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第一部
15.黒は脇役のカラーだもん
しおりを挟む王宮と一言で言ってもかなり大きい。
ノーブル王子との待ち合わせ場所は薔薇園とのことだった。
二人で話した時のお庭とよく似ている。
私は空中から王宮を見渡し薔薇園を見つけると、そこへ降りて行った。
―――【解除】
【透明】【隠蔽】【飛翔】【速度向上】【疾風】【同化】のみ【解除】を行う。
【変色】を【解除】してしまうとユリアーナだとバレてしまうためだ。
意外と魔法の指定は難しい。
が、王宮図書館のためと思えば楽な方だ。
―――ノーブル様は……あ、いた。
少し奥の方にノーブル王子がいた。
ネイビーの髪にシルバーグレーの瞳の色アリキャラクターなのですぐにわかる。
さすが主要人物。
纏う存在感が違う。
「ノーブル様」
「! ……? …………?」
変な無言の反応に疑問を抱く。
私、何か変だろうか。
「ユリアーナ、か?」
「? その選択肢以外あるのですか?」
「そう、か……」
ノーブル様がおかしい。
何かあったのだろうか。
「私、変でしたか?」
「え!? いや、そうじゃなくて……前に【変色】させた時はローズレッドだったから……」
―――あぁ、そういうことか。
今の私の髪は黒だ。
ノーブル様が知っている私は白髪とローズレッドの髪なので、誰かわからず違和感を持ったのだろう。
「どうして黒に?」
「先日の姿を見られていた場合の対策です。あと、黒髪の方が目立ちにくいんですよ」
―――黒は脇役のカラーだもん。
前世では常識である。
「そうなのか?」
「はい。……あ、声も変えたほうがいいですか? 社交はなるべく避けていますが、気づかれると厄介ですよね」
「いや、話さなければいいだけだ。いつもの声のままでいい」
「わかりました」
―――あ、そうだ。
「ノーブル様。今日一日、私のことはユラとお呼びください」
「ユラ?」
ユラは私の前世の名前、由良からつけた。
「ユリィでいいと言いましたが、今日はお忍び的な形ですのでユラ、と」
ユリアーナだと知られると、他の令嬢たちに見られた場合面倒なことになるのだ。
「ユラか。あまり聞かない名だが……わかった。じゃあ俺も一つお願いをしてもいいだろうか」
「なんでしょう」
「どうやってこの薔薇園に入った。王宮に入るには検問を突破しなければならない。その際、ユリアーナだと知られてしまうだろう?」
検問なんてものがあるのか。
いや、命を狙われていてもおかしくない王族が住まう王宮だ。
当たり前のことだろう。
「飛んで入りました」と答えると、ノーブル王子は目を大きく開いて驚いていた。
「空中には結界が張られていたはずだ。どうして入れた」
「結界? ……もしかしたら【疾風】に【同化】していたので私の存在を認識できなかったのかもしれません」
結界は“敵”や“危険物”と判断したものを拒絶する力がある。
雨や風といった自然の現象をそのように捉えることはない。
捉えてしまえば空気を“敵”と誤認識し、結界内にいる者が死んでしまう可能性もあるからだ。
「なるほど……情報提供感謝する」
―――私はただ、考えを言っただけなんだけどなぁ……。
それが情報提供と呼ばれるものになるということは、侵入者用の対策に使われるのだろう。
あれ、ということは私、王宮にいつでも侵入できる危険人物って思われたりする!?
そんなことしないからね私!
王宮図書館行きの切符を剥奪するとか言わないでくださいね!? ノーブル王子!
「あぁ安心しろ。侵入者が侵入手段を標的に言うとは思えん。もし疑われたとしても俺が守ってやる」
「! ありがとうございます!」
よ、よかった。
少し安心できる。
「しかし俺の指示とはいえ検問を通っていないのは事実。これをつけておけ。検問済みの証拠であるペンダントだ。俺の関係者用の無期限のペンダントだからこれからは正面から検問なしで通れる。空から来るのはこれが最初で最後にしてくれ」
私はノーブル王子から小さなペンダントを受け取り付ける。
ノーブル王子の髪と同じネイビーのペンダントだ。
―――ひんやりしてる……。
ノーブル王子の魔力だろうか。
淡い光を纏って光っている。
とても綺麗だ。
「大事にしますね。ありがとうございます、ノーブル様」
「そうしてくれ。じゃあ行こうか、ユラ」
少しドキッとしたのは、由良と呼ばれるのが久しぶりで慣れていなかったからだろう。
または、ノーブル王子が外向きの顔で私の手を取り、エスコートしたからに違いない。
「君を待つ王宮図書館へ」
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