11 / 14
「だ、れ……?」
しおりを挟む「さあ、もう大人しくするんだな」
「すぐに迎えが来ますよ、お嬢さん」
「ててっ、まったく、なんなんだ!」
「おい、気を抜くなよ」
「……」
ルミナは周囲の男たちに視線を向け、小さく首を振った。理解できない。
フローリアが腹を立てて追ってくる想像はできても、これほどの人数を集めて、金を使うとは思わなかった。ルミナはただの捨て子のはずだ。
そんなにも貴族の血が有用なのだろうか?
だったら大事にすればよかったのに、と他人事のように思う。
「いったい私に何の用なんですか?」
「さあな、依頼主に聞いてくれ。こっちに来ているはずだ」
「私はただの……」
その時だった。
『来るよ!』
『来てくれた!』
『早く、早く、ルミナを助けて!』
「え?」
眩いほどの輝きに襲われた。
ルミナはとっさに、小さな精霊たちが寄り集まったのかと思った。けれどそれにしてはあまりに強烈な光だ。
「な、なんだ!?」
「目が……!」
それに男たちにも見えているようだった。
目を閉じてすら眩しい。ゆっくりと光度が減っていっても、焼かれた目は周囲の様子が上手く見えない。
ルミナの目に入るのは、ただそこに現れた人の姿だけ。
「だ、れ……?」
美しい。
眩さをまだ残している。キラキラ、キラキラ、直視できないほどではない。だからこそ、その美しさにクラクラ、クラクラしてしまう。
夢の中のような姿だった。
何が、とは言えない。ただ整った姿、光に透けるプラチナブロンド、朝の湖のような優しげな青い瞳、不思議な布をふわふわと身にまとって、言葉にすればただそれだけの、それ以上の存在の美しさのようなものがそこにあった。
「……」
あ、の形で口を開いたまま、ルミナは呆然としている。
頭の端がじわじわと甘く溶けていくのがわかる。これは、誰だろう。
これは、何だろう。
これは自分にとって。
思わず足を踏み出した。
「……っ!」
すると、ぱっと彼は嬉しそうに両手を広げて笑った。笑ったのだ。
なんて笑顔だろう。
気後れする美しさが急に消えて、よく懐いた犬を想像させた。それについルミナも笑ってしまって、足を止めた。
「……どなた、ですか……?」
「俺は……ああ、俺は……」
彼はなぜか悲しそうにまつ毛を伏せた。ルミナは背中がぞわりと震えるのを感じる。このひとが悲しい顔をしていることが、悲しい。
笑っていて欲しい。
なんだろう、どうしてそんな考えに至ったのかわからない。初めて会ったはずの人だ。こんな気持ちは経験がない。
「あの……」
ルミナは彼を慰めるために何かを言おうとした。言わなければと思った。
しかし邪魔が入った。
「旦那!」
「おおっ! こちらです。確保しております!」
馬のいななきが聞こえ、立派な馬車が目の前に飛び出してきた。
「ルミナ!」
「あっ」
勢いのある馬車が周囲の石を弾き飛ばしたが、それを受け止めたのは男の体だった。ルミナはしっかりと男に抱きしめられている。
そしてルミナもまた、彼をとっさに抱き返してしまっていた。
116
あなたにおすすめの小説
ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています
柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。
領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。
しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。
幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。
さくっとお読みいただけますと嬉しいです。
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい
鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。
家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。
そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。
いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。
そんなふうに優しくしたってダメですよ?
ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて――
……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか?
※タイトル変更しました。
旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜
く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた
静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。
壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。
「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」
番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。
狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の
少年リノを弟として家に連れ帰る。
天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。
夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる