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第135話
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誓約歴1260年12月 ~某日早朝~
王都郊外に広がるクラビナ公爵家管轄の森で狩猟を許された者達のうち、幼馴染と組んだ半人造の少女が薄っすらと雪の積もる大地に片膝を突いて、付近の植物を真剣な眼差しで観察する。
どうやら、保有魔力量が低い一般的な動物を見つけるのに探知系の術式は向かず、同心円状に飛ばす魔力波を強めても逃げられるため、地道に齧られた草葉の痕跡を調べているようだ。
「当たりかも? 多分、歯形的に猪だと思う、喰いっぷりからして手頃な大きさ」
「短期間とは言え… 念入りに仕込まれただけあって、本職の斥候に見えますね」
「ん、何度も死にかけたけどさ、孤児上がりの “斥候もどき” を一端に育ててくれたサイアスさんや、後を継いだダーリンには感謝しないと」
今思えば西方諸国での成人年齢に達した15歳の頃、クレアも含めた拙い三人娘で地元の組合に登録して、危険な魔物もいる薬草などの採集地に足を運んでいたのが自殺行為に思えると、嘯きながらリィナは立ち上がる。
その言葉を受けて、“槍の乙女” という二つ名で世に知られるフィアは当時を振り返り、淡い桜色の唇を震わせた。
「修道院の姉様方に心配を掛けた上、出会い頭のジェオ君にも怒られました “命の無駄遣いでしかない” 、“残された家族が悲しむ” と」
「改めて考えるまでもなく正論、無知って怖いね」
ぶっきらぼうな領主の嫡男に救われなかったら、粗暴な冒険者崩れの男どもに組み敷かれた挙句、嬲られている間に忍び寄った土蜘蛛らの餌食となり、短い人生を終えていただろう。
「あの時は動転して、気づきませんでしたけど……」
「うん、惚れる要素は十分にあった」
断じて私達はちょろくないのだと、二人の若い娘が拳を握り締めて言い訳するも、疎らな降雪のある森に聴衆は居らず、静寂が場を満たすのみ。
まだ周辺に残っているかもしれない猪? の足跡が白く覆われ、見分け難い状態になると苦労が嵩むだけなので、くすりと笑い合った彼女達は狩猟者の顔付きに戻る。
先導役のリィナが複数の微細な窪みによる動線を見つけ、進むべき方向を定めて移動し始めれば、運搬用の土橇と繋がる手綱を牽くフィアが後に続いた。
此処からは近くに獲物のいる確率が高いため、物音を立てない方が良いのだが、言い足りない部分でもあったのか、司祭の娘が幼馴染に話し掛ける。
「助けられたという点ではウルリカも同様、こっちの側に来るような予感がします。あまりに寵愛を受ける者の数が多いのは如何かと……」
「だからと言って、人の恋路を邪魔するのは御門が違うでしょう?」
「うぐっ、廻り廻って自滅しそうですね」
“はぁ~” と白い溜息など吐いて、緩やかに身体強化の術式を維持している司祭の娘は利き手に聖槍という名の鈍器、反対の手に頑丈な糸で編まれた綱紐を持ち、てくてくと足場の悪い獣道を歩んでいった。
王都郊外に広がるクラビナ公爵家管轄の森で狩猟を許された者達のうち、幼馴染と組んだ半人造の少女が薄っすらと雪の積もる大地に片膝を突いて、付近の植物を真剣な眼差しで観察する。
どうやら、保有魔力量が低い一般的な動物を見つけるのに探知系の術式は向かず、同心円状に飛ばす魔力波を強めても逃げられるため、地道に齧られた草葉の痕跡を調べているようだ。
「当たりかも? 多分、歯形的に猪だと思う、喰いっぷりからして手頃な大きさ」
「短期間とは言え… 念入りに仕込まれただけあって、本職の斥候に見えますね」
「ん、何度も死にかけたけどさ、孤児上がりの “斥候もどき” を一端に育ててくれたサイアスさんや、後を継いだダーリンには感謝しないと」
今思えば西方諸国での成人年齢に達した15歳の頃、クレアも含めた拙い三人娘で地元の組合に登録して、危険な魔物もいる薬草などの採集地に足を運んでいたのが自殺行為に思えると、嘯きながらリィナは立ち上がる。
その言葉を受けて、“槍の乙女” という二つ名で世に知られるフィアは当時を振り返り、淡い桜色の唇を震わせた。
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ぶっきらぼうな領主の嫡男に救われなかったら、粗暴な冒険者崩れの男どもに組み敷かれた挙句、嬲られている間に忍び寄った土蜘蛛らの餌食となり、短い人生を終えていただろう。
「あの時は動転して、気づきませんでしたけど……」
「うん、惚れる要素は十分にあった」
断じて私達はちょろくないのだと、二人の若い娘が拳を握り締めて言い訳するも、疎らな降雪のある森に聴衆は居らず、静寂が場を満たすのみ。
まだ周辺に残っているかもしれない猪? の足跡が白く覆われ、見分け難い状態になると苦労が嵩むだけなので、くすりと笑い合った彼女達は狩猟者の顔付きに戻る。
先導役のリィナが複数の微細な窪みによる動線を見つけ、進むべき方向を定めて移動し始めれば、運搬用の土橇と繋がる手綱を牽くフィアが後に続いた。
此処からは近くに獲物のいる確率が高いため、物音を立てない方が良いのだが、言い足りない部分でもあったのか、司祭の娘が幼馴染に話し掛ける。
「助けられたという点ではウルリカも同様、こっちの側に来るような予感がします。あまりに寵愛を受ける者の数が多いのは如何かと……」
「だからと言って、人の恋路を邪魔するのは御門が違うでしょう?」
「うぐっ、廻り廻って自滅しそうですね」
“はぁ~” と白い溜息など吐いて、緩やかに身体強化の術式を維持している司祭の娘は利き手に聖槍という名の鈍器、反対の手に頑丈な糸で編まれた綱紐を持ち、てくてくと足場の悪い獣道を歩んでいった。
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