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温かい手とまっすぐな想い
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「やーめた」
應汰は顔を離して、私の頭をポンポンと軽く叩いた。
おそるおそるまぶたを開くと、優しく微笑む應汰の姿があった。
「俺からじゃなくて、芙佳からしてくれるの待ってる」
それって……私が應汰を好きになるまで待ってるって事なのかな。
應汰って、やっぱりいいやつ。
それからまた少し車を走らせ、プラネタリウムに行った。
暗い館内で倒したシートに身を預け、二人並んで夜空を模した天井を見上げた。
偽物の夜空に散りばめられた、偽物の星に見入っていると、應汰が私の手を握った。
偽物の星空の下で行くべき方向を見失い、迷子になってしまいそうな私の心は、温かくて大きな應汰の手に少し安心する。
プラネタリウムの上映が終わって席を立とうとした時、私の耳元で『いつか芙佳と一緒に本物の星空を見に行きたい』と、應汰が優しい声で囁いた。
應汰となら、行くべき方向を見失わずに歩けるのかな?
その温かくて大きな手で、ずっと私の手を引いて歩いてくれる?
プラネタリウムを出た後、すぐそばにある大きな公園を散歩した。
綺麗に咲き誇ったたくさんの花を見て、池のボートに乗った後は、またゆっくりと園内を歩く。
「ちょっと休憩するか」
「うん」
近くにあった自販機で缶コーヒーを買ってベンチに座った。
コーヒーを飲みながら、應汰は少し考えるそぶりを見せた。
「芙佳はさ……彼氏のどこが良かったの?」
「どこが……?」
應汰に尋ねられ、私は勲のどこに惹かれたのだろうと改めて考える。
きっとどこが好きとか、なんで好きとか考える前に、気が付けば好きになっていたんだと思う。
好きで好きで、一緒にいられる事が嬉しくて、ずっと一緒にいたいと思っていた。
……七海と結婚するまでは。
「理屈なんてないんだと思う。気が付けば好きになってた」
「ふーん……。今は?」
今は一緒にいても、寂しいし虚しい。
こんな関係はもう終わらせなければと何度も思った。
それでも離れられないのは、やっぱり好きだからなんだろう。
「好き……だけど……すごく寂しくて虚しい」
「それでも好きなんだな……」
應汰はため息をついてコーヒーを飲み込んだ。
「なんで虚しいの?結婚とか先が見込めないって……どういう意味?」
「うん……」
缶コーヒーを持つ手元を見つめながら、私はぐるぐると考える。
好きな人に奥さんがいるなんて、誰にも話した事はない。
應汰にそれを言っていいものなのか。
私が不倫をしているなんて知ったら、應汰はきっと幻滅するか、こんな面倒な女には深入りしない方がいいと思うだろう。
「もしかしてさ……相手、結婚してる人?それで先が見込めないのか?」
こちらが言うより先に、應汰に図星をつかれてしまった。
應汰は情けない私を受け止めてくれたんだから、これ以上嘘をつくのはやめよう。
私はそう決意して、おもむろにうなずいた。
「……うん。應汰の言う通りだよ」
「やっぱりそうか……」
應汰は缶コーヒーを少し飲んで、ゆっくりと私の方を向いた。
「そんなんで、芙佳は幸せ?」
その視線から逃れるようにうつむくと、應汰はため息をついた。
「……なわけないよな。それでも幸せなら、俺の前で泣いたりしないだろ」
「……そうだね……」
「そもそもなんでそんな人と付き合ってる?」
「なんでって……。最初からそうだったわけじゃないよ。元々はちゃんとした恋人同士だったから」
私の言葉の意味がわからないと言いたげに、應汰は眉間にシワを寄せた。
こんなことを聞けば、誰だって同じ反応をするだろう。
「どういう意味?」
「最初はちゃんと付き合ってた。だけど……私が出向してる半年の間に、相手が結婚しちゃってたから」
私の言葉が相当意外だったのか、應汰は大きく目を見開いた。
これも当然の反応だと思う。
應汰は顔を離して、私の頭をポンポンと軽く叩いた。
おそるおそるまぶたを開くと、優しく微笑む應汰の姿があった。
「俺からじゃなくて、芙佳からしてくれるの待ってる」
それって……私が應汰を好きになるまで待ってるって事なのかな。
應汰って、やっぱりいいやつ。
それからまた少し車を走らせ、プラネタリウムに行った。
暗い館内で倒したシートに身を預け、二人並んで夜空を模した天井を見上げた。
偽物の夜空に散りばめられた、偽物の星に見入っていると、應汰が私の手を握った。
偽物の星空の下で行くべき方向を見失い、迷子になってしまいそうな私の心は、温かくて大きな應汰の手に少し安心する。
プラネタリウムの上映が終わって席を立とうとした時、私の耳元で『いつか芙佳と一緒に本物の星空を見に行きたい』と、應汰が優しい声で囁いた。
應汰となら、行くべき方向を見失わずに歩けるのかな?
