閉じたまぶたの裏側で

櫻井音衣

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温かい手とまっすぐな想い

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「嘘でしょ?」

思わず尋ねると、應汰はほんの少し赤い顔で、照れくさそうにチラッと私を見た。

「嘘じゃない。ホラ」

應汰は私の頭をグイッと引き寄せて、自分の胸に押し付けた。
少し速い應汰の鼓動が、トクトクと私の耳に伝わって来る。

「ドキドキしてるの……わかるか?」
「……うん」

應汰はそのまま私を抱きしめた。
應汰の鼓動につられたように、私の鼓動も少し速くなる。

「芙佳と一瞬にいると、照れくさいの隠そうとしてふざけてばっかだけどな……。俺、芙佳が好きだって気持ちだけはマジだから。それだけは知ってて欲しい」
「……うん」

温かい手、広い胸、優しい声、甘い言葉。
全部、今まで私の知らなかった應汰。
應汰の腕の中で目を閉じると、不意に夕べの切なげな勲が浮かんだ。

『芙佳……好きだ……。どこへも行くな……』

ひどいよ、勲。
もう私を幸せにはできないくせに、こんな時まで邪魔しないで。
私だって愛したいし、愛されたい。
涙が出るほど、幸せになりたいの。

「芙佳、泣いてんのか?また目ぇ閉じて……彼氏の事考えてるんだろ?」

應汰に顔を覗き込まれ、声を掛けられて、無意識に涙が溢れていたことに気付く。
應汰は私を抱きしめながら優しく頭を撫でた。

「今芙佳を抱きしめてるのは俺だろ。ちゃんと目を開いて俺を見ろよ。絶対芙佳を泣かせたりしないから」

今そんなことを言われたら、ささくれた心に染みて余計に涙が止まらなくなってしまう。
泣き顔を見られたくなくて、應汰の胸に顔をうずめた。
このまま應汰の優しさに溺れてしまいたい。
そんな事を思ってしまう私は、相当ずるい。

「芙佳……早く俺の事を好きになれ。一生愛して幸せにしてやるから」

泣いたらダメだと思っているのに、應汰に目一杯甘やかされて涙腺がどんどん緩む。
私が急に泣いて、應汰困ってるかな。
『俺の腕の中で他の男を想って泣くなんて、ひどい女だ』とか、思ってるかも。
これ以上甘えちゃいけない。
私は應汰から離れ、しゃくりあげながら涙を手で拭う。

「ごめん……シャツ、濡らし……ちゃった……」

應汰は少し笑ってもう一度私を抱き寄せ、その胸に顔をうずめさせた。

「泣きたいだけ泣け。シャツが絞れるくらい泣いてもいいぞ。俺が芙佳の全部、受け止めてやる」
「……ありがと、應汰……」
「おー。お礼にチューくらいはさせろよ」
「……バカ……」


『芙佳、ごめん……。もう泣かないで……』

勲は私が泣くと困った顔をして、泣かないでと言う。
私が『泣いてない』と嘘をつくと、嘘だとわかっているくせに、それに気付かないふりをする。
勲のために流した涙も小さな嘘も、受け止めてもらえないなんて、なんだか悲しい。
私が泣いて困るのなら、泣かせるような事をしなければいいのに。


應汰は私が泣き止むまでずっと、抱きしめて優しく頭を撫でてくれた。
それからまた手を繋いで車に向かって歩いた。

「無理なんかしなくていい。芙佳は芙佳のままでいいって、俺は思う」

どうして應汰はいつも、私の欲しい言葉ばかりくれるんだろう。
人としてのモラルに反する歪んだ愛情から抜け出せない私でも、光が刺す方を目指して歩いていいのだと言ってもらえたような気がした。

「うん……ありがとう」
「どうだ、惚れただろ?抱いてやろうか?」

應汰はおどけてニヤッと笑った。
ちょっと見直したと思ったらすぐこれだ。

「バカ……すぐ調子に乗るんだから……」
「お礼のチューは?」

顔を近付けられ、思わずギュッと目を閉じた。
閉じたまぶたの裏側では、勲が悲しそうな顔で私を見つめて『芙佳、どこへも行くな』と呟いている。

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