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前編
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掴まれそうになって咄嗟に振り払った手が少女の頬を打った。
白磁のような白い肌はみるみる赤くなる。
手が当たってしまったのは偶然だった。それでも二人の間に走った衝撃は大きかった。
「あ、……っ」
「──申し訳ありませんでした、殿下」
反射的に謝ろうとしたライセルは──しかし、これまで彼が謝罪の言葉を口にしたのは数えるほどしかなかった。謝ることに慣れていない彼は声が出せなかった。
さらに、謝ろうとした相手は煩わしく思っている婚約者だった。
その彼女から先に謝られて、何も言えなくなる。
「カフスボタンが取れそうでしたので、咄嗟に手を伸ばしてしまいました。殿下を驚かせてしまい、申し訳ありません……」
体を半分に折って頭を下げる婚約者に、ライセルは自身の袖口に視線をやり、今にも取れそうなカフスボタンを確認した。
彼女の言葉に間違いはない。なのに、頭を上げないままもう一度謝罪を口にした彼女は「失礼致します」と言って離れて行った。
誰が見てもこちらが悪い。
彼女が謝る必要などなかったのに、彼女は謝ることに慣れてしまっていた。
そうさせたのは、紛れもなく自分だ。
公爵令嬢の婚約者は、常に冷静で、頭が良く、礼儀も弁えていて、模範的な優等生だった。
そんな彼女が、自分より劣っているこちらを立てようとする態度が気に入らなかった。
澄ました表情の裏で、王子というだけで周りからちやほやされて、大切にされている自分を見下しているのだ。
そうに決まっている……。
今日だって、婚約者がいる身で他の女性と親しくしているのが噂になっていると言ってきてライセルを苛立たせた。
彼女の性格を表したように真っ直ぐ伸びた黒髪に、冷たく沈んだ青い瞳。整いすぎた顔は人形が動いて喋っているように見える。
何より彼女の笑った顔を見たことがない。
まるで、貴方の隣はつまらないと暗に言われているようだった。
──だからって、叩くつもりはなかった。
どんなに気に入らない女性でも、暴力を振るうような男ではない。
誤解を生じさせる前に謝るべきだった。幸い、周囲には護衛の騎士だけだ。
彼女が言いふらすとも思えないが、これまでの自分の態度を振り返ると安心はできない。醜聞が広がる前に手を打っておくべきか。
嘆息したライセルは、王宮の廊下を歩きながら婚約者に謝る筋書きを考える。
久しぶりに手紙でも書いてやろうか。それとも直接こちらから出向いて──と、悩んでいるところに、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ライセルさまー!」
「……シエナ」
振り返る前に胸元に飛び込んできたのは、小柄な少女だった。
ふわりと揺れる亜麻色の髪に、薄い茶色の瞳は光の加減によって金色にも見える。愛らしい顔立ちは庇護欲をそそり、婚約者とは正反対の少女だった。
「寂しくてシエナの方から会いに来ちゃいました、ライセルさま!」
にっこりと笑ったシエナは、一度ライセルから離れると、ピンクのレースやリボンがたっぷりついたドレスを左右に広げ、覚えたばかりのカーテシーを披露する。
ころころ変わる表情に、屈託のない笑顔。
裏表のない言葉に心が軽くなる。一緒にいるだけで楽しい気分にさせてくれる少女だった。
シエナは最近まで平民だった。
しかし、とある男爵家の養女となり、先日社交界デビューをしたばかりだ。
身分こそ低いが、シエナの天真爛漫な態度に惹かれた男性は多かった。
ライセルもその内の一人だ。
それは自分に婚約者がいたことを後悔してしまうほど、シエナに心を奪われてしまっていた。
こちらが救いの手を差し出さなくても一人でこなしてしまう婚約者とは違い、シエナは誰かが支えてやらないと何も出来なかった。
『ライセルさまがいないと、シエナは生きていけないかも……』
