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あの子のもとへ。
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「なんてことだ……!」
『向こうだ!』
『追い込め!』
『殺すな、足を狙え。顔と体が無事なら歩けなくなってもいいそうだ!』
『報奨が出るぞ!』
俺は目を疑った。
どいつもこいつも好き勝手する精霊たちとパーティをなんとか楽しんで、さあ今日はどうしているかと水鏡を覗いたのだ。かわいい番に癒やされたかったのだ。
それが、どういうわけか、ルミナは品のない男たちに追われている。
「何があった!」
「おや。このところは平和そうでしたが……」
「ああそうだ、なんてことだ、罠だったのか? 騙されたのか? ああルミナ!」
近頃はいつ覗いてもルミナは一人でいるようだった。少しの時間しか覗けなかったが、仕事をしている様子もなかったので安心していたというのに。
なんという卑劣な人間どもだろう!
「まあ、見てください。小精霊たちが助けていますよ」
「それは……っ……そうだが……」
とても見ていられない!
小さな精霊たちはルミナの行き先を照らすことしかできない。確かに彼らは追手のいない道を教えることができている。
けれど追手はルミナの倍以上の速度で近づいているのだ。
「ああ、追いつかれてしまう! あんなに小さな子なのだ。早く走れるはずがない」
「落ち着いて。まだ猶予はあります。森にたどり着ければ……」
自然の力にあふれる森ならば、小精霊でももう少し力になれるはずだ。人間たちを迷わせたり、転ばせたりすれば、ルミナを逃がすこともできるだろう。
だがそれまでが遠い。
いや近いのだ。近いのだが。
「なぜ人間界はこんなに入り組んでいるのだ!」
ルミナはまっすぐ森に迎えていない。超えられない道ばかりだ。意味がわからない。どうしてそんなに建物で埋め尽くしてしまったのだ!
そのせいでルミナが捕まりそうではないか!
「あんな道はすべて破壊するべきだ!」
「落ち着いてくださいよ。まっすぐ行けないのは追手も同じです」
「それは……っそうだが! そうだがずるいではないか!」
「何がずるいんですか」
「ルミナはあんなに可愛いのだぞ!」
そんなのはおかしい。追ってくるやつらはちっとも可愛くない!
「じゃあ可愛くない方がいいっていうんですか?」
「そんなわけないだろうっ!」
「だったらしょうがないじゃないですか。諦めてください」
「諦められるかああ!」
「わけわかんなくなるなら見ないでくださいよ、私が見てますから」
「馬鹿な」
「じゃあ黙って見ろ。良案があれば小精霊に伝えろください」
「ぐっ……」
なんという言い草だと思ったが、実際問題口を出しても仕方がない。俺はたまらず水鏡の周囲を歩き回りながら「ああ」「うあ」「ルミナ」とどうしようもない声を漏らした。
「うっ……!」
「……追いつかれそうですね」
「何をのんきな! ああ、もうだめだ、だめだ、俺は助けに行く!」
「まだ小精霊が……」
あんな弱々しい助けでは足りない。
だが見ればキラキラとした精霊たちは、必死でルミナを助けようとしていた。ああ、なんということだ。あの場にいない俺などよりずっと、彼らはルミナのために頑張っているのだ。
『こっち』
『こっちに逃げて!』
『あっ……!』
「ああああ!!」
ルミナがころんだ。
俺はルミナよりもずっと大きな声を出してしまった。
「小精霊たちよ……!」
俺の叫びに応えたわけではないだろうが、小精霊たちが動き回る。男たちの肌をちくちくつつき、足を引っ張り、ズボンを引き下ろした。
男たちは戸惑うが、それでは止まらない。なんということだ、彼らはわずかな恐れよりも金が必要なのだ。
それでもルミナは立ち上がって逃げることができた。
わずかな間だ。すぐに男たちに囲まれてしまう。
俺は決意した。
「行く。……不甲斐ない王の補佐、今までご苦労だった」
「王……!」
たとえ精霊王でいられなくなっても構わない。
たとえ番であるルミナを失っても、ルミナ自身を失うよりずっといい。あの子はもっと笑っているべきなのだ!
