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第一部
26.この契約、美味しすぎる
しおりを挟む「わたくしは多くの方との関わりを持っています。ブライト様が“絶対にいない日”を知ることが可能です。また、早く会話を終わらせる方法、逆に長く会話を続ける方法を知っています。ブライト様から逃げることも容易になるかと。それに加えて本は三冊以上、提供いたします。貸し借りではなく、生涯ユリアーナ様の所有物として、無料で、新品をお渡しいたします。……いかがでしょう?」
ブライト様が絶対にいない日に王宮図書館へ行けば、誰にも邪魔されずに至福の読書時間を味わえるに違いない。
もし会っても早く会話を終えることができたらとても楽だろう。
年齢が上がればお茶会の頻度も増える。
コミュニケーション能力が壊滅的なので会話を長く続ける方法も知りたい。
無料で、新品の本を、私の所有物として、三冊以上ももらえるだなんて最高すぎる。
―――この契約、美味しすぎる。
のらないと確実に損をすると私の本能が告げている。
裏があるのかと思ったが、どうやら本当にノーブル様の婚約者になるために契約を持ちかけただけらしい。
王族との婚約は非常に重要なものだ。
レティシア様は公爵令嬢。
財力に困っているはずがないので本の一冊や二冊、なんの痛手にもなるわけがない。
「のります! 契約します!」
「それはよかった。お互いのために、協力関係を築きましょう」
というわけで、私はレティシア様と契約を結ぶことになった。
私はノーブル様に自分から近づかない。
レティシア様は私にブライト様対策と毎月三冊以上の本をあげる。
こんな感じだ。
「はい。契約内容を確認しました。これからよろしくお願いしますね、ユリアーナ様」
「よろしくお願いします、レティシア様」
「では契約はできたので、早速ですがブライト様の情報を教えますね」
「! お願いします!」
しかし次の瞬間、まさかの事実を知る。
「実は今日、ブライト様はリンドール公爵家に行っているのですよ」
「……………………え?」
一時的に思考が停止する。
「ブライト様に対して苦手意識を持たれているのを知っていたのでわたくしは今日を選んだのです。うまくいってよかったです」
そして、レティシア様のたった一言で全てがつながった。
―――待って、待って待って待って。
最悪の場合の可能性だ。
確定したことではない。
だけど、そうとしか思えなかった。
『お願いエリィ姉さん! お願い!』
『…………ごめんなさい、ユリィ』
『え、エリィ姉さん……?』
『私、その日は用事があるの。だから……』
『エリィ姉さん。それって、私よりも大事な予定なの……?』
『本当に、ごめんねユリィ』
エリアーナが一緒にお茶会に行けなかった理由。
私しか誘われていないからではない。
エリアーナにはすでに先約があって、それがリンドール家にとってもエリアーナにとっても重要なことだったから。
『実は今日、ブライト様はリンドール公爵家に行っているのですよ』
エリアーナの頑な具合とブライト王子の訪問が偶然とは思えない。
エリアーナは公爵令嬢なので王族とは十分につり合う身分だ。
すべてのことから考えられるのは―――
―――二人が婚約するかもしれない……!
「どうかしましたか? ユリアーナ様」
「……レティシア様、今日はお招きありがとうございました。レティシア様のおかげで私は今すぐに帰らなくてはならないことを知りました。またお会いしましょう。……サーシャ、急いで!」
「仰せのままに」
私は倍速で挨拶を終えると、急いでリンドール邸へと向かった。
―――お願い、間に合って……!
しかし着いた時にはもう手遅れだった。
「聞いてユリィ! 私、ブライト様の婚約者になることができたの!」
太陽のような眩しい笑みでエリアーナは嬉しそうに報告した。
―――間に合わなかった……。
エリアーナはブライト王子との婚約を決めたのだった。
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