好意を寄せている女性にそう言われて喜ばない男はいないだろう。
誰かの為に役立っている自分に満足し、以来シエナが困っていれば助けてきた。
婚約者からは一度も頼られたことがなかっただけに、自分はシエナにこそ価値がある男だと思うようになっていた。
けれど、今日はいつもと違った。
「……ライセルさま?」
縋りついてくるように腕を絡ませてきたシエナが、反応の薄いライセルを上目遣いで見上げてくる。
そんなところも可愛いと思うのに、先程の出来事がライセルの脳裏から焼き付いて離れなかった。
頬を打たれた彼女の驚いた顔がチラつく。
勢いで当たってしまった手に、その時の感触が僅かに残っている。
叩かれた彼女はきっと痛かったはずだ。
婚約者とはいえ、あの白い頬に触れたことは一度もなかった。
「シエナ、悪いけど……」
胸にもやがかかったようで気分が悪い。
あの時、しっかり謝っておけばこんな気持ちになる事もなかったのに。
謝罪もまともにできない人間だとは思われたくない。
ライセルは絡みつくシエナの腕を振り払い、王城の廊下を突き進んだ。
妙な胸騒ぎがする。
こういう時の勘ほど良く当たるものだ。
ライセルは急いで自室に戻り、婚約者に謝罪と、直接訪問する約束を取り付ける手紙を書いた。
これで問題ないだろう──と。
しかし、急いで手紙を送らせたものの、ライセルの書いた手紙が婚約者の元に届くことはなかった。
彼女はライセルとの婚約を解消したいと家族へ伝えると、その翌日置き手紙だけを残して屋敷を出て行ってしまったのだという。
その知らせを受けたのは、手紙を出してから五日も経った後のことだった。
★ ★
ライセルは国の第三王子として生まれた。
赤い髪に緑色の瞳を持ち、王族の中でもとくに整った容姿をしていた。
加えて末っ子ということもあり、他の王子より大切に育てられてきた。
ただ、王位継承権は誰より低かった。
「エルリーゼがいなくなった……?」
手紙を出してから五日後、ライセルの元に届いたのは婚約者の失踪を知らせる報告だった。
送った手紙は、その日の内に届いているはずだ。
なのに、彼女からの返信はなかった。それどころか姿を消したという。
──あの完璧な婚約者が。
「公女様はライセル殿下との婚約解消を父君の公爵閣下に願い出ると、翌日には置き手紙だけを残して屋敷を出て行ったと……」
「馬鹿なっ!」
ライセルは執務室の机を叩いて椅子から立ち上がった。
その弾みで、卓上に積み上がった書類が雪崩のように落ちたが今は構っていられない。
──エルリーゼが婚約の解消を望んだ上に、姿を消しただと?
とても信じられない話だ。
彼女は高貴な貴族令嬢として、誰よりも責任と義務を重んじていた。
とくに二人の婚約は王命によって決まったものだ。
だから、お互いの気持ちに関係なく、二人の婚姻は執り行わなければならなかった。それは王子であるライセルでさえ覆すことはできなかった。
それをエルリーゼが知らないはずはない。
知っていてこんな行動に出たというなら正気を疑う。王命に逆らって良いことはない。
「……なぜ、こんなに報告が遅れたんだ?」
「公爵家が公女様の行方不明を公にせず伏せておいででした」
報告を持ってきたライセルの従者は平民だが、身分に臆することなく堂々としていた。しかし、事が事だけに額には珍しく汗を滲ませている。
主人の婚約者がいなくなるなど、笑い話にもならない。
「もっと早く教えていれば王室の騎士団だって派遣できたものを。……五日か。公爵家が総出しても見つからないとは」
「いかが致しましょう」
公爵家は一人娘の失踪に愕然とし、大事になる前に自分たちの手で解決しようとしたのだろう。
ライセルがエルリーゼに手紙を送っていなければ、あと数週間はそのままだったかもしれない。
だが、問題が明るみになった今、すべてが遅すぎた。
ライセルは嘆息して、従者に指示を出した。
「父上と兄上には私から伝える。お前は先に修道院や教会に人を送り、エルリーゼが立ち寄っていないか確認してくれ」
「畏まりました」
「何としても見つけるんだ、私の婚約者を」
