28 / 158
第一部
27.妹パワーでなんとかしますか
しおりを挟む「ユリィ~~っ!」
「うぅぐ……っ」
日常と化したエリアーナのぎゅーに、私は思わず腹の底から声が出る。
エリアーナは日に日に抱きしめる力を増しているので、小さかった頃はまだ耐えられたものの、最近は一瞬息を止められるくらいになった。
しかしエリアーナの愛情から来るものだと知っているので、避けたりなどしない。
……すごく苦しくなってきているが、ここは愛の力でなんとかするしかない。
(※なんとかできるものではありません)
「エリアーナ様。お時間です」
「むぅ……」
不満そうな表情だ。
私は少しでもエリアーナの不満をなくすことにした。
―――妹パワーでなんとかしますか。
大事なのは上目遣いと言葉選び。
妹の可愛さと抜群の威力を持つ言葉で今日は諦めてもらうしかない。
「エリィ姉さん」
「なあに、ユリィ?」
とくと見よ、私の練習した最高の妹を!
「エリィ姉さんは私の自慢のお姉様です!」
「! どうして?」
「メイドさんたちが言ってたのです! エリィ姉さんは文句一つ言わずに毎日お勉強もお作法も頑張っていると! だから私もエリィ姉さんのような立派な淑女になるために頑張ります!」
「ゆ、ユリィ~~っ!!」
言われて嬉しいことを言うことで気持ちや好感度が上がることは今世でも変わらない。
エリアーナはクソ王子の婚約者になった日から更に努力を続けている。
この調子で頑張ってほしい。
「私、頑張るわ!」
「はい、頑張ってください、エリィ姉さん」
手を振ってエリアーナと別れる。
すると、後ろで控えていたサーシャが話しかけた。
「ユリアーナ様」
「なにかしら」
「とても失礼なことを申しますがよろしいでしょうか」
「? どうぞ」
サーシャがそんな風に切り出すのは珍しい。
何を言うのだろう。
「ユリアーナ様が調教師に見えました」
「……調教師? 誰を調教してると?」
「……エリアーナ様をです」
―――わからなくはない。
たしかに私とエリアーナのやりとりを第三者視点で見ると、私が調教師、エリアーナが忠犬に見えるかもしれない。
少し納得した。
しかしエリアーナは犬ではない。
むしろ例えるなら花にしてほしい。
犬も可愛いけど、エリアーナはお花とかお星様とかそういうほうで例えられるのが好きそうだからだ。
それをサーシャに伝えると「以後、気をつけます」と返ってきた。
それでいい。
「今日の予定はお二つです。一つはダンスの練習、もう一つは魔法のレッスンです」
―――げ、ダンスだと?
前世は体が弱かったので運動系は苦手だ。
疲れるしできないとわかっているのでやりたくない。
万年病室籠りの私を舐めるなよ?
魔法の方がマシだ。
むしろ、魔法の方が得意なので楽だ。
私は楽をして早く読書をしたいのだ。
「ユリアーナ様がダンスを嫌いとしているのは存じております。しかし社交界では必須事項となっております。3日後にはパーティもありますし、立派な淑女となるためにも、ここは我慢してもらわなければ困ります」
―――……そうだ。
こっそり魔法を使ってダンスができるようになればどうだろうか。
パーティとかもそうしたら楽に終わる。
気持ち的にもだ。
「こういうわけなので、頑張りましょうユリアーナ様。聞いてましたか?」
「うん、聞いてた」
全く聞いていなかったがまあなんとかなるだろう。
サーシャには軽く返事をしておく。
「では行きますよ、ユリアーナ様」
サーシャに引かれて歩き出す。
その途中のことだった。
―――!? なに、これ。
魔力探知に歪なものが引っかかる。
とても気持ちが悪い。
人間に害を為す魔物……ではない。
あれはもっと禍々しいし、すぐに騎士たちが気づく。
ぽっかりと穴が空いたように気配が感じられないのだ。
―――こんなの知らない。
初めての感覚だ。
言葉で表すと、魔力探知に引っかからないよう、魔力の素、魔素《まそ》そのものを遮断されているような感じ、というところだろうか。
普通ならば何もないと判断できるが、これは人工的なものだ。
どんなに魔素が少なくとも、一定の割合の魔素は空気中に存在する。
なのにない。
魔素すら感じられない。
―――なにか、いる。
しかし今突っ込むのは危険だ。
相手によるが、最悪の場合私も含め殺される。
私は魔力探知で見張りながら、平常心を保つことに意識した。
136
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)
犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。
『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』
ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。
まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。
みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。
でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる