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それから、清盛とは少しずつ距離を置き始めた。
まりんとの付き合いも相変わらずで、最近では登下校まで一緒にするようになったので、耐えられなくなってきたのだ。
(いや、ただ一緒にいたいだけならいいんだけどさ)
数メートル先を歩く清盛とまりんは、楽しそうに歩いている。
まりんは清盛の腕に絡みつき、自分の胸に押し付けているような感じさえする。
先程まで清盛と悠は一緒に歩いていた。自宅がすぐ近くなので、特に約束をしなくても登校時間は同じだったのだ。
それが、道の途中でまりんが入ってきて、悠がいるのにも関わらず、綺麗に無視して清盛を連れて行ってしまった。
彼女から、何となく悪意を感じるようになったのは、ここニ、三日だが、こうあからさまにされると呆れてしまう。
「よ、おはよ」
うっかり彼女の短いスカートから生えた足を眺めてしまい、気分が悪くなったとき、声を掛けてきたのは藤本だ。
「ちょっ、顔色悪いぞ? どうしたんだよ?」
心配した藤本が手を伸ばしてくる。悠は反射的にそれを避けると、彼はすぐに手を引っ込めた。
女子を見ていると気分が悪くなるのも、悠がまりんを避けている理由の一つだ。
そろそろ夏服から合服に替わり、悠にとっても安心できる季節になるというのに、まりんのセックスアピールにはもう我慢の限界だった。
「いや、大丈夫」
「大丈夫って顔かよ。……そういえば、もうすぐ体育文化祭の割り振り、決めるだろ? お前、何にする?」
心配しつつも、悠が絶対話さないことを知っていたのか、話題を楽しいものに変えてくれたので、ホッとする。
「俺は展示かなぁ」
悠たちの通う学校では、体育祭と文化祭をあわせて三日の日程で行われる。主に文化祭で舞台を使って発表するのがステージチーム、教室での出し物をするのが展示チーム、体育祭の人気種目、応援チームはチアリーディングと和風応援合戦を混ぜたようなもので、ソーラン節を踊ったり、バク転バク宙が飛び交うダンスを踊ったりと、毎年趣向が凝らされている。
後はPRチーム。自分のクラスを盛り上げるために、あらかじめ決まっているテーマカラーを基にチーム名を考え、応援幕を作り、体育祭でのゼッケンやハチマキを作る。
去年悠のクラスでは、モザイクで作った龍の応援幕を作り、PRチームの優勝を飾った。
基本縦割りで学年は関係なくチーム分けされる。
悠は舞台に立つ性格ではないし、体育も得意ではない。去年はPRをやったから、展示にしてみよう、ということだった。
「あれ? PRじゃねぇの? 去年の龍は春名の案だって聞いたけど」
「確かに案は出したけど、デザインをした後輩が上手かったからだよ」
「そうか? ま、今年はどうなるか分かんないしな。俺も今年は展示やろうかと思ってたんだ」
にこやかに話す藤本に、悠も久しぶりに心が和んだ気がした。微笑むと、彼は一瞬驚いたような顔をして、視線を逸らす。
「ホント、お前無自覚だから困る……」
ぼそりと呟いた声は悠には聞こえなかったが、「今の顔、清盛にも見せてやれよ」と言われ、ますます意味が分からなくなった。
「だから、お前、自分が美人だって自覚を持て。この間言っただろ? 放っておけない……いや、俺の場合は放っておいたらいけないだけど、そんな魅力があるんだよ。それ使えば清盛なんてすぐなのに」
「まさか。それに、俺はキヨとどうこうなろうなんて考えてないし」
真面目な顔で答えると、藤本は大きくため息をついた。基本ネガティブな悠は、この恋を自覚したときに諦めている。
こんな不毛な恋は、さっさと止めた方が良いのは分かっている。諦めてはいるけども、側にいたい。我ながら女々しいな、と思う。
でも、誰よりも大事だからこそ、側にいて幸せを願うくらいは良いだろう。藤本も、それを分かってくれているのか、あれこれ言ってこない。
所詮、他人は変えられないのだから。
悠は清盛に対して、特別な感情を持っていると自覚したきっかけを思い出した。
まりんとの付き合いも相変わらずで、最近では登下校まで一緒にするようになったので、耐えられなくなってきたのだ。
(いや、ただ一緒にいたいだけならいいんだけどさ)
数メートル先を歩く清盛とまりんは、楽しそうに歩いている。
まりんは清盛の腕に絡みつき、自分の胸に押し付けているような感じさえする。
先程まで清盛と悠は一緒に歩いていた。自宅がすぐ近くなので、特に約束をしなくても登校時間は同じだったのだ。
それが、道の途中でまりんが入ってきて、悠がいるのにも関わらず、綺麗に無視して清盛を連れて行ってしまった。
彼女から、何となく悪意を感じるようになったのは、ここニ、三日だが、こうあからさまにされると呆れてしまう。
「よ、おはよ」
うっかり彼女の短いスカートから生えた足を眺めてしまい、気分が悪くなったとき、声を掛けてきたのは藤本だ。
「ちょっ、顔色悪いぞ? どうしたんだよ?」
心配した藤本が手を伸ばしてくる。悠は反射的にそれを避けると、彼はすぐに手を引っ込めた。
女子を見ていると気分が悪くなるのも、悠がまりんを避けている理由の一つだ。
そろそろ夏服から合服に替わり、悠にとっても安心できる季節になるというのに、まりんのセックスアピールにはもう我慢の限界だった。
「いや、大丈夫」
「大丈夫って顔かよ。……そういえば、もうすぐ体育文化祭の割り振り、決めるだろ? お前、何にする?」
心配しつつも、悠が絶対話さないことを知っていたのか、話題を楽しいものに変えてくれたので、ホッとする。
「俺は展示かなぁ」
悠たちの通う学校では、体育祭と文化祭をあわせて三日の日程で行われる。主に文化祭で舞台を使って発表するのがステージチーム、教室での出し物をするのが展示チーム、体育祭の人気種目、応援チームはチアリーディングと和風応援合戦を混ぜたようなもので、ソーラン節を踊ったり、バク転バク宙が飛び交うダンスを踊ったりと、毎年趣向が凝らされている。
後はPRチーム。自分のクラスを盛り上げるために、あらかじめ決まっているテーマカラーを基にチーム名を考え、応援幕を作り、体育祭でのゼッケンやハチマキを作る。
去年悠のクラスでは、モザイクで作った龍の応援幕を作り、PRチームの優勝を飾った。
基本縦割りで学年は関係なくチーム分けされる。
悠は舞台に立つ性格ではないし、体育も得意ではない。去年はPRをやったから、展示にしてみよう、ということだった。
「あれ? PRじゃねぇの? 去年の龍は春名の案だって聞いたけど」
「確かに案は出したけど、デザインをした後輩が上手かったからだよ」
「そうか? ま、今年はどうなるか分かんないしな。俺も今年は展示やろうかと思ってたんだ」
にこやかに話す藤本に、悠も久しぶりに心が和んだ気がした。微笑むと、彼は一瞬驚いたような顔をして、視線を逸らす。
「ホント、お前無自覚だから困る……」
ぼそりと呟いた声は悠には聞こえなかったが、「今の顔、清盛にも見せてやれよ」と言われ、ますます意味が分からなくなった。
「だから、お前、自分が美人だって自覚を持て。この間言っただろ? 放っておけない……いや、俺の場合は放っておいたらいけないだけど、そんな魅力があるんだよ。それ使えば清盛なんてすぐなのに」
「まさか。それに、俺はキヨとどうこうなろうなんて考えてないし」
真面目な顔で答えると、藤本は大きくため息をついた。基本ネガティブな悠は、この恋を自覚したときに諦めている。
こんな不毛な恋は、さっさと止めた方が良いのは分かっている。諦めてはいるけども、側にいたい。我ながら女々しいな、と思う。
でも、誰よりも大事だからこそ、側にいて幸せを願うくらいは良いだろう。藤本も、それを分かってくれているのか、あれこれ言ってこない。
所詮、他人は変えられないのだから。
悠は清盛に対して、特別な感情を持っていると自覚したきっかけを思い出した。
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