少し前まで近くにいるのも鬱陶しく思っていたのに不思議なものだ。
今は、なぜ彼女が屋敷からいなくなったのか純粋に知りたいと思った。
あれほど真面目に生きてきたエルリーゼが、どうしてこんな行動に出たのか。
ライセルはふと彼女の頬を叩いてしまった手を見下ろした。
それが原因だったかどうかは知らないが、少なくてもエルリーゼが行動を起こす引き金になった可能性は十分にある。
彼女は無敵の鎧を纏った心の強い女性だ。
自分の感情を優先させて動く人ではない。──だが、それこそが勝手な思い込みだとしたら。
部屋を出たライセルは国王の執務室に向かって急いだ。
未だ混乱はしているものの、一方的な婚約解消に苛立つこともなく、ライセルは妙に落ち着いていた。
まずはエルリーゼを見つけ出したい。
話はそれからだ。
★ ★
男の子だったら、どんなに良かったでしょう。
幼い頃から聞かされた母親の口癖は呪いのようで、徐々にエルリーゼの心を蝕んでいった。
国の法律により女性が爵位を継ぐことはできず、三等親までの血縁者或いは男性の養子にのみ譲ることができた。
エルリーゼは王家とも繋がりのある公爵家に生まれた、ただ一人の娘だった。
母親はエルリーゼを出産した後、跡取りとなる男児を産む為に手を尽くしたが、無理が祟って二度と子供の望めない体になった。
その瞬間、公爵家は男性の養子を迎えるか、エルリーゼの結婚相手に爵位を譲るかの選択を余儀なくされた。
そして、男児を産めなかった母親は周囲から無能と呼ばれ、彼女の精神は崩壊した。
皆の視線がある時は優しい母親も、二人きりになるとエルリーゼに呪いの言葉を囁いた。
どうして男の子じゃなかったの、と。
何度も、何度も、繰り返し責め続けられたエルリーゼは泣きながら謝った。
女の子に生まれてごめんなさい──。
声を震わせて伝えると、母親は暴力を振るうことはなかったが、代わりに「どんな男が公爵家の跡取りになるか分からないわ。貴女がしっかり学んで、この公爵家を守らなければいけないのよ」と、厳しくしつけられた。
とくに勉強の時間は母親の気分によって左右され、酷い時は朝から深夜まで続いた。
機嫌が悪い時は決まって、父親の帰りが遅い時だ。
父親が他の女性の元に通っていることは誰もが知っていた。だって隠そうともしなかったから。
男児を産めず、子供すらできない体になった妻は浮気されても当然という風潮が貴族の間にはあった。
だから、母親はどんな冷遇を受けても耐えるしかなかったのだ。
それどころか、公爵家から捨てられることを恐れ、他の女性の元へ通い続ける夫に尽くした。
帰ってくるか分からない男の帰りを待ち続け、倒れたこともある。そうやって、見舞いにすら現れなかった夫に母親は尽くし続けた。
──そして疲れ果てた母親は、ある日毒を飲んで亡くなった。
エルリーゼは横たわる母親の姿を見て呆然とした。
さらにエルリーゼを驚かせたのは、変わり果てた母親の亡骸に、父親が人目も憚らず泣き縋る姿だった。
妻に対する愛情はとっくになくなっていたと思っていたのに。
だが、父親は病んでいく妻に何もできず、自身の無力を味わい、目を逸らして逃げていただけだった。
──お母様の努力は無駄じゃなかったのね。
エルリーゼはこの時、相手に尽くせば相手にも伝わるのだと思ってしまった。
妻を失った父親は、再婚しなかった。
新しい妻を迎えれば跡取りとなる男児が生まれたかもしれない。けれど、爵位はエルリーゼの婿養子に譲ると決めてしまった。
そこへ公爵家に王命が下った。
第三王子であるライセルとエルリーゼの婚約だ。
後妻を迎えない父親に対し、国王が爵位を譲るに相応しい相手として自分の息子を差し出してきたのだ。
元々、王位継承第一位の王太子が結婚し、彼に男児が生まれたことで、第二王子と第三王子は王位継承を放棄する予定だった。
剣術に優れていた第二王子は王都から離れ、国境付近の領地を治める辺境伯の娘と婚姻して新たな領主となった。
一方、ライセルは国王と王妃の間に生まれた最後の子供として、皆から愛されて育った。そんな彼を遠くへ婿入りさせたくなかったようだ。
公爵家を継ぐにはやや力不足だったが、エルリーゼが支えるということで二人の婚約は本人たちの意思に関係なく取り交わされた。
国王夫妻や兄たちから愛され、王城で大切に育てられた第三王子のライセルは、しがらみに縛られたエルリーゼとは違って自由だった。
初めて顔を合わせた時、まるで太陽のような人だと思った。
彼と一緒になれたら自分も母親が残した呪縛から逃れられるような気がした。
その為には、彼が公爵家を継いでも自由でいられるように、エルリーゼは領主の業務を必死で学んだ。
無理矢理やらされる勉強とは違い、誰かの為に知識を増やしていくのは楽しかった。
夫となるライセルを自分が支えていくのだ。
だが、母親を失って塞ぎ気味になってしまった父親に代わり、領主代理と公爵家の業務を引き受け、片手間に女主人として屋敷の仕事をこなしている内に、心の余裕を失っていった。
ライセルと過ごす時間は殆ど取れず、限られた集まりのパートナーとして同行するぐらいだった。
交わしていた手紙のやり取りも減っていき、内容も業務紛いの報告になっていた。
それでも完璧な淑女として振る舞った。
ライセルの隣で肩を並べても恥ずかしくないように。
けれど、久しぶりに会ったライセルの横には見知らぬ女性がいた。
シエナと呼ばれた彼女は男爵家の養女で、ライセルと親しそうに過ごしていた。
ライセルもまた、彼女と楽しそうに喋っていた。
──婚約者は、私なのに。
ライセルの飾らない笑顔に胸が苦しくなった。
自分には一度も向けられたことがない。
それもそうだ。
一緒に笑い合うほど親しくないのだから。
婚約者という肩書だけで、会う機会を作ってこなかったのはエルリーゼの方だ。
「尽くせばきっと分かってくださる」
シエナのようにはなれないが、エルリーゼにはエルリーゼにしかできないことをやろうと決めて、ライセルに尽くした。
だが、エルリーゼがライセルに尽くせば尽くすほど、彼は馬鹿にされていると感じていたようだ。
そんなことはないと弁解しても、取り合ってはもらえなかった。
元々距離のあった関係は悪くなる一方で、反対にライセルとシエナの仲は深まっていった。
彼女のように無知で、無学で、誰かに頼らなければ生きていけないような女性だったら、ライセルも大切にしてくれただろうか。
婚約者として他の女性と親しくしているライセルを窘めるも、心の中ではシエナが羨ましかった。
ライセルの腕にすがりつけたら、どんなに良かっただろう。
淑女の手本になっていたエルリーゼは、誰かに頼るようにはできていなかったのだ。
ライセルの手に叩かれた瞬間、脳裏によみがえったのは毒を煽った母親の姿だった。
あれだけ尽くして、尽くして、尽くし疲れて……。
他の女性に心を寄せるライセルの姿を見つめながら、自分もあのように死んでいくのか──。
エルリーゼは母親の二の舞いになる己の姿が見えて、急に恐ろしくなった。
ここまでやってきたのに。
母親のようにはなりたくない、と声にならない悲鳴を上げていた。
だから、逃げ出した。
公爵家から、ライセルの婚約者という立場から。
エルリーゼは父親に婚約破棄を伝えると、持てるだけの荷物を鞄に詰めて置き手紙を残すと屋敷を出た。
無我夢中だった。
もっと冷静だったらこんな危険は冒さなかった。
けれど、死んだはずの母親が足元まで迫っている気がして、精神的に追い詰められていた。
行き先も決めず乗り合い馬車に飛び乗って王都を出た。
しばらく馬車に乗っていると随分馬鹿なことをしてしまったと思ったが、エルリーゼは初めて自由というものを感じた。
思いっきり外の空気を吸って、体中に血が巡った。
このまま行けるところまで行こう。
そう決意するものの、一週間も経つと好奇心より恐怖の方が勝った。
一人では食事の準備すらできない貴族令嬢が、どうやって生きていけるというのか。
エルリーゼは自分の行いを恥じ、彼女の足は次第に元来た道に向いていた。
しかし、崖沿いを走っていた馬車の車輪が鈍い音を立てた。
次の瞬間には体が傾き、声を上げるより先に誰かの悲鳴が聞こえてきた。
