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別人なのか?
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インスタントコーヒーのお徳用の詰め替えを4つと1㎏入りのグラニュー糖を2袋、ついでにコーヒー用のパウダータイプのミルクの詰め替えを2袋と、お徳用の紅茶のティーバッグを1箱。
思っていたより大量に買い込んでしまい、愛美はずっしりと重いレジ袋を両手に提げてスーパーを出ようとした。
スーパーの出口でお見舞い用の果物かごを持った緒川支部長が待っている事に気付き、愛美は小さく舌打ちをする。
(先に支部に帰れって言っただろうがぁ!!)
緒川支部長は愛美に近付いて来て、何も言わずに愛美の両手から荷物を取り上げた。
「大丈夫です、自分で持てますから」
「菅谷は大丈夫でも俺が大丈夫じゃない。好きな女にこんな重いもの持たせられるか」
「はぁ……?」
(もうやめろって!!鳥肌が立つわ!!)
「行くぞ」
愛美は言い返す気力もなくなり、紅茶のティーバッグとミルクの詰め替えが入ったレジ袋を、黙って緒川支部長の手から取り返した。
「俺が持つって言ってるだろ」
「仕事ですから」
愛美は緒川支部長の少し後ろを黙って歩く。
これは緒川支部長なりの優しさなのかも知れないが、この態度と俺様発言にはやっぱり腹が立つ。
いくら優しくされても、相手が緒川支部長だと思うとイラッとして、素直にありがとうと言えない。
「なぁ菅谷」
「……なんですか」
「連絡先、教えて」
「は?」
思いもよらぬ緒川支部長の一言に、愛美は怪訝な顔をして間の抜けた声をあげた。
「営業職員の携帯番号は仕事上必要だから登録してあるけど……菅谷の携帯の番号とかメアドとか、知らないから」
「出先から用があるなら支部に電話すればいいじゃないですか」
「仕事中の用ならそうするけど……菅谷の連絡先知らないと、仕事の後とか連絡したくてもできない」
「え?あー……そうですね……」
(ああそうか……。付き合うって事になってたんだっけ)
付き合うなら携帯の番号くらい教えるのは当たり前かと思いながらも、どうせすぐ別れるのにと思うと素直に教える気にはなれなくて、愛美はどうしたものかと黙り込んだ。
「……付き合うって言っても、俺には連絡先教えるのもイヤ?」
「えっと……あの……」
「……そんなにイヤならいいよ、これ以上菅谷に嫌われたくないから。用もないのに俺から電話なんかしたって、菅谷にとっては迷惑だもんな。用がある時は会社にいる間に言うようにする」
緒川支部長は寂しそうにそう言ったあと、営業所に向かって足早に歩き出した。
緒川支部長の背中を見ながら歩いていた愛美の胸が、ほんの少し痛んだ。
(こんな事なら付き合うなんて言わなきゃ良かった……)
支部に戻り書類の入力などが済んで手の空いた愛美は、職員が出払ったオフィスで一人、何をするでもなく内勤用のパソコン画面をぼんやりと眺めていた。
さっきの緒川支部長の言葉が、何度も繰り返し頭の中をぐるぐると駆け巡る。
『これ以上菅谷に嫌われたくない』
たしかに仕事中の緒川支部長の事は嫌いだ。
だけどゆうべの緒川支部長の甘い言葉と、さっきの緒川支部長の寂しげな表情が脳裏に焼き付いて離れない。
(なんでそんなに私の事を好きだなんて言うんだろう?私はこんなに嫌いなのに……。それもわかってるくせに……なんで?)
一方的に嫌っている相手から、一方的に好きだと言われているこの状況が、どうしても腑に落ちない。
どう考えたって、好かれる要素なんてひとつもない。
(普通、おまえみたいなタイプは嫌いだってハッキリ言われたら、あきらめるよね?)
そう考えてから、またマスターの言葉をふと思い出す。
『元々は大人しくて真面目で優しい男だから、仕事は仕事で割りきって気持ち切り替えないとしんどいんじゃないかな』
たしかに仕事中の緒川支部長と、ゆうべの緒川支部長は別人みたいだった。
仕事をしていない時の緒川支部長が本当の緒川支部長だと言うことなんだろうか。
愛美は首をかしげ、腕組みをして考える。
そもそも、どうして緒川支部長が嫌いだと思ったのか。
この支部に配属されて初めて会った時から、愛美は緒川支部長のことが嫌いだった。
(『俺は若くても人より仕事ができます』みたいな自信満々な顔して、偉そうで?デカイ声で人を呼び捨てにして?ちょっとばかし見てくれがいいからって、オバサマたちにチヤホヤされて?それから?)
