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ヒトのキョウカイ6巻(赤十字の精神)
06 (人は空気で行動する)
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トヨカズ達がデパート艦に行って帰って来た翌日の10月17日金曜日。
ナオ達が食堂で食事をしていると隣のテーブル席にいるマリアとマルタが、体調が悪そうな顔をしている光景が目に入った。
まぁマリアとマルタも女なのだから体調が悪くなる日もあるだろう…と思っていたその時…。
ガチャン…と派手に食器を倒し、2人は床にぶっ倒れた…。
オレは慌てて、2人に近づく…。
ゲホ…ゲホゲホ…。
2人はせき込みながら息が出来ずに必死に呼吸をしている…。
「まさかエクスプロイトウイルスか?」
兵士が言う。
「そんな…遂に ここまで…。」
「自室に戻るぞ…戦闘前に感染して死にたくない。」
まばらで 食事をしていた兵士達が一斉に距離を取り、食堂から退避…。
一人が艦内通話で上に報告を入れている。
どうする?オレはポストヒューマンだからウイルスの類は効かないはずだ…。
「ナオ…2人は大丈夫か?」
純粋種で エクスプロイトウイルスの免疫持ちで 感染しても 大事にはなら無いトヨカズがオレに近づく。
レナとカズナ、ロウは、冷静に皿を持って端のテーブルまで退避する。
オレは2人の額に手を当て温度を測る。
「頭は打ってない…。
熱は、38℃…微熱か?
平熱が高いだけかもしれないけど…。」
種族によって平熱は様々だ…。
例えばオレの平熱は40℃…クオリアは45~50℃で、人間で40℃なら動けないレベルの高熱だし、まして50℃なら人は生きられない…。
オレはクオリアに緊急コールを送る…1秒後回線が開いた。
『どうした?』
『マリアとマルタが倒れた…。
熱は38℃』
『ウイルス感染か?』
『多分、エクスプロイトウイルスかもしれない。』
『なら、ハルミだな…。
場所は…食堂か?』
こっちから情報を抜き出したのだろう…クオリアがオレの場所を特定する。
『ああ…頼む。』
『確か近くにいたはずだ…見つけた。
騒ぎを聞いて向かっている見たいだ。』
「は~い退いた退いた~」
ハルミが医療用カバンを下げて艦内を大げさに走る。
退避して来た兵士から、場所が食堂だと判明している。
兵士達も私を遮らず、優先して通してくれる。
現場の食堂にたどり着き…ハルミは、あたりを見回す。
カウンターには 食堂を担当している兵士と調理師ドラムが2台。
食堂にいた人は殆《ほとん》ど退避していて、端のテーブル席にレナとカズナ、ロウが暢気に食事をしている。
そして、倒れるマリアとマルタを支えるナオとトヨカズ…。
「早いな…。」
ナオが言う。
「騒ぎになってたらか、カバンを持ってすぐに来た。」
私は マリアの頭に手をかざし、スキャンするようにゆっくり腹部まで手を持って行く…。
医療設備が乏しい所でも 検査が出来るように 私の手には万能スキャナーが搭載されている…。
結果がARウィンドウに表示される…やっぱりな…。
「エクスプロイトウイルスの兆候だ…。
デパート艦に運ぶ…あそこなら治せる…。
後、シェフさん…艦長に連絡…後…ハイこれ」
私は シェフに霧吹きを渡す。
「これは?」
「エタノール…これで食堂内を消毒して…。」
「分かった…。」
シェフが霧吹きを受け取り、艦内電話で艦長に連絡をする…。
艦内のアラート発生…。