一瞬の浮遊感を味わった後エルリーゼの視界は暗転し、意識はそこで途切れてしまった。
白磁のような白い肌はみるみる赤くなる。
手が当たってしまったのは偶然だった。それでも二人の間に走った衝撃は大きかった。
「あ、……っ」
「──申し訳ありませんでした、殿下」
反射的に謝ろうとしたライセルは──しかし、これまで彼が謝罪の言葉を口にしたのは数えるほどしかなかった。謝ることに慣れていない彼は声が出せなかった。
さらに、謝ろうとした相手は煩わしく思っている婚約者だった。
その彼女から先に謝られて、何も言えなくなる。
「カフスボタンが取れそうでしたので、咄嗟に手を伸ばしてしまいました。殿下を驚かせてしまい、申し訳ありません……」
体を半分に折って頭を下げる婚約者に、ライセルは自身の袖口に視線をやり、今にも取れそうなカフスボタンを確認した。
彼女の言葉に間違いはない。なのに、頭を上げないままもう一度謝罪を口にした彼女は「失礼致します」と言って離れて行った。
誰が見てもこちらが悪い。
彼女が謝る必要などなかったのに、彼女は謝ることに慣れてしまっていた。
そうさせたのは、紛れもなく自分だ。
公爵令嬢の婚約者は、常に冷静で、頭が良く、礼儀も弁えていて、模範的な優等生だった。
そんな彼女が、自分より劣っているこちらを立てようとする態度が気に入らなかった。
澄ました表情の裏で、王子というだけで周りからちやほやされて、大切にされている自分を見下しているのだ。
そうに決まっている……。
今日だって、婚約者がいる身で他の女性と親しくしているのが噂になっていると言ってきてライセルを苛立たせた。
彼女の性格を表したように真っ直ぐ伸びた黒髪に、冷たく沈んだ青い瞳。整いすぎた顔は人形が動いて喋っているように見える。
何より彼女の笑った顔を見たことがない。
まるで、貴方の隣はつまらないと暗に言われているようだった。
──だからって、叩くつもりはなかった。
どんなに気に入らない女性でも、暴力を振るうような男ではない。
誤解を生じさせる前に謝るべきだった。幸い、周囲には護衛の騎士だけだ。
彼女が言いふらすとも思えないが、これまでの自分の態度を振り返ると安心はできない。醜聞が広がる前に手を打っておくべきか。
嘆息したライセルは、王宮の廊下を歩きながら婚約者に謝る筋書きを考える。
久しぶりに手紙でも書いてやろうか。それとも直接こちらから出向いて──と、悩んでいるところに、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ライセルさまー!」
「……シエナ」
振り返る前に胸元に飛び込んできたのは、小柄な少女だった。
ふわりと揺れる亜麻色の髪に、薄い茶色の瞳は光の加減によって金色にも見える。愛らしい顔立ちは庇護欲をそそり、婚約者とは正反対の少女だった。
「寂しくてシエナの方から会いに来ちゃいました、ライセルさま!」
にっこりと笑ったシエナは、一度ライセルから離れると、ピンクのレースやリボンがたっぷりついたドレスを左右に広げ、覚えたばかりのカーテシーを披露する。
ころころ変わる表情に、屈託のない笑顔。
裏表のない言葉に心が軽くなる。一緒にいるだけで楽しい気分にさせてくれる少女だった。
シエナは最近まで平民だった。
しかし、とある男爵家の養女となり、先日社交界デビューをしたばかりだ。
身分こそ低いが、シエナの天真爛漫な態度に惹かれた男性は多かった。
ライセルもその内の一人だ。
それは自分に婚約者がいたことを後悔してしまうほど、シエナに心を奪われてしまっていた。
こちらが救いの手を差し出さなくても一人でこなしてしまう婚約者とは違い、シエナは誰かが支えてやらないと何も出来なかった。
『ライセルさまがいないと、シエナは生きていけないかも……』
好意を寄せている女性にそう言われて喜ばない男はいないだろう。
誰かの為に役立っている自分に満足し、以来シエナが困っていれば助けてきた。
婚約者からは一度も頼られたことがなかっただけに、自分はシエナにこそ価値がある男だと思うようになっていた。