その温かくて大きな手で、ずっと私の手を引いて歩いてくれる?
プラネタリウムを出た後、すぐそばにある大きな公園を散歩した。
綺麗に咲き誇ったたくさんの花を見て、池のボートに乗った後は、またゆっくりと園内を歩く。
「ちょっと休憩するか」
「うん」
近くにあった自販機で缶コーヒーを買ってベンチに座った。
コーヒーを飲みながら、應汰は少し考えるそぶりを見せた。
「芙佳はさ……彼氏のどこが良かったの?」
「どこが……?」
應汰に尋ねられ、私は勲のどこに惹かれたのだろうと改めて考える。
きっとどこが好きとか、なんで好きとか考える前に、気が付けば好きになっていたんだと思う。
好きで好きで、一緒にいられる事が嬉しくて、ずっと一緒にいたいと思っていた。
……七海と結婚するまでは。
「理屈なんてないんだと思う。気が付けば好きになってた」
「ふーん……。今は?」
今は一緒にいても、寂しいし虚しい。
こんな関係はもう終わらせなければと何度も思った。
それでも離れられないのは、やっぱり好きだからなんだろう。
「好き……だけど……すごく寂しくて虚しい」
「それでも好きなんだな……」
應汰はため息をついてコーヒーを飲み込んだ。
「なんで虚しいの?結婚とか先が見込めないって……どういう意味?」
「うん……」
缶コーヒーを持つ手元を見つめながら、私はぐるぐると考える。
好きな人に奥さんがいるなんて、誰にも話した事はない。
應汰にそれを言っていいものなのか。
私が不倫をしているなんて知ったら、應汰はきっと幻滅するか、こんな面倒な女には深入りしない方がいいと思うだろう。
「もしかしてさ……相手、結婚してる人?それで先が見込めないのか?」
こちらが言うより先に、應汰に図星をつかれてしまった。
應汰は情けない私を受け止めてくれたんだから、これ以上嘘をつくのはやめよう。
私はそう決意して、おもむろにうなずいた。
「……うん。應汰の言う通りだよ」
「やっぱりそうか……」
應汰は缶コーヒーを少し飲んで、ゆっくりと私の方を向いた。
「そんなんで、芙佳は幸せ?」
その視線から逃れるようにうつむくと、應汰はため息をついた。
「……なわけないよな。それでも幸せなら、俺の前で泣いたりしないだろ」
「……そうだね……」
「そもそもなんでそんな人と付き合ってる?」
「なんでって……。最初からそうだったわけじゃないよ。元々はちゃんとした恋人同士だったから」
私の言葉の意味がわからないと言いたげに、應汰は眉間にシワを寄せた。
こんなことを聞けば、誰だって同じ反応をするだろう。
「どういう意味?」
「最初はちゃんと付き合ってた。だけど……私が出向してる半年の間に、相手が結婚しちゃってたから」
私の言葉が相当意外だったのか、應汰は大きく目を見開いた。
これも当然の反応だと思う。
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