『エクスプロイトウイルスの患者が発生した、場所は食堂…周辺区画の立ち入りを制限した。
乗員は緊急時以外に該当区画には立ち入らないように…以上だ。』
カルタ中佐の声だ。
「さてと…。」
ハルミが、マリアをおんぶの状態で担ぎ、マルタは ナオが左肩に後ろ向きに乗せられる。
左手で彼女をしっかりと支え、もう片方の右手はそえる程度で 緊急時には即座に右腰から銃を抜けるようにしている
その後ろのトヨカズは医療用のカバンを持っている。
3人は すぐさまエレベーターに乗り、甲板に向かう。
定期便のエアトラS2はもう出ているはずだが、上が止めて置いてくれたのかまだ後部ハッチが開いている。
「急患だ急患…前に積めて…。」
乗客はエクスプロイトウイルスの話が伝わっていたのか、全員がパイロットスーツにヘルメットまで被った状態で既に前に積めている。
私は マリアとマルタを席に座らせ、シートベルトで固定…。
ナオとトヨカズもシートベルトをし、最後にハルミがシートベルトをしたのと同時に、後部ハッチが閉まり、少し乱暴に緊急離陸を始めた。
デパート艦に着き、またマリアとマルタを担いで急いで診療所に向かう…。
既にドロフィン1から連絡が行っていた為、ストレッチャーに寝かせて、すぐに治療を開始…。
まずは、治療室の機材を立ち上げ記録の開始…。
無断で患者の身体をいじくる以上…記録は重要になる。
私は 血管にぶっ太い針を挿し込み、それをチューブに通して 体内の血液を透析機に送り、フィルタを通して洗浄を開始…。
フィルタで ろ過したエクスプロイトウイルスの無い血液を体内に返し、これを3~6時間程続ければ、免疫で倒せるレベルまでウイルスの個体数が減り、後は免疫力でどうにかなる…。
「よし…治療完了…後は 待つだけ…。
熱が酷くなるようなら戻す時の血液に解熱剤を混ぜてくれ…。」
「分かりました…。」
ナオは待合室のソファーに座りながら、治療室の映像をARモニタで見る。
ハルミが マリアとマルタにの血を抜いて血液洗浄を行う。
エクスプロイトウイルスの治療法は事前に知っていたが、手際が良く迷いが無く治療をしている。
『よし…治療完了…後は、待つだけ………』
「終わった見たいだな…。」
ハルミがカメラを切り、こちらのARモニタも消える。
治療時間は10分程…そして、ハルミが部屋から出て来た。
「ハルミ…マリア達は?」
「ああ…元気だよ…。」
「元気?」
マリアとマルタの今の状況から一番遠い言葉がハルミから発せられる。
ハルミは少し笑いながら スライドドアを開け、治療室にナオとトヨカズを入れる。
マリアとマルタには針が2本刺さっていて、それに繋がっているチューブには血が流れている…そしてその血をあの機械で ろ過して体内に戻しているのだろう…。
肝心の患者のマリアとマルタがぐったりとした状態で寝ている…とても元気とは思えない。
「はいカットおおお!!お疲れまでした。」
ハルミが言うと2人はゆっくりと置き出した。
「はいお疲れ…私、名演技~」
オレに向かってマリアがピースをする。
「ははは…確かに良い演技…知ってたのにビビった。」
トヨカズが軽く拍手をしつつ、少し笑いながら答える。
「ちゃんと記録は取れた?」
マルタが腕に刺さっている針を見ながら言う。
「ああ…助かった。
とは言っても、3時間後今度は元気になった状態の記録を取るから、チューブは挿したままな…。」
「あは~退屈~まぁこれでお店が開けるから良いか~」
「あの~どう言う事?仮病?」
オレが呆《あき》れたようにハルミに聞く。
話からしてトヨカズも知っていたのか?
「昨日…ハルミ達とデパート艦に行くって言ったろ。
あの時に自殺未遂は出るし、店は休業状態だしで全然楽しめなくてな…。
それでハルミが艦長に文句を言ったら、今回の作戦をやる事に決まったわけ…。」
オレの質問にトヨカズが答えた。
「と言う事は、レナ達も知っていたのか?」
「そう言う事…。」
「どおりで平気な顔をしている訳だ。」
急に倒れた事に驚いていて気づかなかったが、確かにあの行動を見ると不自然しい。
「伝えても良かったんだが『リアリティを出すなら、知らない方が良い』ってクオリアに止められてな…。」
ハルミが言う。
「クオリアには 伝わっていたのか」
まぁクオリアなら伝わって無くても自殺者が出ているみたいだし、気になって調べるだろう…。
オレには割と日常の事だったので特に気にもしなかった。
「でもこんな面倒な事をしなくても…。」
オレがハルミに言う。
「こうでもしないと周りが安心しないだろう…。
こっちが数値や統計から、いくら大丈夫だって言っても聞かないんだから…。
だから、ヤツらのルールに乗っ取って実際に治してみる必要があるんだ。」
「でも、こんな芝居をした所で時期にバレるだろう…。」
映像自体に細工はされていないが、ハルミの行動をさかのぼって調べれば、これが偽装だって事がすぐに分かるはずだ。
「まぁな…でも、今の恐慌状態のマインドなら『ウイルスが蔓延している』って思い込みで物を見るから まず気づかれない…。
と言うよりこれが嘘だと分かるなら、数値を見て動ける人だから、別に構わないだろう。
まずは『エクスプロイトウイルスは 簡単に治せる』って空気を作るのが重要なんだ。」
「空気?」
「そう、一人だけが『エクスプロイトウイルスはそこまで脅威じゃない』って言うのは、結構難しい…周りのコミュニティから弾かれるリスクがあるからな。
逆に言えば、大多数の意見を変えてやれば、どんな嘘でも信じちまうって事。
人は数字じゃなくて感情で生きているからな…まったく面倒だよな…。」
ハルミは頭をポリポリかき、デパート艦の艦長に連絡を入れる…。
「さて、こらからが大変だぞ…。
診療所が 患者であふれ返るだろうからな…。」
そう、ハルミが言うとARウィンドウを開き…何かの作業を始めた。
翌日…エクスプロイトウイルスが不治の病では無いと証明したハルミは、デパート艦の診療所で ほぼ全員が『ただの風邪』と思われる患者が大量に診察に来た事で待合室はあふれ、倉庫を簡易待合室にする事になった。
素人から見ると、エクスプロイトウイルスと ただの風邪の区別がつかない。
どっちも、重症になった場合の症状が肺炎だからだ。
「これはキツイですね…。」
診療所の開所始まって以来の賑わいだろう…人の行列を見て医者が言う。
「だいたい50人程度か?
でも、これだけを捌《さば》けば 店が開けられる。」
ハルミはそう言うと、倉庫に行き医者も後をついてくる。
「はい~注目!!…まずは、少し間隔を開けて~。
そう、手を伸ばして前の人にぶつからない程度に…それと、手を出して…エタノールを吹き付けるから…。」
ハルミは、患者の手にエタノールを吹き付けて行き除菌を行う。
そして、しばらくして大量の折り畳み椅子をキョウカイ小隊のメンバーに持って来て貰い 間隔を開けて設置し…患者が座る。
感染防止の基本に則《のっと》って、患者に対処法を学ばせる。
エクスプロイトウイルスに対してでは無く、様々なウイルスに効果的な方法だ。
同時に、倉庫内の隅々まで軍人が エタノールを霧吹きで拭き付け エタノールで除菌を行っている。
今頃は、シーランド艦の全艦内がエタノールで除菌されている事だろう。
まぁ…マイクロマシンのエクスプロイトウイルスには全くもって無意味なのだが、病気に対して実際に身体を動かし対処する事で除菌したと言う空気になり、不安を拭《ぬぐ》い去れる…プラシーボ効果だな。
まず、全員の熱を測る。
エクスプロイトウイルスに感染していても、熱が出ていなければ感染していないのと一緒だ。