けれど、今日はいつもと違った。
「……ライセルさま?」
縋りついてくるように腕を絡ませてきたシエナが、反応の薄いライセルを上目遣いで見上げてくる。
そんなところも可愛いと思うのに、先程の出来事がライセルの脳裏から焼き付いて離れなかった。
頬を打たれた彼女の驚いた顔がチラつく。
勢いで当たってしまった手に、その時の感触が僅かに残っている。
叩かれた彼女はきっと痛かったはずだ。
婚約者とはいえ、あの白い頬に触れたことは一度もなかった。
「シエナ、悪いけど……」
胸にもやがかかったようで気分が悪い。
あの時、しっかり謝っておけばこんな気持ちになる事もなかったのに。
謝罪もまともにできない人間だとは思われたくない。
ライセルは絡みつくシエナの腕を振り払い、王城の廊下を突き進んだ。
妙な胸騒ぎがする。
こういう時の勘ほど良く当たるものだ。
ライセルは急いで自室に戻り、婚約者に謝罪と、直接訪問する約束を取り付ける手紙を書いた。
これで問題ないだろう──と。
しかし、急いで手紙を送らせたものの、ライセルの書いた手紙が婚約者の元に届くことはなかった。
彼女はライセルとの婚約を解消したいと家族へ伝えると、その翌日置き手紙だけを残して屋敷を出て行ってしまったのだという。
その知らせを受けたのは、手紙を出してから五日も経った後のことだった。
★ ★
ライセルは国の第三王子として生まれた。
赤い髪に緑色の瞳を持ち、王族の中でもとくに整った容姿をしていた。
加えて末っ子ということもあり、他の王子より大切に育てられてきた。
ただ、王位継承権は誰より低かった。
「エルリーゼがいなくなった……?」
手紙を出してから五日後、ライセルの元に届いたのは婚約者の失踪を知らせる報告だった。
送った手紙は、その日の内に届いているはずだ。
なのに、彼女からの返信はなかった。それどころか姿を消したという。
──あの完璧な婚約者が。
「公女様はライセル殿下との婚約解消を父君の公爵閣下に願い出ると、翌日には置き手紙だけを残して屋敷を出て行ったと……」
「馬鹿なっ!」
ライセルは執務室の机を叩いて椅子から立ち上がった。
その弾みで、卓上に積み上がった書類が雪崩のように落ちたが今は構っていられない。
──エルリーゼが婚約の解消を望んだ上に、姿を消しただと?
とても信じられない話だ。
彼女は高貴な貴族令嬢として、誰よりも責任と義務を重んじていた。
とくに二人の婚約は王命によって決まったものだ。
だから、お互いの気持ちに関係なく、二人の婚姻は執り行わなければならなかった。それは王子であるライセルでさえ覆すことはできなかった。
それをエルリーゼが知らないはずはない。
知っていてこんな行動に出たというなら正気を疑う。王命に逆らって良いことはない。
「……なぜ、こんなに報告が遅れたんだ?」
「公爵家が公女様の行方不明を公にせず伏せておいででした」
報告を持ってきたライセルの従者は平民だが、身分に臆することなく堂々としていた。しかし、事が事だけに額には珍しく汗を滲ませている。
主人の婚約者がいなくなるなど、笑い話にもならない。
「もっと早く教えていれば王室の騎士団だって派遣できたものを。……五日か。公爵家が総出しても見つからないとは」
「いかが致しましょう」
公爵家は一人娘の失踪に愕然とし、大事になる前に自分たちの手で解決しようとしたのだろう。
ライセルがエルリーゼに手紙を送っていなければ、あと数週間はそのままだったかもしれない。
だが、問題が明るみになった今、すべてが遅すぎた。
ライセルは嘆息して、従者に指示を出した。
「父上と兄上には私から伝える。お前は先に修道院や教会に人を送り、エルリーゼが立ち寄っていないか確認してくれ」
「畏まりました」
「何としても見つけるんだ、私の婚約者を」
少し前まで近くにいるのも鬱陶しく思っていたのに不思議なものだ。
今は、なぜ彼女が屋敷からいなくなったのか純粋に知りたいと思った。
あれほど真面目に生きてきたエルリーゼが、どうしてこんな行動に出たのか。
