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第134話
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やや緩んだ空気が流れる中で… 話題の転換点を見計らい、促すような小声で主の名を呼んだイングリッドが振り向いて、こちらの小卓を一瞥してくる。
細マッチョの青年に奢ってもらった扁桃入りのビスコッティ、“二度焼き” の語源がある共和国原産の御菓子を噛み切ってから、心当たりの無さに小首を捻ると先んじて何か思い出したようで、宰相閣下のご令嬢が声を掛けてきた。
「もうすぐ降誕祭の日が来ますので、王都郊外の森で使える狩猟許可証をジェオさんに渡してくれと、父様より頼まれました」
「気遣いに感謝する、有効に活用させてもらおう」
「大丈夫だとは思いますけど、狩り尽くさないでくださいね?」
自領や近隣を繫栄させるべく、王国西域の魔物討伐に明け暮れていた時期もあり、辺境の英雄などと過分な人物評が独り歩きしているため、本来ならあり得ない心配をエミリアにされてしまう。
その懸念に微苦笑で返して公爵家の刻印付き羊皮紙を懐へ仕舞えば、会話を聞いていた第二王子のレオニスが少しだけ、身に纏う雰囲気を硬くさせた。
「お前は特定座標に爆発を生じさせる固有魔法の遣い手らしいな、何人も学友が死んでいる以上、最善だったとは思えないが… 四年前の礼を述べておこう、感謝する」
「実地修練中に拝星の祭壇で起きた誘拐未遂のことか? 領域爆破の術式は師も扱えるし、個人の特定には至らんよ、傭兵崩れどもに仕掛けたのは俺じゃない」
以前、継続的に事件を調べていた官憲から怪しまれ、事細かに諮問された時と同じく、すべてをサイアスのせいにして罷り通る。
実際のところ蕃神の眷属が招聘に応じるまで、彼の御仁が傍観していたのもあり、自身の仕業と言えなくないのは内緒だ。
(さっき言われた通り、我が子を失った貴族らも当然に納得できてないはず)
引率教諭の女魔導士が殺されるのを看過できず、粗雑な扱い故に生徒らも最後は始末される可能性が高いと踏んで介入したものの、性急な行動だと責められたら厄介なこと極まりない。
空気が読めるオルグレンの機転で始まった “当たり障りのない” 会話に混じりつつ、情動に任せた批難を避けているあたり、理性に基づく考察を重ねたのだろうと、レオニスの評価を脳内で引き上げる。
そんなことに意識を割いていたら、さりげなく “廃都の地下迷宮” に誘われたので進捗の程度を探ると、皆が微妙な仕草を見せて口籠った。
「順調と言えば、そうだが……」
「ルベルト殿下に追いついてもなぁ」
「余人の踏破限界を超えるのは難しいかと」
「私達も第十一階層で足止めでしょうね」
言葉を濁した第二王子ら男性陣に頷き、透かさず補足を添えた侍女に同意する形で主任のエミリアが総括する。
どうやら一年半前の領域内浸食により、低層の終わりにある湖沼へ六本肢の偽竜が現れ、かなりの強者でなければ中層への連結部に辿り着けなくなったらしい。
「王都の界隈で斃されずに長々と猛威を振るうとか、有り得るのか?」
冒険者組合のグラシア本店があり、金等級の者達も数名は在籍する状況で凄いなと呟けば、左右の首振りでイングリッドに否定されてしまう。
「喰われた連中も多いが、追い詰めた者達もそこそこ」
「竜種と間違われる巨躯なのに臆病で、窮地に陥ると尻尾を巻くみたいです」
湖沼の深みに引き篭もられると手出しできず、焦って追うと水辺で返り討ちにされるため、偽竜の始末は非常に困難だと公爵令嬢が溜息する。