そこから平熱より2~3℃以上高い人を割り出し、安心感が欲しくて来た無症状者を除く…。
残ったのは10人で血を抜いて検査機にかけて精密検査…。
検査の結果、6人が普通の風邪と診断。
そして、残りの4人の内2人はエクスプロイトウイルスに感染しているが、身体がウイルスに対処出来ており、ただの風邪レベルに収まっている…。
最後に残った2人中1人はインフルエンザ…エクスプロイトウイルスより危険で感染力がある為、入院…。
もう1人が正真正銘のエクスプロイトウイルス患者…それも重症一歩手前と言った所だ。
その患者をマリアとマルタにした時のように血液洗浄で治していく。
これでウイルスに怖がる人は少なくなるだろう…少なくとも大多数の空気は変わったはずだ。
更に翌日…。
経済的に疲弊《ひへい》していて、店を開けたい人と思っているのに開けない人達に、非常に都合の良い情報が伝わり、エクスプロイトウイルスも真っ青なレベルで瞬く間に空気感染し、大部分が自粛を解除し、自粛の反動により各艦から大量の人が押しかけ、デパート艦に賑わいが戻って来た。
「やっぱコレがデパート艦だよな…。」
皆の安心の為、しばらくデパート艦にいなきゃいけないが、ハルミは満足げに肯《うなず》いた。
ナオ達が食堂で食事をしていると隣のテーブル席にいるマリアとマルタが、体調が悪そうな顔をしている光景が目に入った。
まぁマリアとマルタも女なのだから体調が悪くなる日もあるだろう…と思っていたその時…。
ガチャン…と派手に食器を倒し、2人は床にぶっ倒れた…。
オレは慌てて、2人に近づく…。
ゲホ…ゲホゲホ…。
2人はせき込みながら息が出来ずに必死に呼吸をしている…。
「まさかエクスプロイトウイルスか?」
兵士が言う。
「そんな…遂に ここまで…。」
「自室に戻るぞ…戦闘前に感染して死にたくない。」
まばらで 食事をしていた兵士達が一斉に距離を取り、食堂から退避…。
一人が艦内通話で上に報告を入れている。
どうする?オレはポストヒューマンだからウイルスの類は効かないはずだ…。
「ナオ…2人は大丈夫か?」
純粋種で エクスプロイトウイルスの免疫持ちで 感染しても 大事にはなら無いトヨカズがオレに近づく。
レナとカズナ、ロウは、冷静に皿を持って端のテーブルまで退避する。
オレは2人の額に手を当て温度を測る。
「頭は打ってない…。
熱は、38℃…微熱か?
平熱が高いだけかもしれないけど…。」
種族によって平熱は様々だ…。
例えばオレの平熱は40℃…クオリアは45~50℃で、人間で40℃なら動けないレベルの高熱だし、まして50℃なら人は生きられない…。
オレはクオリアに緊急コールを送る…1秒後回線が開いた。
『どうした?』
『マリアとマルタが倒れた…。
熱は38℃』
『ウイルス感染か?』
『多分、エクスプロイトウイルスかもしれない。』
『なら、ハルミだな…。
場所は…食堂か?』
こっちから情報を抜き出したのだろう…クオリアがオレの場所を特定する。
『ああ…頼む。』
『確か近くにいたはずだ…見つけた。
騒ぎを聞いて向かっている見たいだ。』
「は~い退いた退いた~」
ハルミが医療用カバンを下げて艦内を大げさに走る。
退避して来た兵士から、場所が食堂だと判明している。
兵士達も私を遮らず、優先して通してくれる。
現場の食堂にたどり着き…ハルミは、あたりを見回す。
カウンターには 食堂を担当している兵士と調理師ドラムが2台。
食堂にいた人は殆《ほとん》ど退避していて、端のテーブル席にレナとカズナ、ロウが暢気に食事をしている。
そして、倒れるマリアとマルタを支えるナオとトヨカズ…。
「早いな…。」
ナオが言う。
「騒ぎになってたらか、カバンを持ってすぐに来た。」
私は マリアの頭に手をかざし、スキャンするようにゆっくり腹部まで手を持って行く…。
医療設備が乏しい所でも 検査が出来るように 私の手には万能スキャナーが搭載されている…。
結果がARウィンドウに表示される…やっぱりな…。
