精霊王だが、人間界の番が虐げられているので助けたい!

七辻ゆゆ

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「だ、れ……?」

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「さあ、もう大人しくするんだな」
「すぐに迎えが来ますよ、お嬢さん」
「ててっ、まったく、なんなんだ!」
「おい、気を抜くなよ」

「……」

 ルミナは周囲の男たちに視線を向け、小さく首を振った。理解できない。
 フローリアが腹を立てて追ってくる想像はできても、これほどの人数を集めて、金を使うとは思わなかった。ルミナはただの捨て子のはずだ。

 そんなにも貴族の血が有用なのだろうか?
 だったら大事にすればよかったのに、と他人事のように思う。

「いったい私に何の用なんですか?」
「さあな、依頼主に聞いてくれ。こっちに来ているはずだ」
「私はただの……」

 その時だった。

『来るよ!』
『来てくれた!』
『早く、早く、ルミナを助けて!』

「え?」

 眩いほどの輝きに襲われた。
 ルミナはとっさに、小さな精霊たちが寄り集まったのかと思った。けれどそれにしてはあまりに強烈な光だ。

「な、なんだ!?」
「目が……!」

 それに男たちにも見えているようだった。
 目を閉じてすら眩しい。ゆっくりと光度が減っていっても、焼かれた目は周囲の様子が上手く見えない。

 ルミナの目に入るのは、ただそこに現れた人の姿だけ。

「だ、れ……?」

 美しい。
 眩さをまだ残している。キラキラ、キラキラ、直視できないほどではない。だからこそ、その美しさにクラクラ、クラクラしてしまう。
 夢の中のような姿だった。
 何が、とは言えない。ただ整った姿、光に透けるプラチナブロンド、朝の湖のような優しげな青い瞳、不思議な布をふわふわと身にまとって、言葉にすればただそれだけの、それ以上の存在の美しさのようなものがそこにあった。

「……」

 あ、の形で口を開いたまま、ルミナは呆然としている。
 頭の端がじわじわと甘く溶けていくのがわかる。これは、誰だろう。
 これは、何だろう。
 これは自分にとって。

 思わず足を踏み出した。

「……っ!」

 すると、ぱっと彼は嬉しそうに両手を広げて笑った。笑ったのだ。
 なんて笑顔だろう。
 気後れする美しさが急に消えて、よく懐いた犬を想像させた。それについルミナも笑ってしまって、足を止めた。

「……どなた、ですか……?」
「俺は……ああ、俺は……」

 彼はなぜか悲しそうにまつ毛を伏せた。ルミナは背中がぞわりと震えるのを感じる。このひとが悲しい顔をしていることが、悲しい。
 笑っていて欲しい。

 なんだろう、どうしてそんな考えに至ったのかわからない。初めて会ったはずの人だ。こんな気持ちは経験がない。

「あの……」

 ルミナは彼を慰めるために何かを言おうとした。言わなければと思った。
 しかし邪魔が入った。

「旦那!」
「おおっ! こちらです。確保しております!」

 馬のいななきが聞こえ、立派な馬車が目の前に飛び出してきた。

「ルミナ!」
「あっ」

 勢いのある馬車が周囲の石を弾き飛ばしたが、それを受け止めたのは男の体だった。ルミナはしっかりと男に抱きしめられている。
 そしてルミナもまた、彼をとっさに抱き返してしまっていた。
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