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第一部
28.すご、初めて見た
しおりを挟む魔法のレッスンを終えると、私は部屋に一人で閉じこもった。
この時間は静かに一人で読書をすると決めているし、それを屋敷の人はわかっているので誰も近づかない。
私はそれを利用して、私の部屋の周りに人がいなくなったことを確認すると、背後にいる人物に声をかけた。
「そこにいるんでしょ。出てきなよ」
歪な気配が消え、私以外いるはずのない部屋に、私じゃない人の声が響いた。
「やはり気づいてたか」
―――青年……いや、この高さは少年ってところかな。
どちらにせよ、男に間違いはなさそうだ。
私は振り返らない。
役職によっては、見ただけで殺される。
この世界にはいるのだ。
暗殺者と呼ばれる者が。
「あなたは?」
「わからないか? 暗殺者と呼ばれる者だ」
―――ま、異世界だからいて当然とも言えるけどね。
そのぐらい貧困民がおり、需要があるということだ。
それはどの世界でも変わらないらしい。
「標的は私?」
「あぁ、そうだ」
暗殺者は銃を私の首元に当てた。
―――すご、初めて見た。
黒くて綺麗だ。
普通だったら怖がるところなんだろうな、この場面。
あるあるだからあんまり驚かないけど。
あ、ちなみに銃を構えてることがわかるのは私の魔力探知の精度がとんでもないことになっているからだ。
もちろんそうなった要因はクソ王子対策である。
金髪碧眼の奴はすぐに察知されるようになっているので、王宮図書館では安心して読書できるはずだと思っている。
「お前を殺すのが今回の俺の仕事だ」
「それは困るよ。まだ全然本を読めてないんだよね。世界中の本全てを読み終わった後なら殺されてもいいんだけど」
「噂通りの本好きだな」
「へぇ。知られてるんだ」
「有名人だよ。幼少期に筆頭魔術師級の魔法を放った天才児で」
「え、マジ?」
「まじ……?」
「あー、えっと、本当?ってこと」
「そうなのか。理解した」
本気と書いて本気《マジ》と読む。
しかしそれは前世の常識であってこの世界では伝わらない。
いけないいけない、すっかり忘れていた。
サンキュー暗殺者。
おかげで思い出せたよ。
「というわけだから。……ユリアーナ・リンドール。お前には死んでもらう」
「え、嫌です」
千冊も読んでないのに死ねるか。
本を読み漁れてないし、夢の本に埋もれて呆れられるっていうお決まり&定番のこともやってないし、王宮図書館にも全然行けてない。
―――公爵令嬢をなめるなよ、暗殺者。
私はいくつもの魔法を発動させる。
―――【創造】【促成】【拘束】【束縛】【氷結】……。
「!」
【創造】で種子を作り【促成】させ、【拘束】、【束縛】する。
それだけでは心許ないので【氷結】で凍らせた。
プラスしてちょいと細工をしておく。
―――これくらいでいいか……なっ。
バンッ!と銃声が響く。
私の頰に掠る。
危ない危ない。
避けて正解だったぜ。
私は暗殺者に視線を向けた。
―――おぉ……。
暗殺者はミッドナイトブルーの短髪に、黒曜石の瞳の少年だった。
服装は全て黒で統一されている。
目つきが厳しいのは暗殺を生業としているからだろうか。
歳は私と同じくらいだ。
―――んー、予想はしてたけど、色ありキャラクターでしたか、暗殺者くんよ。
まさかの悪役系色ありキャラクターの登場に目を瞬かせる。
「あなた、賢いのね。普通はそっちを攻撃するんだけど」
私は植物の【拘束】を指した。
「術者を殺せばこれも消える。術者を殺す方が手っ取り早い。まさか、掠るだけだとはな。ただの本好き公爵令嬢ではないということか」
転生者でーす、だなんて言えない。
銃弾を避けられたのは密かに行なっている【身体強化】のおかげだ。
最悪当たっても【治癒】で一発だけどね。
―――【破壊】
「っ!」
銃を【破壊】し、武器を一つ無くす。
この部屋には【防音】を施した【結界】を作ってある。
また窓には【幻像】でいつもと変わらない世界を映し出している。
誰もこの部屋で私が暗殺者と対峙しているとは思わないだろう。
「じゃ、教えてね。あなたのこと」
暗殺者は険しい表情になるのだった。
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