悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第一部

27.妹パワーでなんとかしますか

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「ユリィ~~っ!」
「うぅぐ……っ」

 日常と化したエリアーナのぎゅーに、私は思わず腹の底から声が出る。
 エリアーナは日に日に抱きしめる力を増しているので、小さかった頃はまだ耐えられたものの、最近は一瞬息を止められるくらいになった。
 しかしエリアーナの愛情から来るものだと知っているので、避けたりなどしない。
 ……すごく苦しくなってきているが、ここは愛の力でなんとかするしかない。
(※なんとかできるものではありません)

「エリアーナ様。お時間です」
「むぅ……」

 不満そうな表情だ。
 私は少しでもエリアーナの不満をなくすことにした。

―――妹パワーでなんとかしますか。

 大事なのは上目遣いと言葉選び。
 妹の可愛さと抜群の威力を持つ言葉で今日は諦めてもらうしかない。

「エリィ姉さん」
「なあに、ユリィ?」

 とくと見よ、私の練習した最高の妹を!

「エリィ姉さんは私の自慢のお姉様です!」
「! どうして?」
「メイドさんたちが言ってたのです! エリィ姉さんは文句一つ言わずに毎日お勉強もお作法も頑張っていると! だから私もエリィ姉さんのような立派な淑女になるために頑張ります!」
「ゆ、ユリィ~~っ!!」

 言われて嬉しいことを言うことで気持ちや好感度が上がることは今世でも変わらない。
 エリアーナはクソ王子の婚約者になった日から更に努力を続けている。
 この調子で頑張ってほしい。

「私、頑張るわ!」
「はい、頑張ってください、エリィ姉さん」

 手を振ってエリアーナと別れる。
 すると、後ろで控えていたサーシャが話しかけた。

「ユリアーナ様」
「なにかしら」
「とても失礼なことを申しますがよろしいでしょうか」
「? どうぞ」

 サーシャがそんな風に切り出すのは珍しい。
 何を言うのだろう。

「ユリアーナ様が調教師に見えました」
「……調教師? 誰を調教してると?」
「……エリアーナ様をです」
―――わからなくはない。

 たしかに私とエリアーナのやりとりを第三者視点で見ると、私が調教師、エリアーナが忠犬に見えるかもしれない。
 少し納得した。
 しかしエリアーナは犬ではない。
 むしろ例えるなら花にしてほしい。
 犬も可愛いけど、エリアーナはお花とかお星様とかそういうほうで例えられるのが好きそうだからだ。
 それをサーシャに伝えると「以後、気をつけます」と返ってきた。
 それでいい。

「今日の予定はお二つです。一つはダンスの練習、もう一つは魔法のレッスンです」
―――げ、ダンスだと?

 前世は体が弱かったので運動系は苦手だ。
 疲れるしできないとわかっているのでやりたくない。
 万年病室こもりの私を舐めるなよ?
 魔法の方がマシだ。
 むしろ、魔法の方が得意なので楽だ。
 私は楽をして早く読書をしたいのだ。

「ユリアーナ様がダンスを嫌いとしているのは存じております。しかし社交界では必須事項となっております。3日後にはパーティもありますし、立派な淑女となるためにも、ここは我慢してもらわなければ困ります」
―――……そうだ。

 こっそり魔法を使ってダンスができるようになればどうだろうか。
 パーティとかもそうしたら楽に終わる。
 気持ち的にもだ。

「こういうわけなので、頑張りましょうユリアーナ様。聞いてましたか?」
「うん、聞いてた」

 全く聞いていなかったがまあなんとかなるだろう。
 サーシャには軽く返事をしておく。

「では行きますよ、ユリアーナ様」

 サーシャに引かれて歩き出す。
 その途中のことだった。

―――!? なに、これ。

 魔力探知にいびつなものが引っかかる。
 とても気持ちが悪い。
 人間に害を為す魔物……ではない。
 あれはもっと禍々しいし、すぐに騎士たちが気づく。
 ぽっかりと穴が空いたように気配が感じられないのだ。

―――こんなの知らない。

 初めての感覚だ。
 言葉で表すと、魔力探知に引っかからないよう、魔力の素、魔素《まそ》そのものを遮断されているような感じ、というところだろうか。
 普通ならば何もないと判断できるが、これは人工的なものだ。
 どんなに魔素が少なくとも、一定の割合の魔素は空気中に存在する。
 なのにない。
 魔素すら感じられない。

―――なにか、いる。

 しかし今突っ込むのは危険だ。
 相手によるが、最悪の場合私も含め殺される。
 私は魔力探知で見張りながら、平常心を保つことに意識した。


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