなさいよ」
「やめ」
「祈れ」
「やめろ! 何をす」
「祈れ!」
リーリエが叫ぶと、王子は体を固くして動かなくなった。つまらない。
怒りの持って行き場をなくし、リーリエはマイラを見た。
「せ、聖女リーリエ、どうか、私にできる、ことならば……」
「祈りなさい」
「そんな。私ではだめなのです、私では、」
「祈りなさい」
「リーリエ様」
「祈りなさい!」
リーリエが叫ぶと、マイラは身をすくめて震えている。まるでこちらが悪いのだと訴えるような瞳が、潤んでリーリエを見上げていた。
「マ、マイラがこれほどに願っているのだぞ。祈るくらい……よいではないか……!」
「祈るくらい?」
「お願いです。祈っていただければ、それでいいのです」
「それでいい?」
リーリエはすがりつく二人を見た。
「自分ではやらないくせに」
「それは……できないのです……リーリエ様は、神に愛された、方……」
「知らないわ、そんなの」
そんなことは全く問題ではなかった。
「責任というものがあるだろう! 貴様にはその力があるのだ!」
それもよく聞いた。こうして素晴らしい力を授かったのだから、民に与えねばならない。
「知らない」
「そ、そんな」
「祈りなさい」
「私は、」
「自分がしもしないことを、どうして人に求めるの? あなたに責任はないの?」
「……どうか、お怒りをお鎮めください。私が悪かったのです。だから、どうか、何の罪もない民は、どうか」
「マイラがこれほど願っているのだぞ! 貴様の、我儘で……っ、国を滅ぼすつもりか!」
叫んだあと、王子はびくびくと震えている。
「じゃあ、祈りなさい」
「リーリエ様、どうか、お慈悲を」
「望むなら何でもと言っているのだ! 何が欲しい!」
「祈りなさい」
「リーリエ様、」
「祈りなさい」
「くそっ……なんと意地の悪い女だ! ああ、わかった! 俺が間違っていた!」
「祈りなさい」
「間違っていたと……この俺が詫びると、言っているのだぞ」
「祈りなさい」
「……」
「祈りなさい」
「リー、」
「祈りなさい」
祈りなさい、祈りなさい、祈りなさい。
告げても告げても終わりはない。何度告げても、リーリエが言われてきた数にはとても届かない。それでもリーリエは人形のように繰り返した。
自分はもっともっともっともっと聞かされた。
「祈りなさい」
「お許しください……!」
だがいつまで経っても王子もマイラも、一度たりとも祈ろうとはしない。リーリエは呆れた。それでどうして、こちらに祈れと言えるのだろう。
「……いいわ」
これ以上同じことをしても、とても気分良くなれそうにない。リーリエが祈ってきたように、この者たちにも祈らせたい。
目には目を。そうでなければ、とても怒りは鎮まりそうになかった。
「祈ってあげる」
リーリエの言葉に彼らはぱっと顔をあげた。
「ほ、本当か!?」
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