ライセルはふと彼女の頬を叩いてしまった手を見下ろした。
それが原因だったかどうかは知らないが、少なくてもエルリーゼが行動を起こす引き金になった可能性は十分にある。
彼女は無敵の鎧を纏った心の強い女性だ。
自分の感情を優先させて動く人ではない。──だが、それこそが勝手な思い込みだとしたら。
部屋を出たライセルは国王の執務室に向かって急いだ。
未だ混乱はしているものの、一方的な婚約解消に苛立つこともなく、ライセルは妙に落ち着いていた。
まずはエルリーゼを見つけ出したい。
話はそれからだ。
★ ★
男の子だったら、どんなに良かったでしょう。
幼い頃から聞かされた母親の口癖は呪いのようで、徐々にエルリーゼの心を蝕んでいった。
国の法律により女性が爵位を継ぐことはできず、三等親までの血縁者或いは男性の養子にのみ譲ることができた。
エルリーゼは王家とも繋がりのある公爵家に生まれた、ただ一人の娘だった。
母親はエルリーゼを出産した後、跡取りとなる男児を産む為に手を尽くしたが、無理が祟って二度と子供の望めない体になった。
その瞬間、公爵家は男性の養子を迎えるか、エルリーゼの結婚相手に爵位を譲るかの選択を余儀なくされた。
そして、男児を産めなかった母親は周囲から無能と呼ばれ、彼女の精神は崩壊した。
皆の視線がある時は優しい母親も、二人きりになるとエルリーゼに呪いの言葉を囁いた。
どうして男の子じゃなかったの、と。
何度も、何度も、繰り返し責め続けられたエルリーゼは泣きながら謝った。
女の子に生まれてごめんなさい──。
声を震わせて伝えると、母親は暴力を振るうことはなかったが、代わりに「どんな男が公爵家の跡取りになるか分からないわ。貴女がしっかり学んで、この公爵家を守らなければいけないのよ」と、厳しくしつけられた。
とくに勉強の時間は母親の気分によって左右され、酷い時は朝から深夜まで続いた。
機嫌が悪い時は決まって、父親の帰りが遅い時だ。
父親が他の女性の元に通っていることは誰もが知っていた。だって隠そうともしなかったから。
男児を産めず、子供すらできない体になった妻は浮気されても当然という風潮が貴族の間にはあった。
だから、母親はどんな冷遇を受けても耐えるしかなかったのだ。
それどころか、公爵家から捨てられることを恐れ、他の女性の元へ通い続ける夫に尽くした。
帰ってくるか分からない男の帰りを待ち続け、倒れたこともある。そうやって、見舞いにすら現れなかった夫に母親は尽くし続けた。
──そして疲れ果てた母親は、ある日毒を飲んで亡くなった。
エルリーゼは横たわる母親の姿を見て呆然とした。
さらにエルリーゼを驚かせたのは、変わり果てた母親の亡骸に、父親が人目も憚らず泣き縋る姿だった。
妻に対する愛情はとっくになくなっていたと思っていたのに。
だが、父親は病んでいく妻に何もできず、自身の無力を味わい、目を逸らして逃げていただけだった。
──お母様の努力は無駄じゃなかったのね。
エルリーゼはこの時、相手に尽くせば相手にも伝わるのだと思ってしまった。
妻を失った父親は、再婚しなかった。
新しい妻を迎えれば跡取りとなる男児が生まれたかもしれない。けれど、爵位はエルリーゼの婿養子に譲ると決めてしまった。
そこへ公爵家に王命が下った。
第三王子であるライセルとエルリーゼの婚約だ。
後妻を迎えない父親に対し、国王が爵位を譲るに相応しい相手として自分の息子を差し出してきたのだ。
元々、王位継承第一位の王太子が結婚し、彼に男児が生まれたことで、第二王子と第三王子は王位継承を放棄する予定だった。
剣術に優れていた第二王子は王都から離れ、国境付近の領地を治める辺境伯の娘と婚姻して新たな領主となった。
一方、ライセルは国王と王妃の間に生まれた最後の子供として、皆から愛されて育った。そんな彼を遠くへ婿入りさせたくなかったようだ。
公爵家を継ぐにはやや力不足だったが、エルリーゼが支えるということで二人の婚約は本人たちの意思に関係なく取り交わされた。
国王夫妻や兄たちから愛され、王城で大切に育てられた第三王子のライセルは、しがらみに縛られたエルリーゼとは違って自由だった。
初めて顔を合わせた時、まるで太陽のような人だと思った。
彼と一緒になれたら自分も母親が残した呪縛から逃れられるような気がした。
その為には、彼が公爵家を継いでも自由でいられるように、エルリーゼは領主の業務を必死で学んだ。
無理矢理やらされる勉強とは違い、誰かの為に知識を増やしていくのは楽しかった。
夫となるライセルを自分が支えていくのだ。
だが、母親を失って塞ぎ気味になってしまった父親に代わり、領主代理と公爵家の業務を引き受け、片手間に女主人として屋敷の仕事をこなしている内に、心の余裕を失っていった。
ライセルと過ごす時間は殆ど取れず、限られた集まりのパートナーとして同行するぐらいだった。
交わしていた手紙のやり取りも減っていき、内容も業務紛いの報告になっていた。
それでも完璧な淑女として振る舞った。
ライセルの隣で肩を並べても恥ずかしくないように。
けれど、久しぶりに会ったライセルの横には見知らぬ女性がいた。
シエナと呼ばれた彼女は男爵家の養女で、ライセルと親しそうに過ごしていた。
ライセルもまた、彼女と楽しそうに喋っていた。
──婚約者は、私なのに。
ライセルの飾らない笑顔に胸が苦しくなった。
自分には一度も向けられたことがない。
それもそうだ。
一緒に笑い合うほど親しくないのだから。
婚約者という肩書だけで、会う機会を作ってこなかったのはエルリーゼの方だ。
「尽くせばきっと分かってくださる」
シエナのようにはなれないが、エルリーゼにはエルリーゼにしかできないことをやろうと決めて、ライセルに尽くした。
だが、エルリーゼがライセルに尽くせば尽くすほど、彼は馬鹿にされていると感じていたようだ。
そんなことはないと弁解しても、取り合ってはもらえなかった。
元々距離のあった関係は悪くなる一方で、反対にライセルとシエナの仲は深まっていった。
彼女のように無知で、無学で、誰かに頼らなければ生きていけないような女性だったら、ライセルも大切にしてくれただろうか。
婚約者として他の女性と親しくしているライセルを窘めるも、心の中ではシエナが羨ましかった。
ライセルの腕にすがりつけたら、どんなに良かっただろう。
淑女の手本になっていたエルリーゼは、誰かに頼るようにはできていなかったのだ。
ライセルの手に叩かれた瞬間、脳裏によみがえったのは毒を煽った母親の姿だった。
あれだけ尽くして、尽くして、尽くし疲れて……。
他の女性に心を寄せるライセルの姿を見つめながら、自分もあのように死んでいくのか──。
エルリーゼは母親の二の舞いになる己の姿が見えて、急に恐ろしくなった。
ここまでやってきたのに。
母親のようにはなりたくない、と声にならない悲鳴を上げていた。
だから、逃げ出した。
公爵家から、ライセルの婚約者という立場から。
エルリーゼは父親に婚約破棄を伝えると、持てるだけの荷物を鞄に詰めて置き手紙を残すと屋敷を出た。
無我夢中だった。
もっと冷静だったらこんな危険は冒さなかった。
けれど、死んだはずの母親が足元まで迫っている気がして、精神的に追い詰められていた。
行き先も決めず乗り合い馬車に飛び乗って王都を出た。
しばらく馬車に乗っていると随分馬鹿なことをしてしまったと思ったが、エルリーゼは初めて自由というものを感じた。
思いっきり外の空気を吸って、体中に血が巡った。
このまま行けるところまで行こう。
そう決意するものの、一週間も経つと好奇心より恐怖の方が勝った。
一人では食事の準備すらできない貴族令嬢が、どうやって生きていけるというのか。
エルリーゼは自分の行いを恥じ、彼女の足は次第に元来た道に向いていた。
しかし、崖沿いを走っていた馬車の車輪が鈍い音を立てた。
次の瞬間には体が傾き、声を上げるより先に誰かの悲鳴が聞こえてきた。
一瞬の浮遊感を味わった後エルリーゼの視界は暗転し、意識はそこで途切れてしまった。
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