オフィスにラブは落ちてねぇ!!

櫻井音衣

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別人なのか?

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コーヒーの買い置きはまだあっただろうかと備品のロッカーを開けて確認すると、コーヒーも砂糖も買い置きはなかった。

 (この間買ったところだと思ってたのに、今使ってるこれで最後って、いくらなんでも早すぎる!!最後の開けるよって、なんで誰も教えてくれないんだ!!)

この支部は堅実な主婦が多いのか、無駄なお金をかけない人が多い。
自販機も置いてあるが、飲み物は支部にあるコーヒーやお茶で済ませる人がほとんどだ。
そのコーヒーやお茶は、支部の経費を扱う内勤の愛美が買いに行くことになっている。

 (まぁ……みんな毎月支部経費払ってるしな……。お金稼ぎに来てるんだから、余計なお金を使わないのは当たり前か。朝礼の後はコーヒー飲む人が多いから、早めに買いに行かないと)


朝礼の後、愛美は金庫の中から支部経費の入ったバッグを取り出した。
支部の買い物用の財布に五千円札を入れ、金庫の鍵をしめて立ち上がる。

「菅谷さん、これから買い物ですか?」

書類を取りに来た高瀬FPが愛美に声を掛けた。

「はい、そこのスーパーに行って来ます。コーヒーと砂糖の買い置きを切らしちゃったので」
「それじゃあ僕もちょうど買いたい物があるので一緒に行きますよ。帰りに荷物持ちます」
「そうですか?じゃあお言葉に甘えて……」

愛美が高瀬FPと一緒に支部を出ようとした時、背後から緒川支部長が大きな声で高瀬FPを呼び止めた。

「高瀬ー!」

愛美はビクッとして、険しい顔で緒川支部長を見る。

 (デカイ声だな!!心臓に悪いっつーの!!)

高瀬FPはいつものように笑顔で振り返る。

「はい、なんでしょう?」
「島崎工務店の社長から電話!」
「わかりました、ありがとうございます」

電話口に向かった高瀬FPに緒川支部長が尋ねる。

「なんか用事があったのか?」
「中沢商店の社長が入院されてるので、お見舞いに果物でも買って行こうと思いまして。ちょうど菅谷さんがコーヒーの買い置きを買いにスーパーに行くそうなんで、ついでに荷物持ちでも手伝おうかなって思ってたんです」
「……俺が行く。お見舞い用の果物買って来ればいいんだな?」
「はい、すみません。お願いします」

高瀬FPは笑いを堪えているのが緒川支部長にバレないように頭を下げ、いつも通り爽やかな顔をして電話に出た。
緒川支部長が席を立って愛美のそばに歩いてくると、愛美は半ば呆れながら小さくため息をついた。

「高瀬の代わりに俺が行く」
「一人で大丈夫ですけど」
 (あからさまなのはどっちだよ?!)
「いや、行くって言ったら行く。ほら、早くしろ」

緒川支部長はさっさと支部を出てエレベーターホールに向かった。
愛美は自分勝手な緒川支部長にムッとして、電話で話している高瀬FPの方をチラッと見る。
高瀬FPはニコニコ笑いながら愛美を見てうなずいた。
なんだか含みを持たせたような、意味深な笑顔だ。

 (……何それ?支部長と行けって?!)

「菅谷ー!早く来い!!」

廊下の先で呼ぶ緒川支部長の声に愛美はまたため息をついて、仕方なく緒川支部長の後を追った。

支部のオフィスが入っている営業部のビルを出て、愛美は緒川支部長と少し距離を開けて歩いた。

 (なんでいちいち構うかな……。高瀬FPとはなんにもないのに……)

支部のオバサマたちに変に思われていないだろうかとか、高瀬FPの意味ありげな笑顔はなんだったんだろうと考えながら下を向いて歩いていた愛美は、急に立ち止まった緒川支部長にぶつかった。

「わっ……!!なんで急に立ち止まるんですか!!」
「……悪い」
「だいたいなんで支部長自ら、支部の備品を買いに行くんです?おかしいでしょう」
「……俺より高瀬の方が良かった?」

またこれだ。
高瀬FPは好みのタイプではあってもただの同僚なのに、緒川支部長から一方的に疑われたり嫉妬されたりすることが腑に落ちない。

「そういう事を言ってるんじゃありません」
「……ごめん、高瀬と二人きりにさせたくなかった」
「はぁ……?もういいです」

愛美はイラッとして、さっさとスーパーに向かった。

 (なんだ、そのわけのわからん理由は?こっちは真面目に仕事してんだっつーの!!)

「なぁ、菅谷……」
「支部長は高瀬FPに頼まれた買い物が済んだら、さっさと支部に戻って下さい!私は一人で大丈夫ですから!」

何かを言いかけた緒川支部長の言葉を遮り、愛美は一気にまくし立てた。
緒川支部長といるとイライラしてしまう自分には、付き合うなんて絶対に無理だ。
ゆうべはやっぱり酔っていたせいで正常な判断ができなかっただけだと思いながら、スーパーに向かって足早に歩いた。

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