俺は一瞬で人間界への道を開いた。世界の逆らう力にも構わず、強引にくぐり抜ける。
あの子のもとへ。
『向こうだ!』
『追い込め!』
『殺すな、足を狙え。顔と体が無事なら歩けなくなってもいいそうだ!』
『報奨が出るぞ!』
俺は目を疑った。
どいつもこいつも好き勝手する精霊たちとパーティをなんとか楽しんで、さあ今日はどうしているかと水鏡を覗いたのだ。かわいい番に癒やされたかったのだ。
それが、どういうわけか、ルミナは品のない男たちに追われている。
「何があった!」
「おや。このところは平和そうでしたが……」
「ああそうだ、なんてことだ、罠だったのか? 騙されたのか? ああルミナ!」
近頃はいつ覗いてもルミナは一人でいるようだった。少しの時間しか覗けなかったが、仕事をしている様子もなかったので安心していたというのに。
なんという卑劣な人間どもだろう!
「まあ、見てください。小精霊たちが助けていますよ」
「それは……っ……そうだが……」
とても見ていられない!
小さな精霊たちはルミナの行き先を照らすことしかできない。確かに彼らは追手のいない道を教えることができている。
けれど追手はルミナの倍以上の速度で近づいているのだ。
「ああ、追いつかれてしまう! あんなに小さな子なのだ。早く走れるはずがない」
「落ち着いて。まだ猶予はあります。森にたどり着ければ……」
自然の力にあふれる森ならば、小精霊でももう少し力になれるはずだ。人間たちを迷わせたり、転ばせたりすれば、ルミナを逃がすこともできるだろう。
だがそれまでが遠い。
いや近いのだ。近いのだが。
「なぜ人間界はこんなに入り組んでいるのだ!」
ルミナはまっすぐ森に迎えていない。超えられない道ばかりだ。意味がわからない。どうしてそんなに建物で埋め尽くしてしまったのだ!
そのせいでルミナが捕まりそうではないか!
「あんな道はすべて破壊するべきだ!」
「落ち着いてくださいよ。まっすぐ行けないのは追手も同じです」
「それは……っそうだが! そうだがずるいではないか!」
「何がずるいんですか」
「ルミナはあんなに可愛いのだぞ!」
そんなのはおかしい。追ってくるやつらはちっとも可愛くない!
「じゃあ可愛くない方がいいっていうんですか?」
「そんなわけないだろうっ!」
「だったらしょうがないじゃないですか。諦めてください」
「諦められるかああ!」
「わけわかんなくなるなら見ないでくださいよ、私が見てますから」
「馬鹿な」
「じゃあ黙って見ろ。良案があれば小精霊に伝えろください」
「ぐっ……」
なんという言い草だと思ったが、実際問題口を出しても仕方がない。俺はたまらず水鏡の周囲を歩き回りながら「ああ」「うあ」「ルミナ」とどうしようもない声を漏らした。
「うっ……!」
「……追いつかれそうですね」
「何をのんきな! ああ、もうだめだ、だめだ、俺は助けに行く!」
「まだ小精霊が……」
あんな弱々しい助けでは足りない。
だが見ればキラキラとした精霊たちは、必死でルミナを助けようとしていた。ああ、なんということだ。あの場にいない俺などよりずっと、彼らはルミナのために頑張っているのだ。
『こっち』
『こっちに逃げて!』
『あっ……!』
「ああああ!!」
ルミナがころんだ。
俺はルミナよりもずっと大きな声を出してしまった。
「小精霊たちよ……!」
俺の叫びに応えたわけではないだろうが、小精霊たちが動き回る。男たちの肌をちくちくつつき、足を引っ張り、ズボンを引き下ろした。
男たちは戸惑うが、それでは止まらない。なんということだ、彼らはわずかな恐れよりも金が必要なのだ。
それでもルミナは立ち上がって逃げることができた。
わずかな間だ。すぐに男たちに囲まれてしまう。
俺は決意した。
「行く。……不甲斐ない王の補佐、今までご苦労だった」
「王……!」
たとえ精霊王でいられなくなっても構わない。
たとえ番であるルミナを失っても、ルミナ自身を失うよりずっといい。あの子はもっと笑っているべきなのだ!
俺は一瞬で人間界への道を開いた。世界の逆らう力にも構わず、強引にくぐり抜ける。
あの子のもとへ。
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