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温かい手とまっすぐな想い
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「……え?芙佳と付き合ってたのに?」
「うん……。断れない縁談だったって」
「なんだそれ……。芙佳と付き合ってたのに他の人と結婚して、それでも芙佳ともずっと付き合ってるってか?むちゃくちゃだろ」
應汰は自分の事のように怒りを露にした。
その勢いに、今度は私の方が少し驚く。
「うん……そうだよね……。私もそう思う」
「出向してたのだってもうずっと前じゃん。ずっとそんな思いしてたのか?」
「うん……。バカみたいでしょ?相手に奥さんがいて、この先もどうにもならないってわかってるのにね」
こんなことを、ずっと私を好きだったと言ってくれた應汰に話すなんて情けない。
現実の私は、應汰の好きだった私とは程遠いんだろうな。
そう思うと、渇いた笑いが口からもれた。
「笑い事じゃないだろ」
「……だよね」
應汰はいつになく真剣な顔で私をたしなめた。
不倫をしていることはずっと誰にも秘密にしてきたし、叱ってくれる人なんて今までいなかったせいか、それすらも私を思って言ってくれているんだと嬉しくなる。
「いくら好きでも傷付いて泣くくらいなら、そんな男やめとけ。もうじゅうぶんだろ?」
不倫してるなんて、今まで仲のいい友達にも言えなかった。
もしそれを話したら、軽蔑されるんじゃないかと思うと怖かったから。
だけど應汰は私のために怒り、いつまでも勲との不毛な関係にすがりついている往生際の悪い私に、手をさしのべてくれた。
私の事をこんなに真剣に考えてくれるのは、應汰しかいないのかも知れない。
「應汰は優しいね」
「優しいっていうか……俺は芙佳が好きなだけ。もう芙佳にそんな思いさせたくない」
「ありがと……。彼もそんなふうに思ってくれたら良かったんだけどな」
勲がそんなふうに思ってくれていたなら、他の人と結婚しても私を好きだと言って手放さないなんてことはしなかっただろう。
應汰は缶コーヒーをベンチに置いて、私の手を握った。
「俺は思ってる。芙佳、そんな男とキッパリ別れて、俺んとこに来い。絶対後悔はさせないから」
「……考えとく」
勲との未来なんてないことは、私が一番よくわかっている。
何も考えずに應汰に甘えられたら、きっと幸せなんだろうと思う。
應汰ならきっと私を大事にしてくれるだろう。
だけどまだ、私の心には間違いなく勲がいる。
『もう来ないで』と言ったのは、私なりにけじめをつけるためだった。
自分で決めたことなのに、もしかしたら七海と別れて私を選んでくれるんじゃないかなんて甘い夢を捨てきれない。
勲への未練が断ちきれないくせに、應汰が私への真剣な気持ちをぶつけてくれる事が嬉しいなんて、自分でもイヤな女だと思う。
應汰の目はまっすぐで曇りがなくて、言葉にも深い愛情を感じられるから、信じてみたいという気持ちがまったくないとは言い切れない。
だけど應汰が真剣に私を想ってくれているのがわかるからこそ、こんな中途半端な気持ちでは應汰の気持ちに応えることはできない。
「俺はあきらめないからな?芙佳がうんって言うまで、毎日でも言ってやる」
「……應汰、しつこいんだよね?」
「芙佳にはな。芙佳を俺の嫁にするって、もう決めたから」
「勝手に決められても困るんだけど……」
「こんないい男に愛されて、困ることなんてひとつもないだろ?俺の隣でウエディングドレス着て歩くのは芙佳だからな」
ちょっと……いや、かなり自信家の俺様で気が早いけど、それも應汰なりの愛情表現なんだと思う。
望んで身を投じたのではないとは言え、不倫という深い沼で溺れて汚れた私が、應汰の隣で何事もなかったように笑って人並みの幸せを求めても、神様は許してくださるだろうか。
「うん……。断れない縁談だったって」
「なんだそれ……。芙佳と付き合ってたのに他の人と結婚して、それでも芙佳ともずっと付き合ってるってか?むちゃくちゃだろ」
應汰は自分の事のように怒りを露にした。
その勢いに、今度は私の方が少し驚く。
「うん……そうだよね……。私もそう思う」
「出向してたのだってもうずっと前じゃん。ずっとそんな思いしてたのか?」
「うん……。バカみたいでしょ?相手に奥さんがいて、この先もどうにもならないってわかってるのにね」
こんなことを、ずっと私を好きだったと言ってくれた應汰に話すなんて情けない。
現実の私は、應汰の好きだった私とは程遠いんだろうな。
そう思うと、渇いた笑いが口からもれた。
「笑い事じゃないだろ」
「……だよね」
應汰はいつになく真剣な顔で私をたしなめた。
不倫をしていることはずっと誰にも秘密にしてきたし、叱ってくれる人なんて今までいなかったせいか、それすらも私を思って言ってくれているんだと嬉しくなる。
「いくら好きでも傷付いて泣くくらいなら、そんな男やめとけ。もうじゅうぶんだろ?」
不倫してるなんて、今まで仲のいい友達にも言えなかった。
もしそれを話したら、軽蔑されるんじゃないかと思うと怖かったから。
だけど應汰は私のために怒り、いつまでも勲との不毛な関係にすがりついている往生際の悪い私に、手をさしのべてくれた。
私の事をこんなに真剣に考えてくれるのは、應汰しかいないのかも知れない。
「應汰は優しいね」
「優しいっていうか……俺は芙佳が好きなだけ。もう芙佳にそんな思いさせたくない」
「ありがと……。彼もそんなふうに思ってくれたら良かったんだけどな」
勲がそんなふうに思ってくれていたなら、他の人と結婚しても私を好きだと言って手放さないなんてことはしなかっただろう。
應汰は缶コーヒーをベンチに置いて、私の手を握った。
「俺は思ってる。芙佳、そんな男とキッパリ別れて、俺んとこに来い。絶対後悔はさせないから」
「……考えとく」
勲との未来なんてないことは、私が一番よくわかっている。
何も考えずに應汰に甘えられたら、きっと幸せなんだろうと思う。
應汰ならきっと私を大事にしてくれるだろう。
だけどまだ、私の心には間違いなく勲がいる。
『もう来ないで』と言ったのは、私なりにけじめをつけるためだった。
自分で決めたことなのに、もしかしたら七海と別れて私を選んでくれるんじゃないかなんて甘い夢を捨てきれない。
勲への未練が断ちきれないくせに、應汰が私への真剣な気持ちをぶつけてくれる事が嬉しいなんて、自分でもイヤな女だと思う。
應汰の目はまっすぐで曇りがなくて、言葉にも深い愛情を感じられるから、信じてみたいという気持ちがまったくないとは言い切れない。
だけど應汰が真剣に私を想ってくれているのがわかるからこそ、こんな中途半端な気持ちでは應汰の気持ちに応えることはできない。
「俺はあきらめないからな?芙佳がうんって言うまで、毎日でも言ってやる」
「……應汰、しつこいんだよね?」
「芙佳にはな。芙佳を俺の嫁にするって、もう決めたから」
「勝手に決められても困るんだけど……」
「こんないい男に愛されて、困ることなんてひとつもないだろ?俺の隣でウエディングドレス着て歩くのは芙佳だからな」
ちょっと……いや、かなり自信家の俺様で気が早いけど、それも應汰なりの愛情表現なんだと思う。
望んで身を投じたのではないとは言え、不倫という深い沼で溺れて汚れた私が、應汰の隣で何事もなかったように笑って人並みの幸せを求めても、神様は許してくださるだろうか。
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