緒川支部長が嫌いな理由をいろいろと挙げ連ねてみるものの、冷静に考えてみれば、仕事が出来るから異例の若さで出世した訳だし、他の支部の営業職からのし上がったやり手のベテランオバサマ支部長や、支社から配属された管理職のオジサン支部長と比べても、その仕事ぶりは勝るとも劣らない。
実際、支部のトップに立つ人なのだから偉いのだし、そんな人が自信なさげだと、部下は不安になって支部全体の士気に関わるだろう。
思っていたより大量に買い込んでしまい、愛美はずっしりと重いレジ袋を両手に提げてスーパーを出ようとした。
スーパーの出口でお見舞い用の果物かごを持った緒川支部長が待っている事に気付き、愛美は小さく舌打ちをする。
(先に支部に帰れって言っただろうがぁ!!)
緒川支部長は愛美に近付いて来て、何も言わずに愛美の両手から荷物を取り上げた。
「大丈夫です、自分で持てますから」
「菅谷は大丈夫でも俺が大丈夫じゃない。好きな女にこんな重いもの持たせられるか」
「はぁ……?」
(もうやめろって!!鳥肌が立つわ!!)
「行くぞ」
愛美は言い返す気力もなくなり、紅茶のティーバッグとミルクの詰め替えが入ったレジ袋を、黙って緒川支部長の手から取り返した。
「俺が持つって言ってるだろ」
「仕事ですから」
愛美は緒川支部長の少し後ろを黙って歩く。
これは緒川支部長なりの優しさなのかも知れないが、この態度と俺様発言にはやっぱり腹が立つ。
いくら優しくされても、相手が緒川支部長だと思うとイラッとして、素直にありがとうと言えない。
「なぁ菅谷」
「……なんですか」
「連絡先、教えて」
「は?」
思いもよらぬ緒川支部長の一言に、愛美は怪訝な顔をして間の抜けた声をあげた。
「営業職員の携帯番号は仕事上必要だから登録してあるけど……菅谷の携帯の番号とかメアドとか、知らないから」
「出先から用があるなら支部に電話すればいいじゃないですか」
「仕事中の用ならそうするけど……菅谷の連絡先知らないと、仕事の後とか連絡したくてもできない」
「え?あー……そうですね……」
(ああそうか……。付き合うって事になってたんだっけ)
付き合うなら携帯の番号くらい教えるのは当たり前かと思いながらも、どうせすぐ別れるのにと思うと素直に教える気にはなれなくて、愛美はどうしたものかと黙り込んだ。
「……付き合うって言っても、俺には連絡先教えるのもイヤ?」
「えっと……あの……」
「……そんなにイヤならいいよ、これ以上菅谷に嫌われたくないから。用もないのに俺から電話なんかしたって、菅谷にとっては迷惑だもんな。用がある時は会社にいる間に言うようにする」
緒川支部長は寂しそうにそう言ったあと、営業所に向かって足早に歩き出した。
緒川支部長の背中を見ながら歩いていた愛美の胸が、ほんの少し痛んだ。
(こんな事なら付き合うなんて言わなきゃ良かった……)
支部に戻り書類の入力などが済んで手の空いた愛美は、職員が出払ったオフィスで一人、何をするでもなく内勤用のパソコン画面をぼんやりと眺めていた。
さっきの緒川支部長の言葉が、何度も繰り返し頭の中をぐるぐると駆け巡る。
『これ以上菅谷に嫌われたくない』
たしかに仕事中の緒川支部長の事は嫌いだ。
だけどゆうべの緒川支部長の甘い言葉と、さっきの緒川支部長の寂しげな表情が脳裏に焼き付いて離れない。
(なんでそんなに私の事を好きだなんて言うんだろう?私はこんなに嫌いなのに……。それもわかってるくせに……なんで?)
一方的に嫌っている相手から、一方的に好きだと言われているこの状況が、どうしても腑に落ちない。
どう考えたって、好かれる要素なんてひとつもない。
(普通、おまえみたいなタイプは嫌いだってハッキリ言われたら、あきらめるよね?)
そう考えてから、またマスターの言葉をふと思い出す。
『元々は大人しくて真面目で優しい男だから、仕事は仕事で割りきって気持ち切り替えないとしんどいんじゃないかな』
たしかに仕事中の緒川支部長と、ゆうべの緒川支部長は別人みたいだった。
仕事をしていない時の緒川支部長が本当の緒川支部長だと言うことなんだろうか。
愛美は首をかしげ、腕組みをして考える。
そもそも、どうして緒川支部長が嫌いだと思ったのか。
この支部に配属されて初めて会った時から、愛美は緒川支部長のことが嫌いだった。
(『俺は若くても人より仕事ができます』みたいな自信満々な顔して、偉そうで?デカイ声で人を呼び捨てにして?ちょっとばかし見てくれがいいからって、オバサマたちにチヤホヤされて?それから?)
緒川支部長が嫌いな理由をいろいろと挙げ連ねてみるものの、冷静に考えてみれば、仕事が出来るから異例の若さで出世した訳だし、他の支部の営業職からのし上がったやり手のベテランオバサマ支部長や、支社から配属された管理職のオジサン支部長と比べても、その仕事ぶりは勝るとも劣らない。
実際、支部のトップに立つ人なのだから偉いのだし、そんな人が自信なさげだと、部下は不安になって支部全体の士気に関わるだろう。
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