「エクスプロイトウイルスの兆候だ…。
デパート艦に運ぶ…あそこなら治せる…。
後、シェフさん…艦長に連絡…後…ハイこれ」
私は シェフに霧吹きを渡す。
「これは?」
「エタノール…これで食堂内を消毒して…。」
「分かった…。」
シェフが霧吹きを受け取り、艦内電話で艦長に連絡をする…。
艦内のアラート発生…。
『エクスプロイトウイルスの患者が発生した、場所は食堂…周辺区画の立ち入りを制限した。
乗員は緊急時以外に該当区画には立ち入らないように…以上だ。』
カルタ中佐の声だ。
「さてと…。」
ハルミが、マリアをおんぶの状態で担ぎ、マルタは ナオが左肩に後ろ向きに乗せられる。
左手で彼女をしっかりと支え、もう片方の右手はそえる程度で 緊急時には即座に右腰から銃を抜けるようにしている
その後ろのトヨカズは医療用のカバンを持っている。
3人は すぐさまエレベーターに乗り、甲板に向かう。
定期便のエアトラS2はもう出ているはずだが、上が止めて置いてくれたのかまだ後部ハッチが開いている。
「急患だ急患…前に積めて…。」
乗客はエクスプロイトウイルスの話が伝わっていたのか、全員がパイロットスーツにヘルメットまで被った状態で既に前に積めている。
私は マリアとマルタを席に座らせ、シートベルトで固定…。
ナオとトヨカズもシートベルトをし、最後にハルミがシートベルトをしたのと同時に、後部ハッチが閉まり、少し乱暴に緊急離陸を始めた。
デパート艦に着き、またマリアとマルタを担いで急いで診療所に向かう…。
既にドロフィン1から連絡が行っていた為、ストレッチャーに寝かせて、すぐに治療を開始…。
まずは、治療室の機材を立ち上げ記録の開始…。
無断で患者の身体をいじくる以上…記録は重要になる。
私は 血管にぶっ太い針を挿し込み、それをチューブに通して 体内の血液を透析機に送り、フィルタを通して洗浄を開始…。
フィルタで ろ過したエクスプロイトウイルスの無い血液を体内に返し、これを3~6時間程続ければ、免疫で倒せるレベルまでウイルスの個体数が減り、後は免疫力でどうにかなる…。
「よし…治療完了…後は 待つだけ…。
熱が酷くなるようなら戻す時の血液に解熱剤を混ぜてくれ…。」
「分かりました…。」
ナオは待合室のソファーに座りながら、治療室の映像をARモニタで見る。
ハルミが マリアとマルタにの血を抜いて血液洗浄を行う。
エクスプロイトウイルスの治療法は事前に知っていたが、手際が良く迷いが無く治療をしている。
『よし…治療完了…後は、待つだけ………』
「終わった見たいだな…。」
ハルミがカメラを切り、こちらのARモニタも消える。
治療時間は10分程…そして、ハルミが部屋から出て来た。
「ハルミ…マリア達は?」
「ああ…元気だよ…。」
「元気?」
マリアとマルタの今の状況から一番遠い言葉がハルミから発せられる。
ハルミは少し笑いながら スライドドアを開け、治療室にナオとトヨカズを入れる。
マリアとマルタには針が2本刺さっていて、それに繋がっているチューブには血が流れている…そしてその血をあの機械で ろ過して体内に戻しているのだろう…。
肝心の患者のマリアとマルタがぐったりとした状態で寝ている…とても元気とは思えない。
「はいカットおおお!!お疲れまでした。」
ハルミが言うと2人はゆっくりと置き出した。
「はいお疲れ…私、名演技~」
オレに向かってマリアがピースをする。
「ははは…確かに良い演技…知ってたのにビビった。」
トヨカズが軽く拍手をしつつ、少し笑いながら答える。
「ちゃんと記録は取れた?」
マルタが腕に刺さっている針を見ながら言う。
「ああ…助かった。
とは言っても、3時間後今度は元気になった状態の記録を取るから、チューブは挿したままな…。」
「あは~退屈~まぁこれでお店が開けるから良いか~」
「あの~どう言う事?仮病?」
オレが呆《あき》れたようにハルミに聞く。
話からしてトヨカズも知っていたのか?
「昨日…ハルミ達とデパート艦に行くって言ったろ。
あの時に自殺未遂は出るし、店は休業状態だしで全然楽しめなくてな…。
それでハルミが艦長に文句を言ったら、今回の作戦をやる事に決まったわけ…。」
オレの質問にトヨカズが答えた。
「と言う事は、レナ達も知っていたのか?」
「そう言う事…。」
「どおりで平気な顔をしている訳だ。」
急に倒れた事に驚いていて気づかなかったが、確かにあの行動を見ると不自然しい。
「伝えても良かったんだが『リアリティを出すなら、知らない方が良い』ってクオリアに止められてな…。」
ハルミが言う。
「クオリアには 伝わっていたのか」
まぁクオリアなら伝わって無くても自殺者が出ているみたいだし、気になって調べるだろう…。
オレには割と日常の事だったので特に気にもしなかった。
「でもこんな面倒な事をしなくても…。」
オレがハルミに言う。
「こうでもしないと周りが安心しないだろう…。
こっちが数値や統計から、いくら大丈夫だって言っても聞かないんだから…。
だから、ヤツらのルールに乗っ取って実際に治してみる必要があるんだ。」
「でも、こんな芝居をした所で時期にバレるだろう…。」
映像自体に細工はされていないが、ハルミの行動をさかのぼって調べれば、これが偽装だって事がすぐに分かるはずだ。
「まぁな…でも、今の恐慌状態のマインドなら『ウイルスが蔓延している』って思い込みで物を見るから まず気づかれない…。
と言うよりこれが嘘だと分かるなら、数値を見て動ける人だから、別に構わないだろう。
まずは『エクスプロイトウイルスは 簡単に治せる』って空気を作るのが重要なんだ。」
「空気?」
「そう、一人だけが『エクスプロイトウイルスはそこまで脅威じゃない』って言うのは、結構難しい…周りのコミュニティから弾かれるリスクがあるからな。
逆に言えば、大多数の意見を変えてやれば、どんな嘘でも信じちまうって事。
人は数字じゃなくて感情で生きているからな…まったく面倒だよな…。」
ハルミは頭をポリポリかき、デパート艦の艦長に連絡を入れる…。
「さて、こらからが大変だぞ…。
診療所が 患者であふれ返るだろうからな…。」
そう、ハルミが言うとARウィンドウを開き…何かの作業を始めた。
翌日…エクスプロイトウイルスが不治の病では無いと証明したハルミは、デパート艦の診療所で ほぼ全員が『ただの風邪』と思われる患者が大量に診察に来た事で待合室はあふれ、倉庫を簡易待合室にする事になった。
素人から見ると、エクスプロイトウイルスと ただの風邪の区別がつかない。
どっちも、重症になった場合の症状が肺炎だからだ。
「これはキツイですね…。」
診療所の開所始まって以来の賑わいだろう…人の行列を見て医者が言う。
「だいたい50人程度か?
でも、これだけを捌《さば》けば 店が開けられる。」
ハルミはそう言うと、倉庫に行き医者も後をついてくる。
「はい~注目!!…まずは、少し間隔を開けて~。
そう、手を伸ばして前の人にぶつからない程度に…それと、手を出して…エタノールを吹き付けるから…。」
ハルミは、患者の手にエタノールを吹き付けて行き除菌を行う。
そして、しばらくして大量の折り畳み椅子をキョウカイ小隊のメンバーに持って来て貰い 間隔を開けて設置し…患者が座る。
感染防止の基本に則《のっと》って、患者に対処法を学ばせる。
エクスプロイトウイルスに対してでは無く、様々なウイルスに効果的な方法だ。
同時に、倉庫内の隅々まで軍人が エタノールを霧吹きで拭き付け エタノールで除菌を行っている。
今頃は、シーランド艦の全艦内がエタノールで除菌されている事だろう。
まぁ…マイクロマシンのエクスプロイトウイルスには全くもって無意味なのだが、病気に対して実際に身体を動かし対処する事で除菌したと言う空気になり、不安を拭《ぬぐ》い去れる…プラシーボ効果だな。
まず、全員の熱を測る。
エクスプロイトウイルスに感染していても、熱が出ていなければ感染していないのと一緒だ。
そこから平熱より2~3℃以上高い人を割り出し、安心感が欲しくて来た無症状者を除く…。
残ったのは10人で血を抜いて検査機にかけて精密検査…。
検査の結果、6人が普通の風邪と診断。
そして、残りの4人の内2人はエクスプロイトウイルスに感染しているが、身体がウイルスに対処出来ており、ただの風邪レベルに収まっている…。
最後に残った2人中1人はインフルエンザ…エクスプロイトウイルスより危険で感染力がある為、入院…。
もう1人が正真正銘のエクスプロイトウイルス患者…それも重症一歩手前と言った所だ。
その患者をマリアとマルタにした時のように血液洗浄で治していく。
これでウイルスに怖がる人は少なくなるだろう…少なくとも大多数の空気は変わったはずだ。
更に翌日…。
経済的に疲弊《ひへい》していて、店を開けたい人と思っているのに開けない人達に、非常に都合の良い情報が伝わり、エクスプロイトウイルスも真っ青なレベルで瞬く間に空気感染し、大部分が自粛を解除し、自粛の反動により各艦から大量の人が押しかけ、デパート艦に賑わいが戻って来た。
「やっぱコレがデパート艦だよな…。」
皆の安心の為、しばらくデパート艦にいなきゃいけないが、ハルミは満足げに肯《うなず》いた。
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身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
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