まさに適者生存と言うべき様態であるものの、王都地下の浸食領域に潜る予定は無いことから頭の片隅へ留めておき、午後の茶会で饗された乾燥カモミールとミルクの香草茶に舌鼓を打った。
細マッチョの青年に奢ってもらった扁桃入りのビスコッティ、“二度焼き” の語源がある共和国原産の御菓子を噛み切ってから、心当たりの無さに小首を捻ると先んじて何か思い出したようで、宰相閣下のご令嬢が声を掛けてきた。
「もうすぐ降誕祭の日が来ますので、王都郊外の森で使える狩猟許可証をジェオさんに渡してくれと、父様より頼まれました」
「気遣いに感謝する、有効に活用させてもらおう」
「大丈夫だとは思いますけど、狩り尽くさないでくださいね?」
自領や近隣を繫栄させるべく、王国西域の魔物討伐に明け暮れていた時期もあり、辺境の英雄などと過分な人物評が独り歩きしているため、本来ならあり得ない心配をエミリアにされてしまう。
その懸念に微苦笑で返して公爵家の刻印付き羊皮紙を懐へ仕舞えば、会話を聞いていた第二王子のレオニスが少しだけ、身に纏う雰囲気を硬くさせた。
「お前は特定座標に爆発を生じさせる固有魔法の遣い手らしいな、何人も学友が死んでいる以上、最善だったとは思えないが… 四年前の礼を述べておこう、感謝する」
「実地修練中に拝星の祭壇で起きた誘拐未遂のことか? 領域爆破の術式は師も扱えるし、個人の特定には至らんよ、傭兵崩れどもに仕掛けたのは俺じゃない」
以前、継続的に事件を調べていた官憲から怪しまれ、事細かに諮問された時と同じく、すべてをサイアスのせいにして罷り通る。
実際のところ蕃神の眷属が招聘に応じるまで、彼の御仁が傍観していたのもあり、自身の仕業と言えなくないのは内緒だ。
(さっき言われた通り、我が子を失った貴族らも当然に納得できてないはず)
引率教諭の女魔導士が殺されるのを看過できず、粗雑な扱い故に生徒らも最後は始末される可能性が高いと踏んで介入したものの、性急な行動だと責められたら厄介なこと極まりない。
空気が読めるオルグレンの機転で始まった “当たり障りのない” 会話に混じりつつ、情動に任せた批難を避けているあたり、理性に基づく考察を重ねたのだろうと、レオニスの評価を脳内で引き上げる。
そんなことに意識を割いていたら、さりげなく “廃都の地下迷宮” に誘われたので進捗の程度を探ると、皆が微妙な仕草を見せて口籠った。
「順調と言えば、そうだが……」
「ルベルト殿下に追いついてもなぁ」
「余人の踏破限界を超えるのは難しいかと」
「私達も第十一階層で足止めでしょうね」
言葉を濁した第二王子ら男性陣に頷き、透かさず補足を添えた侍女に同意する形で主任のエミリアが総括する。
どうやら一年半前の領域内浸食により、低層の終わりにある湖沼へ六本肢の偽竜が現れ、かなりの強者でなければ中層への連結部に辿り着けなくなったらしい。
「王都の界隈で斃されずに長々と猛威を振るうとか、有り得るのか?」
冒険者組合のグラシア本店があり、金等級の者達も数名は在籍する状況で凄いなと呟けば、左右の首振りでイングリッドに否定されてしまう。
「喰われた連中も多いが、追い詰めた者達もそこそこ」
「竜種と間違われる巨躯なのに臆病で、窮地に陥ると尻尾を巻くみたいです」
湖沼の深みに引き篭もられると手出しできず、焦って追うと水辺で返り討ちにされるため、偽竜の始末は非常に困難だと公爵令嬢が溜息する。
まさに適者生存と言うべき様態であるものの、王都地下の浸食領域に潜る予定は無いことから頭の片隅へ留めておき、午後の茶会で饗された乾燥カモミールとミルクの香草茶に舌鼓を打った。
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